第16話 事情聴取としゃれこみましょう
──リオさんがノーステリアに訪れた時、街は酷い有様だったらしい。
ドラゴンが現れた辺りは顕著で、建物の倒壊はもちろん、地面はえぐれ、ある敷地にいたっては巨大な大穴が出来ていた。
そして、それと同じぐらい──ドラゴン撃退戦時の傷痕が、街には多く残っていた。
あちこちに生じた地割れ。断ち切られた水路。隆起あるいは沈降した地盤。
人々の住居だけでなく、土地そのものがズタズタになってしまっていた。
「…シーナは調子に乗るとなんでも斬っちまうからさ。向かうところ敵なしだけど、それだけに加減も下手くそになる。そのへんは、おまえさんのほうが詳しいだろ」
話の途中で、ガーラさんがそう口をはさんだ。
ドラゴンという脅威はされど、街に残された傷痕はあまりに深い。
加えて、これからこの街に訪れるのは北方特有の厳しい冬だ。
街の人達は、絶望していた。
だから、ノーステリアでドラゴン騒動を解決した後──姉さん達は、責められた。
街を守るべく戦ってくれたからって、関係ない。
それにしたってやり方があんまり過ぎたと責められた。
とても、とても。トテモ。責められた。
どうにかしようにも、一介の冒険者でしかない姉さん達に出来ることは少なかった。
街の復興に必要なものも、全く足りなかった。
食料、物資、人手、住居……お金。
姉さん達は理不尽なまでの借金や労働を請求されて、混迷していた。
そんな時に、リオさんはやってきた。
「災害時にはよくある仕方のない憤りだけど……だからって、誰かに全部押し付けるやり口はよくないわね。っていうか、見ていて気持ちよくないからそこまでにしてくれない?」
そこで彼女は、二人の借金の返済と、街の復興に必要な労働力や支援者の斡旋をつけてあげたらしい。
いいのか?と、ガーラさんが尋ねると、
「別に。こんなの、アタシがむしゃくしゃしたからやっただけよ。…ま、アンタには昔の借りもあるしね。だから今回のこれはツケにしといてあげるわ。
というか、そんなに不甲斐ないと思ってるなら、アンタ達、しばらくアタシの手伝いでもしなさいよ」
フタを開けてみれば。
姉さん達とリオさんの借金アレコレは、そういう話だったらしい──。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「──いやあ。そんな話もあったっけなー」
「そういう戯言を口にするなら、その口にグーパンをめり込ませるわよ」
「ハイ。この度は誠にすんませんでした……」
蛇に睨まれた蛙そのままに、ガーラさんが平謝りする。
第二ラウンドに入りそうだったリオさんをなんとかなだめて、リオさんの部屋に引き返してすぐ。姉さんとガーラさんを床に正座させると、リオさんは最後のチャンスといわんばかりに、二人に経緯の説明をさせていた。
ただ、ガーラさんはとぼけるし、姉さんは沈痛な顔をするばかりなので、イマイチ話が進まないでいる。
「……姉さん。この件について、わたしは全面的にリオさんの味方なので悪しからずです」
ビシッ!とわたしは姉さんの鼻先に指を突きつけた。
「大体、リオさんにここまでの恩がありながら、置いて行っちゃったのが酷いです。そんなの、リオさんじゃなくても堪忍袋の緒が切れちゃいますよ?」
「……それは、そうなんだけど……」
両のひとさし指をツンツンしながら、姉さんが呟く。
わたしはつとめて、穏やかな微笑を作った。
「なので、今の内にちゃんとワケの説明と謝罪をしましょう。姉さん」
「………」
ちら、と姉さんが横目でリオさんを見る。
二人を見るリオさんの眼光には「今すぐブチのめすぞ」という怒気がにじんでいたけど、子供みたいに怯える姉さんの目線を受けて、少しだけ態度を軟化させた。
「申し開きがあるなら言ってみなさい。許すか許さないかはそれ次第よ」
リオさんがそう言うと、姉さんはもにょもにょと話しはじめた。
「あの時は、一刻も早くノーステリアから離れたくて……それに、あんな巨額をリオから借りているのが、いたたまれなくて申し訳なくて……。だから早くお金を稼ぎたくて、それでローラシアに先走りしちゃって……」
がっくりと、姉さんがうなだれる。
「ごめんなさい……。良かれと思ったことで、リオに更なる迷惑をかけてしまって、猛省をしています……」
「……ふん。分かればいいのよ」
満更でもなさそうな口調で言うリオさん。
姉さんの殊勝な態度に、多少は気が晴れたのかもしれない。
いや。それにしても、ここまでのことをされたのに酌量を残しているリオさんはすごく寛大だなあ…。
「でも、ガーラと相談した時はそれで問題ないって言っていたから、リオとは事前に話がついていたものとばかり思ってたんだけど…そもそも、そこから違ったんだね」
「…なるほど」
きっとリオさんがガーラさんを睨んだ。
対するガーラさんは、目をそらして口笛をふいている。
……ここは後でまた一悶着あるかもな……。
「で? そんな頑張って稼いだなら、ツケの返済は出来るんでしょうね?」
ぱさっと手で髪をなびかせながら、リオさんが言う。
「あれから粛々とダンジョン攻略で稼いだ分はあるけど、足りる気は全くしないかな…」
「あのー…あと、差し出がましい話なんだけどさ。全財産を渡しちまうと当面の生活が侭ならなくなるんで、一週間分ぐらいの生活費は残してもらえるとありがたいっすー…」
「ちょっとガーラ。それは誠意に欠けるでしょ!?」
「誠意で飯は食えないんだって」
「だからって──!」
「アンタ達だけでグダグダ抜かしてないで、いいからよこしなさい」
「「はい」」
リオさんが凄みをきかせれば、面白いぐらい二人は黙ってリオさんに従った。
姉さん達のお財布と睨めっこして──最終的に、リオさんは諦めの息をついた。
「これなら全額も八割も大差ないわ…喜びなさい。
そこの男の要求をのんであげる」
「リオ…! ありがとうっ!!」
「言っておくけど、今はこれで勘弁してあげるだけだからね。まだツケがあることをゆめゆめ忘れんじゃないわよ」
「もちろん! また頑張って稼ぐから!」
「んー……ぼちぼちなー」
「……アンタ達ねえ……協調性がないのもいい加減にしなさいよ……?」
二人の発言の温度差に、頭を押さえるリオさん。
あのリオさんをここまでゲッソリさせるなんて、姉さん達はすごいな……悪い意味で。
「じゃあ私、早速仕事を探してくる!」
「そんなせっかちな…って、もう居ねぇ。少しはワンステップを踏めよなあ」
ぽりぽりとガーラさんは頭をかくと、おもむろに窓を開けて、
「おまえに見合った仕事にしろよー!」
外に駆け出して行った姉さんに向けて、そう叫んでいた。
「ねえ、フィナ」
「はい…?」
ちょいちょいと手招きしたリオさんの元に寄ると、わたしの耳元でこしょこしょと、
「実はアンタのほうがシーナの姉だったりする……?」
「……そんなことはないですよ」
よく父さんと母さんに「シーナが暴走しないよう見てくれていて、本当に助かってるよ」的なことは言われてたけど……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ。姉さんとこれからのことを話すの忘れてました」
森を襲った人達の手がかりを見つけたこととか話したかったのに……どうしよう。
「シーナにはしばらく黙ってていいでしょ。あの猪突猛進ぶりよ。犯人達の手かかりを見つけたなんて今の少ない情報を伝えたら、王城に乗り込みかねないわ」
……姉さんのことをよく知ってるわたしからは、とても否定出来ないのが辛いところだ。
「犯人の手かかりって、なんのことだ?」
と。わたしとリオさんの話が耳に入ったのか、ガーラさんが尋ねる。
「ねえ。アンタってローラシアに知り合い多いの?」
「えー……まぁ、そこそこか……?」
「そこそこね。使えるかしら」
「使えるってなんだよ。怖いな…」
「アンタの協力次第じゃ、ツケを少し帳消ししてあげてもいいわ」
「おし! なんなりと言ってくれ!」
ビシッとキメ顔をするガーラさん。
か、変わり身が早い…。
「仔細は割愛するけど。フィナ達の故郷を襲ったのがローラシア王国の騎士である可能性が高くてね」
「へー」
「で。たまたま、その騎士が所有していた紋所入りのアクセサリーを手に入れたのよ。これで相手の身元はバッチリ突き止められるんだけど…それをどこの誰に尋ねるべきか? って問題があってね。アンタ、なんか良案ある?」
「そうなんだ」
ぽへー、と応じるガーラさん。
……失礼ながら、話をちゃんと分かっているのかな?
「王国軍関係者に聞けばすぐなんでしょうけど…こんな話、大っぴらにできないので困ってるんですよね…」
あははと苦笑しながら、わたしは頬をかいた。
「ああ。ならそれでいいんじゃん」
……………はい?
「おし。それなら早速、王国軍のお偉いさんに話を聞きに行こうぜ」
先と変わらず。
なんてことなさそうな口調で、ガーラさんは言った。




