第10話 人探しには鉄板らしいですが、
わたし達の道中は順調だった。
王国領土内に入ってはや何日が経っているけど、道中の治安が良くなったお陰か、首都・イセリナは目前だった。
ただ、その途中の宿場で気になる話を耳にしまして……。
「ここから東に行った先にある平野にな。謎の遺跡が現れたんだ」
テーブルの対面。わたしの前に座られた行商人さん。
その大ぶりな体を活かした身振り手振りの語りには、迫真めいたものがあった。
「時期的には半月ぐらい前か……? ともかく、あんまりに突拍子ない出来事だったから不気味でよ。実際、近くを通った行商人仲間が行方知らずになってるなんて曰くつきだし……」
モンスターが出没したわけでもないのにそんな…と思ったけど、ブルブルと怯えられる彼の様子からは、嘘をついている気配は見受けられない。
「大昔の遺跡は世界各地で発見されるてだろ? 中には移動したり、通行人を閉じ込めるものもあるっていうし、危険なダンジョンなんじゃないかって噂になってるんだ」
「ふーん」
わたしの隣で様子を見ておられるリオさんが腕を組み直して、カウントを刻むように、ひとさし指を上げ下げされる。
「で?」
目を泳がせながら、行商人さんは続けた。
「み、未踏破のダンジョン攻略となりゃ、冒険者の出番だ。組合にはすぐ依頼を出したよ。それでやってきたのが、男女の二人組だ。ただ……そいつらも二、三日前に潜り込んでから音沙汰がねえ」
「ダンジョン踏破には時間がかかるもんよ。その二人組の特徴は?」
「男のほうはフツーの剣士って感じだったけど、女はえらい上玉だったから覚えてるぜ。長い金髪で、二刀流の剣士で……長耳だったから、ありゃエルフ族だ。間違いねぇ」
間違いない。姉さんだ。
リオさんが睨んだ通りの展開となって、彼女は鷹揚に頷いた。
「そう……。ありがとう。聞きたいことは一通り聞けたわ」
「ホ、ホントか!? なら……!」
「フィナ」
言外にやっておしまいと言うリオさん。
その圧にわたしは逆らえるはずもなく、
「は……はい……」
脱力するように、わたしは手に持っていた五枚のカードをテーブルに出した。
「ふぉ、フォーカード……ッ!?」
どっ。
わたし達のゲームを観戦していた周囲の酒飲み客の方々が、一斉に湧き立つ。
「アナタはストレート。惜しかったけど、このゲームもアタシ達の勝ちね」
真っ白になる行商人さん。
風が吹いたら、灰みたいにサラサラ散ってしまいそうな儚さだ。
「すげぇな、あの金髪の女。さっきから連戦連勝じゃねぇか!」
「さぞや名のあるギャンブラーに違いないぜ……!」
「嬢ちゃんやるねぇ! もっとやってけよー!」
ヒューヒューと皆さんが囃し立ててくる。
どうして。
どうしてこんな、注目の的に……!
最初はただの遊びでリオさんとポーカーをしていただけなのに、どうしていつの間にかこんな賭博に参加させられてるの!?
無論、全部リオさんのせい……いや、手腕によるものだ。
ゲームに勝って人の物を取るなんてとても気が気じゃなかったけど、恩ばかりあるリオさんに凄まれては、わたしに出来ることはなかった。
「それじゃ約束通り、情報と賭け金の品々は頂戴しますね♪ アーハッハッハッ!」
「くそぅ! この泥棒! ぼったくり! お前らなんて出禁になっちまえェェエェッ!」
「あー! 負け犬の遠吠えって気持ちイイーなーッ!」
悪人もビックリなリオさんの叫びを最後に、わたし達は夜の酒飲み場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「君、それで生計を立てたら?」
翌朝。宿場の外で合流したゼルスさんからの一言に、わたしは、
「嫌です!!!!!!」
「うるさっ。……ホントに嫌なんだね」
「そりゃあ嫌ですよぉ! ゲーム自体は楽しいですけど、人から金品を巻き上げるなんて! こんな悪行に身をやつしたお詫びに、今すぐ牢屋にでも幽閉されたいです……っ!」
「まぁまぁフィナ。合意の賭けで勝って得たものなんだから、あれは正当な報酬だって。なにより、アナタの才能は本物よ! この調子でメキメキ腕を上げていきましょう!?」
「アンタは一回この子に謝ったほうがいいと思うよ……」
ゼルスさんがいつになくお優しい。
後で思ったことだけど、この時のリオさんの気迫がよっぽどだったんだろうなあ…。
ぽてぽてとその足で馬車に向かう。
「…で。運良くお目当ての人物情報は手に入ったけど、ダンジョン攻略真っ只中だと?」
「そう」
「で。まさかとは思うけど、今からそこを目指そうなんてことじゃあないよね」
「もちろん行くわよ」
ピタリ。
ゼルスさんが歩みを止められる。
「そう。じゃあ、僕はそろそろおいとまさせてもらうね」
がしっ。
リオさんがゼルスさんのマントを掴んだ。
「この手は?」
「分からない? 前衛をこなせるアンタが居ないとダンジョン攻略が詰むの。逃がさないわよ」
「なんでダンジョンを攻略することになってるのさ。出てくるのを待ってればイイでしょ」
「未踏ダンジョン特有の山のような金銀財宝にありつけるチャンスを無駄にする気!?」
「どうでもいい……」
「ほー? ヤる気?」
お二人の間で火花が散る。まさに一触即発の空気だ。
勇気を振り絞って「喧嘩はやめましょう」と声をかけ──ようとしたけど、眼が血走ったリオさんに睨まれて、わたしの勇気はすぐにしぼんでしまった。
く、くぅーん…。
「フィナはアタシの味方よね?」
「え、ええと…」
「ダンジョンに行きたければ君達二人だけで行きなよ」
「どうどう、どうどうですお二人とも」
「なんのためにさっきの宿場で色々調達したと思ってんの。大体、三日も帰って来てない連中がいつ戻るかなんて分からないでしょ。待っている時間が勿体無いわ」
「僕は不要な危険に首を突っ込みたくない」
「アンタの臆病風、いくらなんでも度が過ぎない? そんなんでどうしてこの子の引率はやる気になったのよ」
「それはまた別の話だろ」
お二人の言い争いは止まらない。
こういう時、いつもわたしは蚊帳の外だ。
ぽつん、とひとり置いて行かれた気分……。
「………」
「フィナも何か言って! ……フィナ?」
キョロキョロと周囲を見回して、ようやくリオさんはわたしを見つけたようだけど、
「……アンタ、何してんの?」
「すねてます」
お二人から離れた所で、わたしは膝を抱えて丸くなっていた。
「また面倒なことになった……」
リオさんがぽかんと口を開ける一方、ゼルスさんが呆れた様子でぼやく。
「そりゃ確かにお二人はお強いですし、頼りになりますけど……足手まといでも、わたしだってパーティーの一員なのに……」
「パーティー? 僕にそんなつもりは……」
「ちょっと黙って。つーか、空気読め。
……ごめん。アタシ達だけで白熱し過ぎた。フィナはこれからどうしたい?」
頭が冷えたのだろう。
いつもの声のトーンに戻ったリオさんがそう尋ねてくれた。
……こんなやり方以外で話を聞いてもらえるようにするには、どうすればいいんだろ。
「……。姉さん達、三日ほど帰って来てないんですよね」
「そうらしいわね」
「わたしは、二人が無事なのかが気になります。安否を確認したいですけど……ダンジョンが危険で探索が難しいようなら、引き返して大人しく待つべきだと、思います」
「なるほど。ま、そこが落としどころか……」
ふぅ、と一息をついたリオさんがゼルスさんに向き直る。
「ひとまず、ダンジョンがどれだけ深いのか様子を見させて。これからどうするかの話を決めるのはそれから。アンタにもそれまでは付き合って欲しい。この通り、お願いよ」
そして、そのまま頭を下げられた。
わたしもそれに続く。
「ゼルスさん。わたしからもお願いします。お力をいただけないでしょうか……?」
「……っ……」
ひく、とゼルスさんの表情筋が引きつる。
彼にとってはそれだけ悩ましい話なのだろう。
「……分かったよ……」
最終的に。
氷が溶けそうなほどの長考の末、ゼルスさんはそう答えてくれた。
「コイツ、押せに押せば案外いけるのよね……(ボソッ)」
「ゼルスさん、本当にありがとうございます!!!」
リオさんの台無しな一言を隠すように、わたしは大袈裟に喜んだ。
空気が読めないのは、リオさんも大概だと思います……!




