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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
6章 城下町で弾けるは、誰の悪意か?
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第29話 黒い処刑人が嗤う

 わたしはフリーズしていた。


 すぐ隣には、普段通りに笑うディスティさま。

 少し離れたところには、うずくまって倒れているゼルスさん。


 ……ゼルスさんのせいで森は襲われた?

 そしてゼルスさんは、それを詫びたくて……あんなことを……?


 あぁ、やっぱり駄目だ。

 何度考えても、理解が追い付かない──!


「ところでフィナさん」


 床でへたるわたしに、ディスティさまが世間話の調子で声をかける。


「……は……? な、なんでしょ」


 返事は最後まで続けられなかった。

 彼の黒い眼が、わたしを見据えていたからだ。


 ──背中に走る悪寒。

 これは、と既視感を抱いた瞬間、



「災難続きのところ恐縮なのですが、ちょっと死んでください」



 そう言って。

 神官は、いつのまにか手にしていた剣を、わたしに振り下ろした──



 がしゃあっ!



 間髪入れず訪れたわたしの死に目はしかし、寸前のところで失せる。

 黒い神官の凶手ごと、銀の巨腕が薙ぎ払ったからだ。


 ゼルスさんだ。

 どうやらあの一瞬で、剣ごとディスティさまをぶん殴ってくれたらしい。


 まともに喰らったディスティさまは壁に体を打ちつけていた……が、


「あいたたた。さすがに直撃は痛いですねえ」


 すんなりと彼は体を起こしていた。

 その殺意のにじんだ目は、依然こちらを見ている。


 ……わたし……いま、殺されそうになった……?


 遅れて、そんな理解がやってくる。


 ……でもこれは、なにも今だけの話じゃ、ない?

 だって、

 この町に到着した、時も。

 彼は、わたしに殺気を向けてた。剣に手をかけていた。

 あと少し()()が遅かったら、たぶん、今みたいに斬り殺されていて──



「っ、ぅぅ……っ!」



 今度こそわたしは、誤魔化しようがない恐怖に身をすくませた。


 な、なんで……?

 どうしてわたし、あの人に殺されそうに──


「フィナ」

「ゼルスさん……?」

「逃げるんだ。アイツは……僕が相手する」


 殺気まみれの敵から目をそらさず、ゼルスさんが言う。


「あのクソヤロウは、なにも本気で君を害したいわけじゃない。だから、逃げるんだよ」

「ほ、本気で……? じゃあなんで、あんな……」

「……。ごめん」


 ゼルスさんがわたしのほうを振り向く。

 その瞳は、なぜかとても穏やかで……わたしは、たまらなく不安になった。



「それじゃあね。ばいばい」



 それを皮切りに、ゼルスさんは()けた。

 黒衣の神官を目がけて、まっすぐに。


 どぐがぁん!


 そのまま、壁を突き破って外に飛び出す!

 ドラゴンの巨体にあんな勢いで迫られたら、ただでは済まないだろう。

 実際、今の衝突に巻き込まれたディスティさまの姿は見当たらなかった。 


 だけど、


「だ、だめ! ゼルスさん、その人は──!」


 わたしは思い出していた。

 町の正門で別れる間際、ガーラさんが言っていたことを──





「ぶっちゃけ。有事の時はあの神官様より、自分の身を第一に動いとけ」

「え?」


 それは……警護として雇われているのに、いかがなものなのだろう?

 そんなわたしの動揺を察したのだろう。ガーラさんはこう続けた。


「心配しなくても、あの神官様は簡単にやられないタマだよ。

 さっきのブレスも寸前までは射程圏内に居たのに、ギリギリのところで外れてたし……単純な身体能力なら、たぶん俺より動けるぜ。あいつ」


 そう語ったガーラさんのディスティさまを見る目つきは、険しいものだった。


「ひょっとしたら、あいつ自身が()()なのかもな。

 なんだっけ? 大戦を鎮めた、教会にある処刑部隊──」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 砂埃が舞う中、わたしは二人の後を追って外に出る。

 館の周囲では火の手が上がっていた。


 燃える草木。えぐれた地面。倒壊した建物……。

 数刻前まではまだ庭園と評せたあたりは、雑草すら生きられない不毛の地と化していた。


 あの二人が飛び出してそんな間もないのに、これは──

 そうやって言葉を失っていたら、


 ぢゅいん!


 一条の光がわたしの視界に過ぎった。

 レーザーブレス──ゼルスさんがすぐ近くで戦っている!


 光が放たれた先を辿れば、宙に飛ぶ彼の姿を捉えた。

 その眼光の先には、城壁に佇むディスティさまの姿。


 幾度目かの熱線が黒衣を狙い撃つ!



 ばぢぃんっ!!



 ──直撃の瞬間。熱線は、粒子となって霧散していた。


 何が起きたのだろう?

 わたしの目ではとても追えなかった。

 確かなのは、黒の神官の剣がいつのまにか振り下ろされていたぐらいで──


 まさか……斬った?

 ドラゴンのレーザーブレスを、普通の剣で!?


 驚愕に目を見開くわたしをよそに、超人劇はまだ続く。


 ディスティさまが、飛んだ。

 正しくはジャンプした。

 自身の跳躍だけで、ゼルスさんの滞空高度まで上がったのだ。


 無論、そんな接近をゼルスさんは許さない。

 爪甲による迎撃に出て、



 ぱきぃっ!



 しかし。次のまたたきには、鉄すら切り裂く竜の爪は大破していた!

 瞬時にゼルスさんは身を切り返し、神官から間合いを取る。

 ディスティさまは重力に従って落下するも、接地の間際で剣を振るい、落下の衝撃を相殺してみせた。

 どうやら、そこかしこでえぐれている地面は、ああやって出来たもののようだ。


 いづれにせよ……こんな絶技、とてもじゃないけど只人に成せるものじゃない。

 それが答えだ。

 ここまできたら、もはや疑いの余地はない──。



「どうしました? まさかもう終わりじゃないですよねえ」



 何事もなかったかのように立ち上がったディスティ様が、不敵な笑みを浮かべる。そこには、今まで潜んでいたあざけりが満ちていた。




「今度こそ僕という処刑人を葬れるといいですねえ。絶滅危惧種くん」



 そう言って。

 黒衣の神官は、銀青の竜にほくそ笑んだ。

ここまで読んで下さりありがとうございました。6章・完です。

こんな状況ですが、あと2章で区切りがつきます。本当ですよ。

続きが気になったり、こちらの話がお気に召すようであれば、

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