第18話 師団長との密談。解決の糸口は?
コンコンとノック音がした。
「失礼する」
「セオドール団長。お疲れ様です」
入室した人物に対して、すかさず席から立ち上がったルディスさんが敬礼する。
…この人が、セオドールさん。
まず、非常に大柄な方だ。
ルディスさんとは真逆の精悍な強面で、お声は渋くてどっしりとしている。
「ガーラか。息災しているか」
「あんたの部下に現在進行形で泣かされてる以外は元気だよ…」
「そうか。なら、何よりだ。
──ローラシア王国第一兵士師団長のセオドールと申す」
ガーラさんの嘆きは華麗にスルーして、彼はわたしとリオさんに頭を下げた。
わたし達も立ち上がって、お辞儀をし返す。
「お初にお目にかかります。魔道士のリオと申します。今はただの一介の旅人ですが……この度は、このような機会を作ってくださり誠にありがとうございます」
「フィ、フィナです。えっと…はじめまして…」
「我々にそう畏まることはない。どうぞ楽にしなされ」
そう言うと、セオドールさんはソファに腰を下ろした。
よかった…。怖そうな雰囲気があったけど、礼儀の正しい方みたい。
「時にガーラ。前に一緒していたエルフの女性はどうした。フられたか」
「俺がフられてる前提で話すなよ…。シーナとは別行動中ってだけ」
「ほう……。では、こちらの女性達とはどういう関係なんだ?」
「シーナの妹と、ずいぶん前から因縁つけられてる厄介魔道士……あいだだだだっ! 耳を! 耳をつねるなぁッ!?」
「うるさい。その減らず口が悪いんでしょうが!」
「……。気心が知れている仲なんだな……」
リオさん達のやり取りを真顔で見ていたセオドールさんが、静かに評した。
「いっつつつ……おっさんにはそう見えるの? 俺的には勘弁して欲しいんだけど…」
「お前の行動に起因するのだから、その方に文句をつける前に自分を改めろ。無礼者め」
怒るでも呆れるでもなく、セオドールさんは泰然と言う。
表情や声に変化がないので分かりづらいけど、気を悪くした様子はなさそうだ。
外見に違わず、大物な方みたい。
「……………」
「リオさん…? どうかしましたか?」
「なんでもないわ」
「そうですか…?」
なら、なんでそんな警戒するようなお顔をしていたのだろう…?
「それで、我々に何用だ?」
セオドールさんの一声で話題が切り替わる。
鷹揚にガーラさんがこれまでの経緯やここに訪れた目的を話すと、
「ハァ?」
間髪入れず、ルディスさんが信じられないといわんばかりに顔を歪めた。
「普通、そんなことを我々に聞きに来ます? どういう神経されているんですか」
非難たっぷりでご尤もなお言葉だ。
団長さんの方は沈黙を貫いてるけど…ガーラさん、ここからどう盛り返す算段なんだろ。
「でもおまえら、騎士と仲悪いでしょ」
ん?
「その考えを前提にしないで欲しいと言ってるんですよ。本来は望ましいことではないのですから」
「ルディスくんはー真面目だねー」
「茶化すなら追い出しますよ」
「すんません、俺が謝るから怒らないでください…」
仲が悪い…?
「どうして仲が悪いんですか? 同じ国に仕える方々なんじゃあ…」
「…そうですね。ただ、括りが違うんですよ。お嬢さん」
ルディスさんの返事にわたしは本格的に首を傾げた。
「ローラシア王国において、兵士と騎士は別のものよ」
そこで助け舟を出してくれたのはリオさんだ。
そろそろ恒例化しつつある、わたしへの説明タイムである。
「そもそもからして騎士って、貴族とかがなることが多くてね。逆に兵士は庶民や傭兵あがりばかりと、出自からして違うのよ。平時にしても、騎士は国から分与された土地を治める領主として働く一方、兵士は各領の兵として派遣されたり、王都みたいな要所の国防に勤めたりと、仕事が異なるって聞くし。
戦時には兵士も騎士も同じ国軍扱いになるけど、特権階級を有する都合上、騎士が兵士の指揮権を有することがほとんどで……とまあ、そんな具合に立場も普段の職務も違うから、兵団と騎士は犬猿の仲をやってるんじゃない? よくある話だわ」
「そういうことだ。ご理解が早くて助かる」
セオドールさんが肯首する。
「実情はそうですが……それでも我々と騎士は、共に王国に仕える軍人同士です。ですから、騎士側の悪事を知らないか? なんて、とても表立っては口にできないんですよ」
「表立ってなければいーんんだろ? じゃ、今は問題なしだ」
「それは私達のほうで決めることなんですよ…。全く……」
ガーラさんとの会話に疲れたのか、ルディスさんが眉間を押さえた。
「ルディス。この部屋の近辺に間者などの気配はないか」
「…確認済です。衛兵達も遠ざけてありますし、部屋には防音魔法をかけてあります」
「流石だな。助かる」
「貴方やガーラさんとは長い付き合いですから」
と、二人で話すセオドールさんとルディスさん。
「──ここからの話は内密にしてもらえるか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
……わたし達が頷くと、セオドールさんはピシッとしていた佇まいを崩して、ソファーの背もたれに寄りかかる。
そうしておもむろに、机の上のリオさんが持ち帰ったペンダントを手に取ると、
「このペンダントに入っている紋は、南西のルクガン子爵領を治める騎士一族のものだ。現在はサイファーという男が領主を務めている」
「随分前から、ルクガン子爵領内では不審な動きが見られています。特にここ数ヵ月は顕著なもので…。我々も一派の動向を気にはしていたんですよ」
すんなりと、彼らが有している情報を口にし始めてくれた。
「具体的には、目的不明の徴兵活動。用途の分からない物資の流入。度重なる遠征……尚、この遠征の目的地はダムレス地方です。逃亡したモンスターの討伐という名目ですが──先にうかがった話を鑑みると、別の目的があったと考えるのは容易ですね」
ルディスさんの説明にわたしは息をのむ。
それって、ほぼもう……。
「俺的には決まりに思えるけど…その情報だけじゃ摘発はできないの?」
「証拠が一切ありませんから」
「その騎士達に襲われたという証言者が居てもですか?」
リオさんが横目でわたしを見ながら、問う。
ほんの少し思考するも…ルディスさんは首を横に振った。
「少数では信用性に欠けると突っ返されて終わりです。規模が規模ですからね。仮に摘発に至っても、トカゲの尻尾切りで逃げられます」
「…そう。やっぱ現行犯逮捕ぐらいじゃないとってことか…」
リオさんがうなる。
「決定的な証拠が欠けている状況なら、騎士達の居城を探りたいわね」
「んー…でも、悪事を働いている自覚がある奴らって高確率で守りを固めてるからなー」
「勘がいいな」
ガーラさんの話をついで、セオドールさんが続ける。
「ルクガン子爵領の城下町は、半年ほど前から厳戒態勢が敷かれている。紹介状や身分証明書もないなら門前払いで終わるだろう」
「なるほど。じゃー、おっさん達から紹介状とか貰えない?」
「すまん」
「いやー、助かるねおっさん……え。ダメ?」
断られると思っていなかったのだろう。団長さんの返事にガーラさんがギョッとした。
「当然でしょ。それで有事が起きたら、責任追及を受けるのは兵団じゃない。しかも相手は自国の騎士の領主……リスクを踏まえると、安請け合い出来ない内容よ」
「お連れの方は理解が早くて助かります」
「んー…そっか。おまえやルディスがそう言うなら、本格的にダメそうだね」
お手上げのポーズをしながら、ガーラさんは残念がる。
…進展はあったけど、結局は自分達でどうにかしないといけないみたいだ。
次の目標は見えた。
じゃあ……ここからはどうするべきなんだろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「──そういえば。皆さんは唯一神様を信奉されてるのでしょうか?」
急に、ルディスさんが別の話をし始めた。
「俺がそんなのして見えるか?」
「見えませんね。なので、ガーラさんには聞いていません」
「ひど……」
うなだれるガーラさんを無視して、微笑を浮かべたルディスさんがこちらを見る。
この人を知らない女性が見たらうっとりしてしまう笑顔なんだろうけど…この人のやり口を垣間見てるわたしには、威圧的な笑顔でしかなかった。
「申し訳ありませんが、アタシは神サマを信じてないので」
「わ、わたしも信徒と名乗れるほどのものでは…」
「でも祈りは欠かさずしてるでしょ」
「習慣ってだけですよ」
「エルフ族の信奉は我々が知るものよりも古く厚いと聞き及んでいましたが…いやはや、習慣ですか。想像以上ですね」
き、聞かれてない!?
わたしの反応もなんのその、ルディスさんはスラスラ話し続ける。
「現在、この王都の教会には高名な神官様がいらっしゃってるのですよ。我が国の信徒の司牧…ひいては、生活視察のためだと聞いています」
「神官の訪問、ですか」
ルディスさんの言葉をリオさんは反芻して……不意に、したり顔を浮かべた。
「ありがたいことですね。さぞや、高尚な神官様なのでしょう」
「ええ、それはもちろん。信徒だけでなく、その土地に根差した民草を深く知るべく、道中の警護を冒険者に依頼されることもあるほどです」
「あら、それは本当に素晴らしい取り組みで。…ちなみに、神官様は次はどちらへ伺われるのでしょう?」
「南西のほうと耳にした気がしますけど…詳しくは存じませんね」
さっきの険悪さが嘘みたいに、リオさんとルディスさんの口は軽やかだ。
まさか……と、わたしの中で嫌な予感が膨らむ。
「きっとエルフ族のような信仰の厚い方の訪問は、神官様も喜ばれるはずです。なので、よろしければ教会に顔を出してみてはいかがでしょう?」
『いかがでしょう』という提案が『行け』という命令に聞こえるのはどうしてだろう…。
これみよがしなルディスさんの圧に、わたしは、
「…分かりました…。貴重なお話を、ありがとうございます……」
折れた。
折れるしかなかった、とも言う。
「いえいえ、とんでもない。こんなの、ただの世間話ですよ」
キレイに笑うルディスさんに対し、わたしはぎこちない笑みを返すばかりだ。
「ねえ、まさかさ」
話しの行く末を見守っていたガーラさんが口を開く。
「教会の神官を丸め込んで、ルクガン子爵領の城下町にうまく潜入して来いってたらしこまれてる?」
「さあ。ご想像にお任せしますよ」
くつくつとルディスさんが不敵に笑う。
やっぱり軍人よりも役者とかが向いてそうだな…この方…。
師団長がガーラの女関係に口すっぱくなってるのは、ガーラにはこの話(https://ncode.syosetu.com/n2073iq/)のようなロクデナシっぷりがあるからです。




