第15話 王都イセリナにて、姉妹の再会
ローラシア王国の首都・イセリナ。
白石の王城を望む城郭都市の日中は、賑やかなものだった。
大通りには品揃えに富んだ露店や屋台が並び、町人、商人、神官、冒険者と、多種多様な方々を見かける。
中には青みがかった鉄鎧をまとう衛兵の姿もあって……その度に、わたしの心にほんの少しの影が差す。
…あの中に、みんなを襲った犯人も居たりするのかな……。
そうやって窓の外の風景に目をやっていたら、コンコン、とドアのノック音。
「はい。どうぞ」
「フィナー、調子はどうー?」
入って来たのは姉さんだ。
「はい。ちょうど包帯の替えも終わったところです」
「その彼、ドラゴンでしょ? 放っておいてもその程度の怪我は治るって」
「早く治せるなら、そうしてあげたいじゃあないですか」
「もう…。ホント、フィナは優しいんだから」
ベッドで眠るゼルスさんは、昨晩からずっとこの調子だ。
これまでの疲れがどっと出たんだろう。夜の野営の時も馬車で移動している時も、ゼルスさんが休んでる気配はあまりなかったし…。
「看病のしっぱなしで疲れてるでしょ。下で軽食としない? フィナの話も聞きたいし」
「そうですね…。分かりました、そうします」
あのダンジョンを脱出した後。
わたし達は、この王都で取った宿で過ごしていた。
一階に下りる。
お昼にはまだ早いからか、食事処の人気はまばらだ。
「よーし。フィナ、好きなの頼みなよ。今日は姉さんの奢り! 久々の再会を祝してるんだから遠慮は不要だぞ」
隅っこの席についた姉さんがメニューを見せてくれる。
「ありがとうございます。そうですね…姉さんイチオシの料理とかってあります?」
「私のオススメはナポリタンセットかな」
「美味しそう! それにします」
「オッケー。おじさん、注文をお願いしまーす」
ハツラツとした姉さんの言動は、昔と変わりない。
姉さんが森を飛び出して二年が経つ。
元気してるか心配だったけど…森の外でも相変わらずのようだ。
「フィナはどうだった?」
「はい。毎日元気に過ごしてましたよ」
「ホント? 酷いことはなかった? 怪我とか、それこそ…」
「大丈夫でしたよ。…森が襲われて、みんなも居なくなっちゃいましたし…」
「その話はまだ早いでしょ……もう」
はあ、と息をついた姉さんがわたしの手を握る。
「フィナが無事で、本当によかった……」
…わたしの手を覆う姉さんの両手は、小刻みに震えていた。
「あなたにもしものことがあったら…私は、気がおかしくなっていたよ…」
「大袈裟ですよ、姉さん」
「大袈裟なもんですか。フィナはもっと自分を大事にしてよ。ぷんぷん」
「…はい」
──よかった。
この人がここまで心配してくれているなら、わたしは助かってよかったんだ。
「…ねえさん…」
自然と、自分の声が震えた。
今まで意識しないようにしていた不安が、胸底からじわじわと込み上げてきた。
「わたし…こわ、…こわか、った、です…」
目が熱くなって、ポロポロと涙があふれてくる。
「み、みんな。みんな、斬られて、連れてかれちゃっ、て」
「うん」
「わたし、なにも、なにもでき、なくて。も、しわけなくて」
「仕方ないよ。森の結界を破れる連中に攻め入られたのが運のツキだった。それは…絶対にフィナのせいなんかじゃない」
「それでも。これでよかったのかなって、ずっと。ずっと…不安で…」
「いいの。フィナは十分頑張った。…一人きりでよく私の元まで来てくれたね。えらいよ」
「わた、わたしひとりじゃ。リオさんや…ゼルスさんの、お陰で」
「そう。じゃあ、後でたっぷりお礼しないとね」
「は、い」
姉さんはひたすらわたしの話に頷いてくれる。
わたしが泣いてるせいで聞き取りづらいだろうに、嫌な顔を一つもしない。
「フィナ」
ぎゅっと、姉さんがわたしを抱き締めてくれる。
力強くてあたたかい、安心できる抱擁だ。
「本当に、よく頑張ったね」
いつだって姉さんはわたしに優しくて、私を大事にしてくれる。
「もう大丈夫だよ。フィナのことは、私が守るから」
──やっぱり。姉さんは、姉さんだ。
「はなし、無事に終わった?」
声をかけられる。
隣に居たガーラさんだ。
「はい…。もう、大丈夫です」
涙をぬぐって、わたしは返事する。
「そっか。よかったな」
ふっ、とガーラさんが優しく笑った。
「じゃあ、そろそろ助けてもらえない?」
……地べたでリオさんに首と顎を掴まれて体をエビ反りさせられているガーラさんは、さっきと同じ声のトーンでそう告げた。
「この程度で解放してもらえるなんて思うんじゃないわよ!」
「ぎゃあ! イった! 背骨がごきぃってすごい音を立てたからぁ!?」
…ある意味では締まってるんだけど……しまらないなあ……。
余談だけど。
リオさんがキめていた関節技は、キャラメルクラッチというらしい──。




