三日目 可愛い来訪者
ピーンポーン
「「ピーンポーン」」
「うるっさいッ!」
加奈が玄関から飛び出してきた。
加奈はこはる達を見渡して、一つ知らない顔があることに気づいた。
「誰?」
30分前
「やあやあアベ君。先程はどーも」
こはるは、待ち合わせ場所の公園のベンチで一人座っている海真に声をかけた。
海真はこちらに顔を向けると、チッと舌打ちをした。
(わあ不機嫌そう)
「どうしたアベ君?何をそんなにイライラしいるんだい?あっもしかして、ティッシュペーパーの最後の一枚が当たってしまったとか?あれイラッとするよね~。わかるよ。それか、シューズを履くとき、右左逆だったとか?あれもイラッとするけど、私なんかは特に....」
「うるせえ!!お前のその話し方が一番イライラすんだよ!」
こはるは呆然としたが、少し安心した。
(なーんだ、話し方か。イラッとする原因を永遠に話すという挑発かと思った)
「ごめんごめん、もうこの話し方はやめるよ。最近ミステリー小説の読みすぎでさ。探偵の話し方が癖になっちゃって」
こはるは舌をペロリと出す。海真はため息をついた。
「じゃあ、そろそろ行こうよ」
こはるがそう促すが、海真は一向に動こうとしない。こはるは不思議に思って、海真の顔を覗き込む。
「どうしたの?トイレにでも行きたいの?トイレなら確かそこを右に.....」
「ちげーよ!!人を待ってんの!」
こはるはポカンとする。
「えっ、他に人呼んでんの?」
海真は気まずそうに目を反らした。
「オレは機械設定とかならできっけどさ、ゲームの方のシステムだとか、そういうのよくわかんねえから、それが得意なやつ呼んだ」
「ふえっ」
こはるの口から変な声が漏れた。
その時だった。
「海真く~~ん!!」
道の向こうから、手を大きく振りながら爽やかな笑顔でこちらにやってくる少女がいた。
「よう」
海真はその少女に向かって軽く手を上げる。
少女はこちらまで来ると、肩で息をしながら、にっこりと笑った。
エメラルドグリーンの爽やかな髪を肩まで下ろし、そのぱっちりとした目元は、どこか明るい印象を与えた。
「言ったろ」
海真が少女の頭をポンっと叩く。
「ゲームに詳しいやつが来るって」
* * *
「で、お名前は?」
加奈がまるで面接官のように片手の甲に彭を乗せ、少女を上目遣いで見る。
あのあと、事情を説明し、加奈の部屋に入れてもらった。楕円形のテーブルの上で、コップに入った氷が、カランッという音を立てる。
少女はにっこり笑った。
「私は隠坂実里。あなた達と同じ12歳です。どうぞよろしく」
実里はそう言って、加奈に手を差し出す。
加奈はそれを気味悪そうに肩をすくめた。
「全人類が握手をする風潮を持ってると思わないでよ?今回はいいけど、次からはもうないから」
そう言って、加奈は実里の手を握った。
実里はポカンとしていたが、しばらくして、クスクスと笑い始めた。
「加奈さんって面白いね。もう握手をすることなんてないのに」
加奈の挑発は全く効いていなかった。加奈は余計に嫌な顔をした。海真は構わずオレンジジュースを飲んでいる。
その時、パンッという音が狭い部屋に響いた。
「そうだそうだ。私は本来の目的を忘れるところでした。加奈さん。私は今日、海真君に頼まれて、あなたのアクイムの不具合を直しに来たんです。」
こはるは海真をチラッと見た。彭を左右片方ずつ膨らませている。口の中でジュースを遊ばせているようだった。
「えーっと、アベさんとはどういうご関係で....?」
まさかの彼女か?そんなことまで覚悟していた。実里が口を開いた。言え!彼女だと言え!
「従兄弟です」
こはるは頭をガクンと落とした。
「.....では、さっそく頼もうかな」
* * *
『MIMI さんがプレイング広場に入室しました』
* * *
「あれ!?みっ....MIMI って、あの有名な!?」
加奈が画面を見るなり叫びだした。
「有名?」
こはるはポカンとした。実里はニコニコしながらアバターを操作している。
「知らないの!?バトルロイヤル界じゃ、知らない人はいない、超有名なプレイヤーだよ!」
加奈は興奮気味に、そして憧れの眼差しで実里を見た。
「わあ、知っててくれたんですね。ありがとう。フフ♪」
ということは、この可愛らしい華奢な少女は、かなりのゲーマーだということになる。だから海真は彼女を誘ったのか。
「そういえば、聞いたことがありますねえ」
実里が画面を見ながら口を開いた。
「『アクイムでは、よくトラブルが起きる』とね」
実里が人差し指を立てる。
「トラブル?」
加奈が首をかしげる。
「ええ」
実里のパソコンが気前良く鳴る。
「パスワードでエラーが起きたり、何も操作をしていないのに、他人のデータが勝手に入ってきたり」
こはるはその事柄が、加奈の身に起きていることに当たりすぎて、気まずそうに肩をすくめた。
「もちろん、それが機具の不具合だったり、ネット環境の問題だったり、理由は様々ですが、大抵はハッキングだったり、ウイルスだったりするんですよ」
淡々とそれを告げた実里に、こはるは身震いをした。違うことを祈ろう。
加奈は苦笑いをしてごまかしていた。
こはるは実里のことは放っておいて、海真のところへ行った。小さな机の上で、しきりに操作している。机の上には、普段加奈が使っているパソコンと、パソコンから伸びているコードの先にある海真の物らしきスマホだった。
こはるは海真の顔を覗き見した。難しい顔をしていた。
(複雑そうだなあ。操作も心も)
こはるは少し考えた。もしこれがハッキングだったり、何か法に触れるようなことだったらどうしよう。警察に言うべきなのだろうか。
「海真くーん。そっちのシステムに異常は無いー?」
実里は画面を凝視したまま、背中側にいる海真に尋ねた。
海真は相変わらず難しい顔をしながら答えた。
「いや.....今のところは.......あっ」
三人はいっせいに海真に振り向いた。
海真は呆然としている。
「どうしたの?何かあった?」
こはるは唾を飲む。海真は目を見開いたまま、画面を指差してこちらに振り向いた。
「アクイムのデータだけ綺麗さっぱり消えてる....」
その場にいた全員が凍りついた。




