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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
6章 城下町で弾けるは、誰の悪意か?
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第25話 急転直下、本日はドラゴン強襲のお日柄で

「──そっか。見覚えがあると思ったら、ノーステリアの時の奴だったんだ。

 あいつ」


 姉さんがなにかを呟いている。


「そうだよね…。そういう連中だよね、あなた達は。やっぱ、()()()に無理してでも仕留めるべきだったな。──≪フライ・ハイ≫」


 はるか高所のドラゴンを睨みつけて、姉さんは飛行魔法を使役した。


「あのドラゴンは私が相手するから、今のうちに町の人達の避難を進めて!

 ノーステリアの二の舞にさせてたまるもんか…!」


 言うや否や、姉さんはドラゴンに飛びかかって行った。

 晴れ晴れとした青空に、姉さんが携えた魔法剣による軌跡が描かれていく……。


「大したものですね、彼女。ドラゴン相手に悪くない勝負をしておられる」


 空を眺めながら、ディスティさまが言う。

 こんな時でも、彼の物腰は平常通りで落ち着いていた。


「ですが敵はドラゴン。しかも空域を制しているときたら、白兵戦でしのげはしないでしょう。他にもやることが目白押しなので、役割分担をしましょうか」


 彼はわたし達のほうを振り向く。


「まず、シルフィールさんは住人の避難誘導・救助にあたってください」

「……かしこまりました」

「ボクは城に居るであろうルクガン卿に状況の打診をしに行きます。それに際し、お二人のうちのどちらかはボクの警護について欲しいのですが、よろしいですか?」

「元がそういう依頼だ。構やしませんが……ちょっと待ってくれ」


 ガーラさんがわたしに向き直る。

 地面でへたるわたしと視線を合わせるために、片膝をついて。


「というわけだ。おまえ、どうしたい?」


 どうしたい。どうして。どうすべき……?


 真っ白になっている頭で、ガーラさんの言葉を反芻(はんすう)する。


「……ガーラさんに任せます…。わたしじゃ姉さんの力になることも、あのドラゴンを止めることもできませんから……」

「なるほど。できるできないを吟味するのは、大事なことだなー」


 ふむふむとガーラさんは頷く。



「それで?」



 でも、当然のように次を促された。



「それで……それに……」


 口ごもりながらも、わたしは考える。


 どうして。どうして。どうして……………………やだ……。



「彼と戦うなんて……わたしは、とても……」


 涙目になりながらだったけど、なんとか心の底の想いを吐いた。


「おーし、上等な返事だ。それでいーんだよ」


 でも、ガーラさんはそれで納得してくれた。

 こんなわたしの泣き言を肯定してくれるのだから、本当にこの人には、頭が上がらない。


「それじゃ、神官様の警護は頼むぜ」

「……はい。ガーラさん……わたしのお願いを託していいいですか?」

「おー。まかせろ」

「まだ何も言ってませんよ?」

「分かるさ。シーナもあのドラゴンも助けてくれ、だろ」

「え……よく、分かりましたね……?」

「デカデカと顔に書いてあるからなー」

「ホント、ですか? それは……恥ずかしいな。お顔、拭わなきゃ」

「そーしとけそーしとけ」


 茶化すようにガーラさんは言う。

 ごしごしとわたしが袖口で涙を拭うと、ガーラさんは表情を引き締めて、


「いいか? くれぐれも気をつけろよ。こっからしばらく、おまえは単独行動になる。そしてあの神官様の警護につくってことは、この町の領主……例の失踪事件の黒幕かもしれない奴と対面することになるんだから」

「……はい。分かっています」


 もしもの時は、わたしが一人で頑張らないといけないということだ。用心しないと……。


 それ以外にもガーラさんは二、三ほどわたしに伝えて、立ち上がった。


「じゃ、町のことは頼んだぜ。……あ、大事なことを忘れてた。シーナが使ってた魔法、俺にもかけてくんない?」

「魔法具とかは持ってないんですか?」

「俺はただのしがない剣士だぞ。第一、そんな便利な道具があったら、大体は質屋行きだ」


 ふふん、と鼻を鳴らすガーラさん。

 ドヤ顔で言うことじゃあないです……。


「分かりました。それじゃあ、ガーラさんの装備に飛行魔法を付与(エンチャント)します。ただ、付与(エンチャント)には時間制限があるので、くれぐれも気をつけてください」

「分かった。サンキューな」

「はい。健闘を祈っています」

「そっちこそ。がんばれよ」


 そこで、わたしはガーラさんと別れた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 城壁が破壊され、町に火の手が迫り、ドラゴンが滞空している。

 この状況に、町中はパニックに陥っていた。


 逃げ惑う人々を尻目に、わたし達は領主の城に辿り着く。


「止まれ! 何者だ、貴様ら!」


 城のロビーに足を踏み入れると、衛兵達が迫って来た。

 いづれも見覚えのある青みがかった鎧をまとっていて、反射的に体が強張る。


 …落ち着け、わたし。今はそれどころじゃないんだから。


「教会から訪問に参った神官です。運悪く、町の入口でドラゴンの襲撃にあいましてね」

「神官だと? そんな者の入城は許可されていないぞ!」


 ドラゴン騒ぎでよほど気が立っているのだろう。彼らは今にも剣を突きつけてきそうな殺気をにじませている。


「さては貴様達があのドラゴンを呼んだのか!?」


 そして、いまいち話が通じていない。

 これには終始笑顔のディスティさまも眉をひそめた。


「ボク達も襲われたと言ったでしょう。落ち着いていただけませんか?」

「これが落ち着いていられるか! 太古の昔はドラゴンも女神の使徒だったのだろう!? ならば今も貴様ら教会とつるんでいてもおかしくないではないか!」


 ディスティさまが苦言をていしても、彼らは冷静さを取り戻してくれない。


 こんないさかいをしている場合じゃないのに…!



「ジョウジャクのくせに、よく回る口だ」



 ──誰がその言葉を吐いたのか、一瞬わたしは分からなかった。


 それぐらい、普段からは考えられないほどに物々しい声音だったから。



「ディスティさま……?」



 彼は何も答えない。

 口元は変わらず笑っていたけど……目が、笑ってない──。


 衛兵達も彼の気配にあてられてか、ガクガク震えだしてていた。



「──やめんかこの馬鹿者共がっ!!」



 高まる緊張感は、室内に響いた大声によってかき消された。



「申し訳ない。部下が大変な失礼をした」



 そうして階段から降りて来たのは、衛兵達の上官と見られる中年男性だ。

 厳かな造りの鎧からして、ひょっとしてこの人が──


「おや? 領主殿のお出ましですか」


 先の剣呑さはいずこへか、常の雰囲気に戻ったディスティさまが言う。


「……いかにも。このルクガン領を治めている騎士、サイファーと申す」

「どうも。神官のディスティと申します。こちらは護衛のフィナさん」


 ディスティさまの紹介に従って、頭を下げる。


 この人が、領主……。

 わたし達の森を襲って、皆をさらったかもしれない人──。

 一見は誠実そうな方だけど……気を抜くには、まだ早いだろう。


「部下の非礼をキチンとした形で詫びたいところだが……いかんせん、状況が切羽詰まっているのでな。すまんが、後に回させてもらっても?」

「構いませんよ。ボク達にも本題がありますし」


 胸に手を当てて、サイファーさんが安堵(あんど)の息をつく。


「寛大な心に感謝する……。お前達は元の仕事に戻れ。呆けている暇はないぞ!」


 彼の喝で、わたし達に詰め寄っていた衛兵達は散っていった。


「……それで。貴殿の本題とは、あのドラゴンのことでよいか」

「もちろん。現在、冒険者の剣士二名が足止めしてますが、突破されるのは時間の問題でしょう。早く討伐しないとあのドラゴン、この城に突っ込んできますよ」

「なぜ、そうと断言できる?」

「ドラゴンは凶暴ですが、賢い生き物でもあります。どこを叩けば人間の町がほころぶかなんて、奴らは十分心得ていますよ。あとは、そういう天啓を授かったからで納得していただけますか」


 少しの逡巡(しゅんじゅん)。サイファーさんは自身の眉間を指で揉んで……観念したように言う。


「……分かった……。貴殿らの天啓は、本当にその通りになると評判だからな」


 そうしてすぐ近くの兵を呼び止めると、


「住人を町の外に避難させるよう伝令しろ! 砲兵隊と魔道士隊は、引き続き胸壁からドラゴンを迎え撃っていけ!」

「は、はい!」


 ……これで少しは町の被害が抑えられるといいんだけど……。



「ときに神官殿。この流れで恐縮だが、貴殿達に頼みがある」


 改まって、サイファーさんが口を開いた。


「突然ですねえ。なんでしょう?」

「簡単だ。怪我人の治癒を手伝っていただきたい」

「──ほう」


 意外な申し出だったのか、ディスティさまが瞠目(どうもく)する。


「恥ずかしながら、今の我が城には治癒魔法の使い手が限られていてな。怪我人の治療が追いついていないのだ。なのでそちらを手伝いつつ、怪我を負った者達を城外に連れ出してやって欲しい」


 なるほど。わたし個人としては断る理由はないけれど、今のわたしはディスティさまの護衛役だ。彼の意思なくしてはイエスもノーも言えない。


 ちら、と横目で見ると、ディスティさまは思案するように頭をひねって、


「いいでしょう。承りました」

「そうか。ご協力のほど、感謝する」


 彼は重々しく頭を下げた。


「離れの館があるんだが、怪我人はそこに集めている。フローラという流れの魔道士に貸し与えた場所なので、多少とっ散らかっているかもしれないが…どうぞよろしく頼み申す」

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