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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
6章 城下町で弾けるは、誰の悪意か?
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第26話 うさんくさい奴の言うことは信じるな

「フィナさん的には、この状況は好都合なんじゃないですか」


 彼がそんなことを口にしたのは、離れを目指して城内を走っていた時だった。

 わたしは目をパチクリさせる。


「ディスティさま、どうしたんですか? 急にそんな……」

「急でもないでしょう。そもそもアナタ達は、この城に用事があったからボクに同行していたのでは?」


 図星を突かれて、どき、と心臓が脈打った。


 ……誤魔化しが通じる雰囲気でもない。


 身を強張らせながらも、わたしは彼に応じた。


「いつから……?」

「そりゃ、はじめからですよ」


 あっけらかんと彼は言った。


「白紙になった依頼にこだわる時点で、狙いは報酬ではなく目的地……つまり、この町そのものだろうと察してました。

 でもまあ、それを『同じような目的の方々なら利用できる』で見過ごしたのはボクなので、フィナさん達に四の五の言うつもりはありませんよ」

「はい?」


 なんか、さらっと新事実が投げ込まれたような??


「おや。どういうことだという顔をしてますね。では──あれはそう、一ヶ月ほど前のことでした」


 呆気に取られるわたしなど差し置いて、ディスティさまはつらつらと語る。


「この地方で大戦時の遺跡が確認されたのですが、そこから厄介な遺物…『レムナント』とか呼ばれているんですけどね。それを持ち去った者が居るらしいんです。

 で。どうもそれがこの城の関係者みたいでして。この遺物の押収をすべく、ボクとシルフィールさんは派遣されたんですよ。同じような、というのはそういう意味ですね」


 赤裸々すぎる話にわたしは絶句した。


「そ……それじゃあ、道中で話していた、司牧訪問の話は……」

「建前ですね。あれも一〇〇パーセント嘘ってわけではありませんが……あ。ちなみに天啓云々かんぬんについては、ボクが思いついた真っ新なデマです」


 は??


「口実ってやつですよ。この仕事をしてると、他人を利用するのも一筋縄じゃいかないんです」


 こ……この方! とんでもない腹積もりの神官様だあ!?

 一体、この笑顔の裏でどこまでを見越していたの!??


 驚いてどん引きするわたしを意にも介さず、彼は話を続ける。


「で。フィナさんはここからどうされるのです? 今なら城内を調べ放題ですよ」

「ま……まさか! こんな状況じゃ、それどころじゃないですよ!?」

「おや。フィナさんらしいですねえ」


 ディスティさまが背を向けた。


「そういうことなら、ルクガン卿の依頼はフィナさんに任せます。ボクはその間で色々と済ませてくるので」

「え?」

「そもそもボク、治療魔法なんて使えませんし。はなから戦力外なんです。はっはっはっ」


 わたしはまたまたぎょっとする。


 じゃあサイファーさんの話をのんだのは、城内を大っぴらに散策する名目を手に入れるために……ってこと!?


「ではお達者で。あ、ボクの警護のことも気にしないでいいですよー」

「ちょ……! ディスティさまぁーー!?」


 わたしの返事も聞かず、彼は身を翻してどこかへ行ってしまった。


 ぴゅー、と。人の居ない吹き抜け廊下に、秋風が吹き込む。



 な……なんて御仁だ……。



 うさんくさい人だとは思っていたけど、それにしても時と場合を選んでいない。


 どうしよう……。ディスティさまを追いかけるべきなのかな……?

 でも後のことを託されちゃったし……それに、やっぱり怪我人のことは放っておけない。


「よし」


 ぱんぱんと頬を叩いて、わたしは気を取り直した。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 目的の館は、広々とした庭園の片隅にあった。

 あたりに人気はない。ドラゴン騒動で皆、出払っているからだろう。

 なんとなく庭園を見るも……冬が近いせいか、目立った草花もない。生い茂っているのは雑草ばかりで…素人目に見ても、しばらく手入れがされていない庭だと気づかせた。


 そんなことをしている間で、入り口の前に着く。


 ……静かだ。


 静かすぎる、と言ってもいい。

 怪我人が運ばれているにしては、おかしいぐらいに。

 流石のわたしも、それには勘づいていた。


 どういうことなのだろう。罠……?

 でも、なんのための?


 状況もサイファーさんの思惑も読めない。


 どうする?どうすべき?

 こんな時、ガーラさんなら…リオさんなら…姉さんなら……ううん、ダメだ。

 皆は今、ここには居ない。今、頼れるのは自分だけだ。

 時間は待ってくれないし、ここで足踏みしていても事態は転じない。

 何もしないのは嫌だ。


 だから──えーい、なるようになれ!


「失礼します!」


 勢いでノックして、わたしはドアノブに手をかけた。

 がちゃ、と鍵もかかっていない扉はすんなり開く。


 館の中は暗かった。

 明かりがついていない上に、全ての窓が雨戸で閉じられているせいだろう。

 換気も不十分なのか、重く湿った空気が体にまとわりつく。


 こつこつと、館内にわたしの靴音が反響する。

 ふと。その中に、異なる音が混ざった。


「……声……?」


 甲高い声だ。

 たぶん、女性だろう。


 音のする方へ歩むと、異臭がただよってきた。

 生臭くて、すっぱい……血臭の類。


 こつ。


 わたしの足は、大きな扉の前で止まった。

 声は、この先からした。


「──っぅ──はあ──……」


 深呼吸を一回。意を決して、扉を開ける。


 ぎぃぃぃ……


 開いた扉の先から、鼻をつまみたい程の異臭が流れ出る。

 そうして目に飛び込んできた光景に、わたしは、


「──っ……!!」


 息をするのも止めて、硬直した。





 天井の薄明かりが、ほんのりと室内を照らしている。

 床のあちこちに赤い斑が散っていて、部屋の中央の寝台にいたってはペンキをぶちまけたみたいに真赤だ。


 臭いの正体は…そういうことだろう…。


 でも──わたしが驚いたのは、そこじゃあなかった。


 部屋の一面に、重々しい装置が並んでいる。

 大きな水槽だ。

 水槽は着色された水で満たされていて、どこからか伸びたチューブ管が、中にあるものと繋がっている。


「……あ……」


 ふらふらと、足が心ともなく動く。


 だって、水槽の中には、


「とうさん」


 見知った人達が居る。


「かあさん」


 生きてるのか。死んでるのか。分からない。ひどい。


「み」


 んな、とは続けられなかった。



 がつん!



 強制ブラックアウト。

 その間がどれぐらいだったのかは、定かじゃない──

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