第13話 ドラゴンよ、大志を抱け
どん!!
僕が放ったレーザーブレスを受けて、ゴーレムの生成機関が大破した。
これで、ゴーレムのわずらわしさからは解放されるかな…。
そのまま数多の歯車で構成された他の部位も壊していく。
この場所には、どんどんと出てくるゴーレム共の元を辿ったら辿り着いた。
ヤツらは結構な数で徘徊していたけど、本気を出せればどうってことはない。
「それにしても、随分と奥まで来ちゃったな…」
地面を埋め尽くした瓦礫を足蹴にして、隣の部屋に移る。
すると、ドーム状の広間に出た。
先日寄った宿場が数個入りそうなほどの敷地に、高さ六〇メートはある天井。
そこはエントランスと同じ天体のステンドグラスになっているが、側面に張り巡らされたパイプと繋がっているせいか、歪な不気味さを醸し出していた。
「…また作品か…」
壁づたいには様々な彫刻が飾られている。
熊、兎、鹿などの動物。ゴブリン、オークなどのモンスターを象ったもの。竜、エルフ、人の彫刻に、生物とは形容しがたい抽象的な造形物の山……。彫刻の前にキャプションボードがあるから、いづれも『醜怪家』の作品なのだろう。
「ここから外への穴でも開けるか」
これだけ広ければドラゴン形態に戻っても自由が効くし、飛翔のスペースとしても申し分ない。
早速そうしようと、全身に力を入れた。
「!」
その直前で。
ステンドグラスの太陽から、光の柱が落ちた。
まばゆい光が晴れると、果たしてそこには天からの落とし物があった。
番人みたいな出現の仕方から、称するなら『ガーディアン』だろうか。
複数のリングが組み合わさった円球。それらがくるくる回る様は天球儀そのものだけど、そうと称するには中央の玉が歪だった。
太陽でも星でもないそれは、目玉である。
そんな球儀を支える土台はタコのような八本足で、うねると金属音がする。
極めつけは、全体に彫られた撚糸みたいな模様。赤く点滅するとどくどく脈動音を立てる様は、自らを生物だと謳っているようだった。
黒光りする耐魔金属で作られた、生物染みた動きを可能とする彫刻。
それがこの『ガーディアン』の全貌だ。
ハッキリ言ってひどいビジュアルだ。生物はもちろん、自然をも冒涜している。
それだけに、確信する。
これは正真正銘、『醜怪家』の手によるものだろう。
その危険性は、先のゴーレム共なんて目じゃないはずだ──
がたがたがたっ!
──『ガーディアン』が動き出す!
あの足でどうやってこんなスピードを出してるのだろうと思いつつ、風魔法による圧縮弾を数発撃ちこむも、ヤツは物ともしない。
予想通り、魔法は駄目か。
『ガーディアン』の足が僕に届く間合いに入った!
ドゥッ!
僕が放ったレーザーブレスが『ガーディアン』に直撃する。
城壁も貫通する威力があるのだけど、今回は『ガーディアン』を吹き飛ばすに留まった。
この程度の威力は微妙、と。
なら、出力を上げよう。
「────ッ!」
全身の力を発散するように吠えて、変形する。
竜の姿になった僕はすかさず飛翔し、先程よりもエネルギー順達率が好調したレーザーブレスを放つ。
寸前のところで『ガーディアン』はこれを回避し、代わりに広間の側面に穴が開いた。
…素早いけど、宙を制した僕からいつまで逃げられるかな。
攻撃を続ける。
地を這う『ガーディアン』を狙い撃って、その躯体を削いでいく。
そうしてレーザーブレスの射出を繰り返すこと数度。
不意に、『ガーディアン』の目玉が怪しく光った!
「!」
僕は放たれた白熱線をかわす。
──コイツ、撃ち返してきた!?
連続して行われる『ガーディアン』からの狙撃。
その精度は少しずつ正確に、そして僕のスピードに喰らいつくものになっていた。
彫刻の癖に生意気だ…!
旋回しながら、炉心からエネルギーを汲み上げて、
「置物なら大人しくしてろ!」
ありったけの灼熱を地面に向けて吐いた。
地表に高熱が氾濫すれば逃げ場はない。
岩をも熔かす炎に『ガーディアン』はすんなりとのまれてくれた。
そうして熱波が失せる頃。
広間に残ったのは、焦土と化したフロアと、炭みたいなスクラップだけ。
下降して、尻尾で小突いたら元『ガーディアン』は砂みたいに崩れた。
「よし」
片づいた。
撃たれた時は少し焦ったけど、滞りなく済んだ。
下手なことになる前に早く退散しよう──
『ころせ』
「────は?」
『ころせ』
『ころせ』『ころせ』『ころせ』『ころせ』
『りゅうは ころせ』
耳慣れない音と共に、天から無数の光柱が落ちた。
それも一つじゃあない。一〇、二〇、三〇……数えてられるか!
光と光の隙間に身を滑らせて回避はするも、ちょっとだけ羽に掠めた。痛い。
そうして光が収束する頃。眩んだ目を開けてみると、
「…最悪…」
そう吐いて捨てた。
両の指でも数え切れない『ガーディアン』が現れていたのだ。至極当然の吐露だろう。
「羽を生やしたヤツも居るし、アイツなんかは掘削機を装備してるな」
先程のものより改良された『ガーディアン』と見て取るべきだろう。
面倒だ。こんなのの相手はしたくない。即刻逃げたいけど……
「この数を前に、逃げるのは難しいか…」
…諦念の境地に至る。
仕方がない。大変そうだけど、そっちがそうくるなら全部スクラップにして、
「────」
赤い光の線が見えた。
なんだろうと理解するより早く、直感で僕は飛んだ。
ガツン、と鈍い音。
音のほうを見れば、僕が元居た場所に『ガーディアン』共の掘削機が喰いこんでいる。
こいつら、さっきよりも数段はやい──!
状況の悪化はそれだけに留まらない。
パァッ!
天井で眩い光がまたたいた瞬間、自分の体が異様に重くなって感じられた。
くそ、これじゃあ飛びづらい!
今の光の影響なのか!?
そういえば、入口に入った時も似たような仕かけがあったような──と思考にリソースを割いた、その時。
びゅんっ!
跳躍した『ガーディアン』数体が僕に迫ってきた。
体に取り付かれる寸前だったけど、なんとか翼で打ち払うことに成功する。
しかしヤツらの猛攻は止まらない。
追加で十機ほどが宙域に跳び込んでくる。
尻尾で払いのけて迎撃する。
次は視界の遠くでビームの射出準備をしているヤツがたくさん。
灼熱のブレスで焼き払う。
数に物を言わせて、天井まで登って降下してきた機体もチラホラあった。
しつこい──!
蹴散らしても蹴散らしても、ヤツらは群がってくる。
湯水のように『ガーディアン』達は湧いて出て。どんどんと早く、しぶとく、キリがなくなっていく
ああ。嫌な状況だ。
昔からこういうのは大嫌いなのに、なんでいつもこうなるんだよ…!
視界の隅で、地上の『ガーディアン』達の目玉が怪しく光る。
またビーム光線だ。
僕は旋回することでこれを回避する。
けど、その中には僕の死角に入り込んでいた光線もあって──
ちゅどん!
僕の意識は、そこで途切れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ぱちぱち、ぱちぱち。
ぐわんぐわんする頭に、火の焚ける音が甦る。
「──キミ達はいつだって愚直ですね」
みんなを■したクソヤロウが、僕を見下ろしていた。
「ドラゴンはいつもそうだ。最強種たる自分達ならどうにか出来ると慢心する…。仕組み上そうなりやすいのは理解しますが、そろそろ省みることを覚えて欲しいものです」
省みるってなんだよ。僕達が何をしたっていうんだよ。
なんで■されないといけないんだよ。おかしいだろ。
こんなの理不尽だ。不平等だ。ひどすぎる。
「何もおかしくありませんよ。命の価値は違うんですから。そうと定められた命は消費され、他の命はこれを糧に生存する。それがこの世界の道理なんです」
なに、それ。
だから■ぬの? だから■されるの?
お前達に負けた以上、生きる価値なんてないと断定されたから──?
「ま…恨むならご先祖様をお恨みください。ボク達が躍起にならざるを得ないような愚を犯した、ある意味では誠実過ぎた方々をね」
…■してやる。
■してやる。■してやる。■してやる。■してやる。■してやる。■してやる!
「それはおススメしません。
だってキミ……結局、一度もボクに勝ててないじゃあないですか」
──■してやりたい。
けど。
そう誓って。地に叩きのめされ続けて、どれだけの年月が過ぎた?
倒される度に嘲笑われて。命からがら逃げたのは、何回目だ?
…軽々しく世の道理を逸脱する連中が、この世界には存在してる。
だから理不尽はある。どうしようもないものはある。命は等価値じゃあない。
そんなくつがえせないものに抗い続けるのは、不毛だ。
だから、もういい。
わかったから。
復讐も、制勝も、証明も、もういいから。
だから、
だから……
「────っ……」
ずきずきと。
全身に走った鈍痛が鮮烈で、目を開けた。
…僕、何をして……そうだ。『ガーディアン』達の猛攻をさばき切れなくなったところを、ビームで撃たれたんだっけ…。
どれぐらい気絶していたんだろ。体、動かすの億劫だな……。
「────から」
…?
「死なないで。諦めないで」
だれだろう。
泣きながら、僕に治癒魔法をかけてくれている。
「死んでもいい命なんて、一つもないんだから…!」
………この子は、一人で何をしてるんだろう。
「……ひとりで……きた、の」
「はい」
「…死ぬよ…」
「リオさんにも、危ないって止められました」
「ばかなの? きみ」
「ぐうの音も出ません」
笑うなよ。そんな状況じゃないのは一目瞭然なんだから。
カチャカチャ
凶器を引っ提げた彫刻共がにじり寄って来ている。
…あぁ、クソ。抵抗しないと殺される…。
体がずきずきと痛んだけど、無視して立ち上げる。
「ゼルスさん、ダメです! まだ怪我が…!」
「うるさい」
こんな大群に襲われたら体が丈夫な僕はまだしも…だというのに。そんな悠長あるわけがないだろ。
「僕が飛んだら、元来た場所から逃げな」
「いやです。わたしも頑張ります」
「なんで」
「だって」
涙を拭いながら、彼女──フィナは言う。
「何もしないでひとりだけ助かるなんて。そんなの、もう嫌ですから」
その群青の双眸は、決意に満ちていた。
…そうか。
この子はそうやって自分の故郷を目の前で失ったのだから、こんなことで躍起になるのは当然なのか。
意固地になっている彼女を一人にしたら、きっとみすみす無駄死にさせる。
流石にそれは、度し難い。
……なら、仕方ない。
「僕のフォロー、出来るかい?」
「…! はい。任せてください!」
ぱぁっとフィナが顔を輝かせた。
ここまで散々、彼女の好意に付け入ったのだ。今更それを突っ返すのも違うだろうと自分に言い聞かせる。
だから──来いよ、醜怪なる置物共。
こうなったらどこまでも足掻いて目に物を見せてやる…!
ガシャァンッ!!
その時だった。
天井のステンドグラスが叩き壊され、砕けたガラス片が散らばったのは。
「あぶない!」
「きゃっ!?」
雨みたいに降る破片からフィナを庇いながら、目線を天井からそらさないでいたら…人の姿を捉えた。
太陽みたいな長い金の髪と、見る者の記憶に焼きつく鮮烈な美貌。
飛びかかった数多の『ガーディアン』を一刀両断して地に降り立つ様は、天から舞い降りた戦女神と称して妥当極まる。
長耳をさらしたエルフの剣士が、周囲の『ガーディアン』達を一望する。
戦慄する程に苛烈なカーネリアンレッドの瞳を前に、心を持たぬ『ガーディアン』達ですらたじろいだようだった。
「あれ」
その意識が、僕達に向けられる。
──ずきずきと、癒えたはずの古傷が悲鳴を上げた。
この剣士、あの時の……!
「フィナ? どうしてあなたがこんな所に居るの?」
「──シーナ姉さん!」
込み上げた恐怖に押し黙る僕に対して。
剣士に呼ばれた隣の女の子は、歓喜の声を上げていた。




