第11話 とある追求者のダンジョンとゴーレム群
青々とした緑しかない平原に、奇怪な建物があった。
直方体の巨石で構成された四角錐。
一度見たら二度と忘れられない造形は見事だけど、それだけに周囲から浮いてもいた。
「建物自体は年季入ってるけど、土地の痕は真新しいわ。突然どこかから移動してきたなんて話が上がるのも納得ね」
というのが地面を調べたリオさん談だ。
入口らしき場所から中に入ると、重厚な造りのエントランスに出迎えられる。
壁は材料が不明な赤褐色で、天井には壮麗なステンドグラスが張られている。そこには中心の太陽を囲うように月の満ち欠けや星がデザインされていて、この空間に神々しい雰囲気を与えていた。
空間の四方に複数の通路があったから、覗いてみる。
「ずいぶん深そうですね」
さらっと見た限りだけど、これを探索するのは骨が折れそうだ。
「そうね。なんらかの仕掛けもありそうなダンジョンだけど……どうしたものかしら」
腕を組んで、進むか引くかを悩まれるリオさん。
当初のゼルスさんとの約束を鑑みると、ここが引き際だと思うけど……あ。
「リオさん。あそこに大きな看板がありますよ」
「は? 看板……?」
わたしの視線の先には、白い石膏ボードがあった。
──わたしは後で知ることになるのだけど。それは、人間の街にある美術館という施設で見るキャプションボードというものだった。
綴られていたのは十文字ちょっとの文。
なになに、とわたしは読んでみる。
これも後で知ったことだけど、通常もキャプションボードには作品のタイトルや見出し、作者名ぐらいしか記されないそうだ。
「──”ようこそ、アトリエ『グレーテル』へ”…?」
それでも。
それだけで衝撃を与えるのが、美術品というものらしい。
「急いでここを出るわよ」
「そうだね」
リオさんの発言にゼルスさんが頷く。
お二人の声は常より低い。何かに焦ってる……?
ガコン!!
そんな音と共に入口が閉じられた。
素早く身構えられたお二人に続いて、索敵に移る。
生物の反応は感じられない。
けど近づいてくる。
どす、どす。
重量級の足音。
音の出所を見れば、その正体は一目瞭然だった。
「ゴーレム!」
わたしの叫び通り──通路の奥から現れたのは、わたしの身長の四、五倍はありそうな大きさの土人形!
「五、六…いえ、まだ後ろにも控えてる。色々な場所から足音が近づいてます!」
「そう。手厚い歓迎ね」
「どうするの」
「アンタとフィナでゴーレムの足止め。アタシの魔法で入口の壁をぶち抜くってのでどう?」
「…イイよ。なる早でよろしく」
「そっちも気をつけなさいよ。多分、奴らの数はどんどん増える。囲まれないように注意をはらいなさい」
「はい。任せて下さい!」
かくして、戦いの幕が切って落とされた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
どんどんとゴーレム達がやってくる。
ゼルスさんと二人がかりといえど、この数をまとめて相手取るのは危険だ。
だから地面に手をついて、強めの出力を回す!
「≪アース・インター≫!」
特定範囲の地盤に干渉して、隆起や沈降を起こす魔法だ。
周囲の地面を盛り上げて簡易な壁を作れば、狙い通りゴーレム達は行軍に支障を来たしていた。
これで多少は時間を稼げる。
その間、ゼルスさんはゴーレム達の気をその身で引きながら、超圧縮された空気弾の魔法を放つ。
ごぱあっ!
彼の魔法に穿たれたゴーレムが大破した!
「≪ロック・シュート≫!」
わたしも負けじと魔法で岩の弾丸を放ち、ゴーレムの破壊に努める。
掃討は着実に進んでる。
でも、ゴーレムは次々と湧いてくる。これじゃあキリがない。
「やりづらい」
「え」
不意に告げられたゼルスさんの小さな一言に、わたしは目を丸くした。
「やりづらいとは、どういう…?」
「こんな岩人形共、僕のレーザーブレスなら一瞬だ。ただ…」
ゼルスさんが横目でリオさんを見る。
…下手に自力を出すと、リオさんにドラゴンと勘繰られるから出来ないってことかな?
一方。そんなリオさんは、脱出口を作ろうと杖から爆炎を放っていた。
「≪フレア・バースト≫!」
レンガを粉砕して鉄壁すら突き破る威力を持った魔法だけど、今はそうはならない。炎の勢いが衰えても、壁は壊れずの侭だ。
「っ、壁の全部が耐魔金属で出来てるの!? 厄介ね……!」
ぱっと見ただけでも、かなり手こずってる様子だ。
どうにかこの場を突破する方法はないかと思案しながら、迫るゴーレムの足元を掠め取る魔法を発動させようと……
「あれ?」
わたしは目をしばたたかせた。
……今、天井のステンドグラスがチカチカしたような……?
パァッ!
その時、天井で溢れんばかりの光が輝く!
眩しい!
とても目を開けてられない──ううん、それだけじゃない!?
「魔法が!?」
今まさに使役しようとした魔法が発動しない!
まさか今の光の影響? 何がどうしてそんな──
「フィナ!」
リオさんの叫びにはっとする。
見れば、眼前に来ていたゴーレムの巨腕が振り下ろされようとしている瞬間。
あ。直撃する──
がきんっ!
しかし──予期していた衝動は訪れなかった。
反射的に頭を守ろうとした腕をとくと、紫紺のローブが目に入る。
「ゼルスさん!?」
どうやら、彼がゴーレムの攻撃を防いでくれたらしい。
まずい。流石のゼルスさんでも、ゴーレムの巨大な体積を受け止め続けるのは…!
「邪魔」
「きゃっ!?」
わたしの心配に反して、涼しい顔をしたゼルスさんに払い除けるように足蹴られた。
べちゃっとわたしは地面と熱い抱擁を交わす。
「いたた……」
「フィナ! 大丈夫!?」
「は、はい。なんとか」
リオさんがわたしに駆け寄る。
ゴーレムの攻撃を振り払って、ゼルスさんが淡々とわたし達に告げた。
「魔法が使えない足手まといは要らない。ここはどうにかするから失せてな」
「な……! アンタ正気!?」
リオさんが驚きに叫んでいたけど、わたしはゼルスさんの意図を察していた。
「リオさん! こっちです!」
彼女の腕を引いて、ゴーレムの気配がしない通路に駆け込む。
ドォォォォォォンッ!!
辺りを揺るがす程の爆音が轟く。
振り返ると……今、来たばかりの道に瓦礫が積み上がっていた。
「アイツッ! 俺に任せて先に行けをするタイプじゃないでしょ!? あぁもう。あんなカッコつけておいて、無事じゃなかったらタダじゃすまさないわよ……!」
「……今はゼルスさんを信じるしかないかと」
ドラゴンとしての本気を出せば訳はなさそうな口ぶりだったし……寧ろ、わたしとリオさんが居ないほうが彼には好都合なはずだ。
完全に二手に分断されちゃったけど…今は、これが最良だったと信じたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
塞がった道を後にして、わたし達は逃げ込んだ先を歩いてみる。
通路は大小様々な部屋に繋がっていて、アリの巣ぐらい複雑に入り組んでいた。
「それにしても、なんで急に魔法が使えなくなってしまったのでしょう?」
びきっ!
「あの光のせいでしょうね。魔法の発動プロセスをおかしくする干渉をしていた印象だけど……とっ!」
ずがんっ!
眼前に現れたゴーレムが大破する。
わたしの土魔法でゴーレムの胴体に亀裂を入れ、そこにリオさんの炎魔法が叩き込まれた結果だ。
ご覧のとおり。
幸いにも、少ししたら魔法はまた使えるようになった。
お陰で、ちょくちょくエンカウントするゴーレムには立ち向かえている。
「いま言えるのは、長居は無用ってことよ。なんとかゼルスと合流するか、外に脱出する道を見つけないと」
そうですねと肯首しようとして……当初の疑問が湧いた。
「さっき、リオさんもゼルスさんも酷く焦ってましたよね? 最初のエリアにあった看板を読み上げてから」
「……アンタ、知らないの?」
「う。も、申し訳ありません…」
「別に怒っても責めてもないわよ。驚きではあったけど」
近くの小部屋──ゴーレムが入れない程度には小さいことを確認して──に入る。
そうして小休憩とばかりに腰を下ろしたリオさんは、
「──『醜怪家』って、知ってる?」
そう、問われた。
「それって……」
「世界大戦時に暗躍した『逸脱者』達。その一人が残した工房が、ここよ」
幽閉されたい、って少し前に口にしたけど。
そういう下手なことを言うと、本当にそうなってしまうみたいです──。




