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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
6章 城下町で弾けるは、誰の悪意か?
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第28話 それでもわたしは信じたい

「……お久しぶりです。助けてくれて、ありがとうございます」


 初めて会った時みたいに、わたしは深々と頭を下げた。

 彼からの返事はない。

 かまわずに、わたしは喋り続けた。


「ゼルスさんはどうしてここに? なにかご用があったんですか?」


 ずしん……


 無言でゼルスさんが背を向ける。

 まずい。このままじゃあ飛び去っていってしまう。


「っ、わたし、なにか粗相をしてしまいましたか!?」


 ヤケクソで想いの限りを叫んだ。



「──は……?」



 ぴたりと、ゼルスさんの足が止まる。

 戸惑いがちに、彼がこちらを振り返った。


 よかった。わたしの声が聞こえてないわけじゃない……!

 それなら対話の余地がある!


「ごめんなさい、急な話をしてしまって……。わたしのせいで何か不都合が生じて、居づらくなってしまわれたんじゃないかと案じていたんです」

「なにを馬鹿な……」


 目をしばたたかせながらうつむくゼルスさん。


「違うよ……。君の……君のせいなわけがない。君達のところから去ったのは、単に……僕の都合だ」


 噛み締めるようにゼルスさんは言う。


「だから君が気にすることなんて一つも──」

「じゃあ、あなたは何をしようとしていたんですか?」


 ぐら、とゼルスさんの瞳がぶれる。


 喰ってかかられるかと一瞬だけ身構えるも、次のアクションはなかった。

 長い逡巡(しゅんじゅん)の末──彼は低い声で呟いた。


「…べつに……大したことじゃない……。やるしかなかったことを、やっただけだ。だからこの町を壊した。君のお姉さんもあの剣士の男も、撃墜した。

 僕には──それしか思いつかなかった」


 ……!

 彼がここに居る時点で、よもやという懸念は頭の片隅にあったけど。

 それでもまさか、姉さん達が──そんな──



「……そうですか……」



 平静を装って、わたしはなんとかそう口にする。


「気丈だね」

「そんなことありませんよ。今すぐ安否を確認しに行きたいぐらいには心配です……。でも、二人は強いですから。ちょっと落とされたぐらい、へっちゃらなはずです」

「……そう。そんなに信頼が厚いんだ」

「あはは……身も(ふた)もないことを言うと、そう信じないと心が折れちゃいそうだから、ってだけですよ。

 そして……ゼルスさん。それは、あなたに対してもです」

「!」

「やっぱりわたしには、あなたの思惑が分かりません。ここまでの危険を冒して、あなたは何を……いえ。何が今のあなたを突き動かしているんですか?」


 気まずそうに、彼はわたしから目をそらした。


「なんでそんなことを聞こうとしてるんだよ。別に、なんだっていいじゃないか」

「だって、全然脈絡がないじゃないですか。町を攻撃したかと思えば、わたしはなぜか助けられちゃってますし……」

「たまたまだ。理由なんてない」

「なら、とっととわたしを捨て置いて逃げ帰るべきでしょう。それなのに……あなたは、わたしの話につきあってくださっている」


 眼前にそびえる彼の手指に手を伸ばす。

 ぴたり、と私の手のひらは竜に触れることを許された。


 ……駄目押しで、これだもんなあ。



「それは、どうしてですか」



 ゼルスさんが体を震わせる。

 こんなに大きな体をしているのに。今の彼は、迷子の子供みたいに怯えていた。



 ──これはあくまで、私の想像だけれども──



 ゼルスさんは、何がしかの理由で途方に暮れているんじゃないのだろうか。

 それこそ、森が襲われて呆然自失していた時のわたしみたいに。

 それでも何かに懸命にならざるを得なくて……その奮闘の結果が、これまでの行動なのではないかと、わたしは推察していた。


「……そんなことを知って、どうするんだよ……」


 消え入りそうな声でゼルスさんが呟く。


「あなたのことを知りたいんです」


 それを支えるように、わたしははっきりと口にした。


 ゼルスさんがしたことは、いけないことだ。それは否定しようがない。

 でも……そこに確かな理由があるなら、酌量はあってしかるべきなんだ。そうでないと()()()()()

 そもそも。生きているなら、悪いことをしない人なんて居ない。生きるということは、善い行いと悪い行いを積み立て続けることなのだから。

 だから、これまでみたいに「仕方がなかった」って割り切りたいから、わたしは──



 ………………ううん。

 そんなことよりも、わたしは……信じたかった。

 これまでの旅で、見てきた彼を。


 故郷を失って喪心(そうしん)していたわたしに、暴力を振るわなかった。

 旅の道中、至らないところばかりのわたしに温情をかけてくれた。


 あなたは知らないでしょうけど。

 わたし、それにすごく救われてたんですよ?

 世の中には、あなたのような(かた)も居るんだって、希望を持てたから。


 確かに、マイペースで周囲のことを省みないところもあったけど……。

 それでも彼は、荒事やこんな理不尽を好まない方だった。平穏を愛していた。


 だから、わたしは知りたい。

 今、わたしが彼に語りかけるのは、それぐらい私的な理由からだった。



「教えてください、ゼルスさん。わたしは……わたしはあなたの行いを、悪いこと、の一言で片づけたくないんです……」



 ゼルスさんから目をそらさず、わたしは返事を待つ。



「僕は……」


 口ごもるゼルスさん。

 ぱくぱくと口を開けては閉じてを繰り返すも……最終的には意を決して、



「僕は君に……謝りたかった」



 落ち着いた様子で、彼は告げた。





「君の村が襲われたのは──僕のせいだ」





◇◇◇◇◇◇◇◇





 …………え?



 衝撃過ぎる告解に、頭が真っ白になる。



「だから僕は……君達のもとから離れて……でも、踏ん切りがつかなくて……」

「ゼ、ゼルスさん。待ってください。意味が……意味が、分からなく、て」

「でも、そのせいで君は目をつけられてしまった。

 だから僕はせめて、どんな手段を使ってでも()()()を殺すと決めた──

 けど……それすら君を苦しめる結果になったみたいだね……」



 ゼルスさんがわたしを見る。

 その水晶みたいな瞳に、悲し気な色をたたえて。



「だから──ごめんね──」



 その時だった。

 早くて、鋭くて、質量のある──

 そんな横突きを喰らったゼルスさんが、吹っ飛ばされたのは。



 ぐごしゃあっ!


 彼の衝突と共に、けたたましい倒壊音と砂埃が立つ。



 な……なに!?

 怒涛の出来事に、わたしの頭はショート寸前だった。


 視界が晴れると──建物を突き破って、ゼルスさんが少し遠くの地面で身を丸めているところを視認する。



「──だっるいですねえ。子供のママゴトはもう十分です」



 ゼルスさんじゃない人の声が、わたしのすぐ隣でした。

 暗殺者(アサシン)かと誤解しそうなほど全身黒ずくめな──男の人。



「いやあ、災難でしたね。フィナさん」



 彼がわたしの名を呼ぶ。

 たった今、己の身の丈の十数倍はあったドラゴンを……ゼルスさんを薙ぎ払ったばかりとは思えない、普段通りの口調で。



「……ディスティ…さま……?」

「はい。ボクです」



 にこ、とかの神官様は笑った。

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