第37話 三つ巴の争い
ぱちぱちと火の燃える音がする。
視界は悪い。熱線がえぐった地面の土砂が風に巻き上げられて、周囲に漂っているからだろう。
よろよろと体を起こし、辺りを見回した。
ーザーブレスの直撃コースに居たディスティさま──もとい、シルフィールさんは……?
「ったく。ほんと、羨ましいぐらい愚直なことで……」
砂煙が晴れる。
爆心地には、剣を片手に立つディスティさまと、その背の後ろで身を丸めるシルフィールさんの姿があった。
どうやら──ひとまずは無事らしい──。
相変わらずの人間離れした術理で、レーザーブレスを受け流したといったところか……。
でも、あの黒い剣。わたしの見間違いでなければ、虚空から突然現れたように見えたけど……?
「おい。無事か?」
ガーラさんがわたしの傍にやってきた。
「はい……。他の皆さんは……?」
「無事だよ。衝撃に吹き飛ばされて頭を打った奴がちらほらってところだが」
……確かに。気絶している人と、それを助け起こしている兵士の方々が遠目に見える。
「それよりも、まずいことになった」
「え?」
その言葉の意味をわたしが理解するより先に。
「≪フレア・バースト≫!」
リオさんの魔法が炸裂した!
狙いはゼルスさんだ。
すかさず灼熱の炎で彼はこれに対抗するも、リオさんは攻撃の手を緩めない。
いけない。止めに入らないと──!
「待て」
駆け出そうとしたら、ガーラさんに腕を取られた。
「なんで止めるんですか!? 急がないとゼルスさんがッ!」
「落ち着けって。今ここであのドラゴンの味方をしたら、本格的に残りを全部敵に回すぞ」
「──あ──」
そこでようやく、自分の中の冷静なところが目を覚ました。
さっきまでの時点で一触即発だったんだ。
それが破られた以上、もうこの流れは止められない──。
「ドラゴンの注意はアタシが引くわ! 全兵、班長の指示に従って怪我人の救援と撤退を急いで!」
魔法でゼルスさんの気を引きながら、彼女は近くの兵達に指示を飛ばしていた。
リオさんは完全に戦闘態勢に入っている。
当然だ。レーザーブレスや炎による抵抗をゼルスさんが見せた以上、今の彼女にはそれをどうにかしなくてはいけない義務がある。例えドラゴンという強敵が相手でも、彼女は戦いを厭わないだろう。
リオさんの立場的にも、リオさんの性格的にも、それは確定的だ。
「退去の確認が取れ次第、≪グランドフレア≫をぶちかますわ!」
耳馴染みのない魔法名だ。
文脈から察するに、広範囲でかつかなり強力な攻撃魔法のようだけど。
「──≪グランドフレア≫は流石にまずいな」
わたしと同様、聞き耳を立てていたらしいディスティさまが何か呟いている。
「シルフィールさん。ボクは加勢するフリをしてそれとなく場を荒らしてきます。こうなったら混乱に乗じて回収するしかなさそうなので、アナタは早く傷を治してボクのカバーに入ってください」
「はい──」
弱々しくもしっかりした返事をするシルフィールさん。
いよいよもって、混戦は避けられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
リオさんが魔法弾を放って、ゼルスさんを攻撃する。
そこへディスティさまが幾重もの短剣を投擲し、リオさんの魔法弾の妨害と、ゼルスさんへの牽制を試みる。
ゼルスさんは自分に迫る脅威を退けるべく、二人の攻撃をその巨体で打ち払い、反撃のブレスを放つ。
予断の許されない攻防戦だ。
これじゃあ、手を出したくても出せない。
戦いの様相は、完全に強大なる竜の討伐という構図になっている。
誰かの目的が達成されるまで、彼らは戦いを止めないだろう。
事態の収束は、絶望的だ。
「さて。どうする?」
ガーラさんがわたしに尋ねた。
「ここで諦めておくか? 別にそれも悪くない決断だとは思うけど…」
「──いいえ。諦めません」
「その心は?」
「わたしが諦めたら、彼は本当にひとりになってしまいますから」
「……そうだな。馬鹿な問いかけだった」
こきこきとガーラさんが首を回す。
「おーし。そういうことなら手伝うぜ」
「いいんですか?」
「おー。誰かを助けたいと思う心自体に、間違いはないからな。ま、やり方が最悪だったら話は別なんだけど」
「分かっていますよ。……ありがとうございます、ガーラさん」
すべきことは明確だ。
どなたにも害が及ばないやり方で、この場からゼルスさんだけを連れ出す。
そのために必要なものは──と、わたしは周囲を探る。
何をするにしても、まずはあの戦いを中断させないと。
争いの渦中に突っ込むのはなしだ。ガーラさんならまだしも、わたしがあの攻防戦に加わるのは自殺行為が過ぎる。
じゃあどうするか。
ずばり。お三方の気を引く事態を起こす。
そして実を言うと、それ自体の心当たりは既についていた。
「──いた──」
そこでわたしは、ガーラさんに作戦の趣旨を伝えた。
「なるほどなー。またえらく大胆な内容なことで……」
ガーラさんが渋い顔で口を尖らせる。
「……不服そうですね?」
「不服っつーか……。あー、あとでシーナに絶対どやされるなーって……」
「大丈夫ですよ。わたしだってもう子供じゃないんです」
「子供とか大人とか関係ない心配なんだよ。……とはいえ、折れる気はこれっぽっちもなさそうだよなー、おまえ……は~、こんなところだけ姉妹で似るなよなー」
がっくりと項垂れるガーラさん。
「ま、仕方ないな。ここまできたら、やれるだけやってみよーじゃないの」
「ありがとうございます!」
「ただし、一個だけ約束していけ。こっから先、絶対に自分の身を下手に蔑ろにすんなよ。どんな理由があってもだ」
ぶんぶんとわたしは首を縦に振った。
「あとはそーだな……シーナへの伝言はあるか?」
「そうですね……。それじゃあ、『父さんと母さんのことは姉さんに任せるね』と、『わたしのことは心配しないで』で、お願いします」
「……分かった。頑張って忘れずに伝えるよーにするよ」
わたしはぱんぱんと頬を叩き、ガーラさんは伸びをする。
「それじゃ、いっちょ打ってでますかね──」




