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【1部完結】ひとりぼっちふたりの連れ添いまで冒険譚 ~少女とドラゴン~  作者: めーめー
4章 王都。新たな出合いと別れ
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第19話 泣きたいぐらい穏やかな道すがら

「ガーラ」


 兵舎の出入口でお二人に見送られる間際。

 ここまで言葉数が最小限だったセオドールさんが口を開いた。


「次のアイツの命日、お前は墓参りに来るのか」

「あー……行けるなら? おっさんは行くの?」

「さてな。分からん」

「忙しいの?」

「…忙しいというか…」


 セオドールさんは少し口ごもるも、


「丁度その頃に、子供が産まれそうでな」


 そう、薄く笑いながら告げた。


「あり? おっさん、もう居なかったっけ?」

「新しく、下の子がな」

「なるほどね。そりゃ、下手な予定を入れられないわ」


 ガーラさんが頭をポリポリかく。


「今は家族を大事にしてやれよ。墓参りなんていつでも出来るんだし…それこそ、子供が産まれて落ち着いたら、一緒に顔を見せに行ってやりゃいいよ」

「そうだな…。そうさせてもらおう」

「いやー、しかしめでたいね。おめでとな、おっさん」

「ああ。ありがとう」


 穏やかにセオドールさんは笑った。

 今まで顔色一つ変えなかった御仁だけど、私的なことではその限りでないらしい。


「ではな、ガーラ」

「おう。おっさんもルディスも達者でな。今回は助かったよ」

「次の訪問は借金返済の話であることを切に願います」

「…善処するよ…」


 お二人のコメントに、ガーラさんはしわしわ顔を作っていた。

 彼らにどういう過去があったのかは存じないけれども。

 こういうやり取りが出来る間柄を、気の置けない仲って呼ぶのかな──



「で? 教会、行くのか」


 兵舎を後にしてしばらくした後、ガーラさんが口を開いた。


「…そうね…。気乗りはしないけど、行ってみるといいんじゃない」

「さっきのリオさん、気乗りしない方の口ぶりには見えませんでしたよ…?」

「細かいことは気にするんじゃないわよ」


 ピタリ。

 そこで、彼女が足を止めた。


「どうかしましたか?」

「──ごめんなさい。さっきの詰め所に忘れ物しちゃったみたい」

「え。大丈夫ですか?」

「ええ。取りに戻るから、アンタ達だけで教会に行ってて」


 こちらの返事も待たず、パタパタとリオさんは走り去ってしまった。


「…忘れ物なんてするキャラじゃなくね? あいつ」


 その背中が見えなくなると、ぽつりとガーラさんが言う。


「誰にでもうっかりはありますよ。それにしても教会かあ……。ガーラさん、場所は分かります?」

「知らね」

「ですよね」


 予想はしてたけど、いざ当たると少し笑いぐさだ。


「えー。おまえまでそういう反応しちゃうの? 傷つくぞ、俺」

「悪気はありませんよ」

「なお酷くね?」

「そんなことありませんって」


 くすくす。わたしは小さく笑う。

 ガーラさんはじとーっとわたしを見ていたけど、最終的に「はあ」と息をついて、


「じゃ、探しに行くか」

「はい。そうしましょう」



◇◇◇◇◇◇◇◇



 街の人に道を尋ねて、教会までの道を辿ること数刻。

 わたし達は、人で賑わう大通りにやって来ていた。

 この通りを抜けた先の広場に、目的の教会があるらしい。


「ええ。教会ならこの道の先にあるけど…あなた達、あそこで結婚式でも挙げるの?」


 屋台のおばさんに道を尋ねたら、彼女はわたしとガーラさんを指してとんでもないことを言い始めた。


「ち、違いますよ!?」

「あら、そうなの? ふふふ。そんな照れなくてもいいじゃない。可愛い彼女さんねえ」


 全力で否定したけど、おばさんは真に受けてなさそうだ。


 本当に違うのに……!


「おばちゃん、この街は長いの?」

「当然じゃないか。アタシはこの王都生まれ王都育ちさね。それこそ、式だってあの教会であげてねえ」

「へえ。そりゃイイね」


 おばさんの揶揄も気にせず、ガーラさんは親し気に話し始めてしまう。


「イセリナはいい街でしょう?」

「そうだなー。昔から豊かで活気に満ちてて、人が優しい。文句のつけようがないよ。あと、心がキレイな婦人も多い」

「あらあら! 嬉しいことを言ってくれるねえ」


 手をぱたぱたさせながら、おばさんが頬を赤らめた。


「でも駄目よ。そういうのは好きな子だけにしてあげないと」

「はは。ちがいねーや」

「でもありがとうね。おばさん、柄にもなくはしゃいじゃったよ。…そうだ。よければこれ、持って行きな」


 屋台に並んでいた林檎のお菓子を二つ、渡された。

 丸々とした小さな林檎に持ち手の棒が刺さっていて、林檎には透明な膜がコーティングされているようだった。


「サンキュー、おばちゃん。おいしくいただくよ」


 遠慮することなくそれを受け取って、ガーラさんは歩き始めてしまう。

 置いて行かれないように小走りで後を追えば、


「そろそろ小腹が空く頃だろ。ほれ」


 二つある林檎菓子の片方を差し出された。


「い、いいんでしょうか…? あのおばさんの誤解も解けてませんけど」

「人の善意はありがたく貰っとくもんだぞー。誤解の件は…ま、明日には忘れてるだろ」


 おじおじと、わたしはガーラさんから林檎の菓子を受け取る。


「ちょっと休んでこうぜ」


 ガーラさんが近くの長椅子に腰かけて、自身の隣の空きスペースを叩いた。

 座れということだろう。


 確かに、この菓子は歩きながら食べるのは大変そうだもんな…。


「じゃあ…失礼します」


 だから、大人しく彼のお誘いに乗った。


「うん。うまいな」


 ぽりぽり食べるガーラさんの食べ方にならって、林檎にかじりついてみる。


 甘い。

 この林檎、飴でコーティングされてるんだ。


「林檎飴っていうんだよ。森じゃあこんなの食ったことないだろ?」

「そうですね…。すごく、美味しいです」

「そっか。あのおばちゃんも冥利に尽きるだろうよ」


 ぽりぽり、ぽりぽり。


 甘くて美味しい…けど。このお菓子、食べることに集中しないと上手く食べられないから、一度食べ始めると無言になってしまう。


 だから自然と会話はなくなって。

 会話がなくなると、他のことに意識がいく。


 大通りで無邪気に追いかけっこをする子供達。露店のアクセサリーを値切ろうとする若者。昼間から酒屋で盛り上がるおじさん達に混ざる傭兵……。


 こうやって街の一角でじっとしていると、住人の営みがより明確に感じられる。

 森の外にはこんな場所もあるんだなと、しみじみと思う。


「いい街だろ」


 林檎飴を食しながらガーラさんが言う。


「はい…。さっきのおばさんが自慢したくなったのも分かります。人間の大きな街って、どこもこんな平和な雰囲気なんですか?」

「場所によって雰囲気は多少異なるけどな。大きな国の都なんかは、だいたい防護結界で守られてるからモンスターや厄災を寄せ付けないし。お陰様で、どこも平和なもんだよ」

「そうなんですね…。すごいなあ」

「おまえの故郷の森にも結界はあっただろ?」

「この街と比べたら全然ですよ。結界の効果も侵入者を迷わせるってぐらいですし…。そういえば、ここの結界はどうやって展開させてるんでしょう?」

「トラ…えー…なんだったかな。とにかく、すごい動力源が街の中枢にあるって話だぜ」


 ガーラさんが林檎飴を食べ終える。

 残った棒を手持無沙汰にぷらぷらさせながら、彼は口を開いた。


「シーナが気にしてたけどさ。実際のところ、その後はどうなんだ?」

「またその話ですか? もう…姉さんもガーラさんも心配性ですね」

「んー…そりゃ、心配にもなるだろ」

「ちゃんと元気にやってましたよ。この通りです」


 ふんっと上腕の力こぶを叩いて、すこぶる元気なことをアピールする。ガーラさんは「そういうことじゃないんだよなー…」と目を細めるだけだったけど。


「にしても、よく俺とシーナを探せたな?」

「ゼルスさんとリオさんに会えたお陰です」

「あー…あの女は手段が的確だから、まあ分かるとして…。ゼルスってのは、あのドラゴンの奴で合ってるよな?」

「はい。森が襲われた時、わたしを助けてくれたんです。たまたですけど…」

「ふーん…。そこからどうやってあのダンジョンに着いたんだ?」

「話せば長いんですが…」


 わたしは森を出てからのことを話した。

 森で危なかったところをゼルスさんに助けられたこと。町で助けてくれたリオさんが逆強盗をし始めてビックリしたこと。ゼルスさんがよく食べること。リオさんのギャンブルに巻き込まれたこと。何度も協力してモンスターや盗賊を撃退したこと……。


 いくらでも話せることはあった。


「リオさんとゼルスさん、すぐに揉めるんです。いえ、二人とも間違ったことは言ってないんですけど…お二人の意見は水と油みたいなところがあって」

「あー。成程な」

「だから度々、わたしが諌めることになったのですが…そこでわたしがもう少ししっかりしていたら、もっと平穏に済んだのかなぁ、と何度思ったことか……」

「別に悲観することはないんじゃね。雨降って地固まるなんて言い回しもあるわけだし」

「そうかもしれませんけど………?」


 そこで気づいた。

 ガーラさんが、いつの間にか笑っていたことに。


「あの。わたしの話、笑うところありました?」

「あー、うん。随分と楽しそうに話してたし」

「え」


 たのしそう…?


「大変だったけど、苦しさよりも勝るものがあったって感じで生き生きしてたぜ。なんだよ気づいてなかったのか?」

「………全然、ですね………」

「わはは。自分の心の機微には鈍そうだもんなー、おまえ」


 わたしは目をパチクリさせる。


『周りのことをよく見てるんだなー。すごいな、おまえ』


 二年前。わたし達の森に迷い込んだこの人は、いつも怯えていたわたしに、そんな言葉をかけてくれたっけ。


「…ガーラさんがおっしゃってたとおり…本当に、森の外は広々としていますね」

「んー…? まー、そりゃそうだろ。自分が知らないことをたくさん知れて、自分にはないものを教えてくれる奴らと知り合えるしな。旅や冒険の醍醐味ってやつだ」


 ……違いない。

 わたしにとってのその初めての例は、ガーラさんだ。


 森を立ち去る前にも、この人はこうやって冒険の楽しさを語ってくれた。

 二年前のことは、どの記憶よりもキレイにわたしの思い出にしまわれている。


「まあ…悪いことや苦労が付きまとうこともあるけど」

「それは、本当にそうですね」


 昨日今日のガーラさんを見てるだけでも、よく実感できたことだ。


「──いっそ、そのままあいつらとパーティーでも組んだらどうだ?」


 ガーラさんが言った。


「え…」

「もちろん、今の件が片づいた後とかで」

「で…でも、リオさんもゼルスさんも目的があるみたいだし…。わたしがお二人についていっても、迷惑ですよ」

「そんなの言ってみないと分からないだろ」

「それはそうですが」

「ははーん。さては怖いんだな?」

「そりゃ……怖いですよ……」

「お。素直でよろしい」


 わしゃわしゃと、ガーラさんがわたしの頭を撫でた。

 突然のことにどき、と心臓が高鳴る。

 この人的には、よく出来ましたと褒めただけなんだろう。

 それ自体は嬉しいけど……誰にでもこういうことをするのは、ちょっとどうかと思う。手つきも荒っぽいし……。


「もう! ガーラさん、髪が乱れちゃうからやめてください!」

「いやー。撫で甲斐のある頭をしてたから、つい」

「わたしの髪、整えるの大変なんですからね!?」

「すまんすまん」


 ガーラさんの手が離れていく。それにほんの少しの名残惜しさを感じながら、わたしは自分の長い髪を手櫛で整える。特に顔周りは重点的に。


「まー、まずは自分の気持ちに正直になるこった。何をするにしても、そこからだろ」

「……そうですね」


 やっぱり。この人は変わらないなあ。

 だらしないところもあるけど、強くて。頼りになって。優しくて──そして、


 …………やめよ。こんなの、考えても不毛だし。


「よし」


 活を入れる代わりに、がりがりと林檎飴を噛み砕いていく。

 これで気持ちの切り替えだ!


「ガーラさん、お待たせしました! ……? あらぬ所を見て、どうしました?」


 彼は教会までの道沿いとは真逆のほうを見ていた。


「いや。あそこの店のパンがうまそうだなーって思ってさ」

「今、食べたばかりですよね!? もう…買っていきます?」

「んー……いや。いいよ」


 あんな凝視するほど見てたのに要らないなんて…変なガーラさんだなあ。







「あいつ。なんであんな険しい顔でこっちを見てたんだろうなー…」


 彼のその小さな疑念は、わたしの耳には入らなかった。

冒頭の墓参りの人に関するエピソードはこちら(https://ncode.syosetu.com/n4743iq/)をどうぞ。

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