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エピローグ 物語は終わらない

 ◆

 城郭が轟々と燃えている。一国の王を頂くはずのその要塞は夜の帳の中で、鮮やかに輝いていた。

 そこにあった命を全て燃料にして、宵闇を煌々と照らしていた。

 そこにいるはずの王はもういない。ここには生き物の気配はもうしない。


「やれやれ、呆気ない最期だったね」


 城郭から少し離れた建物の上で一人の老婆がため息をついた。

 マチルダの思惑は思わぬ形で終焉を迎えた。彼女が手引きして生み出した『人間の王』。その成長を見届け、この国を――世界をどう蹂躙するかを楽しみにしていたのに。


「まさか鳥の王が万物の奏者(レーディンレル)を殺すとは」


 その結末は予想外だった。万物の奏者(レーディンレル)を最後に手に入れたのは、獣王の中で最も適性の無い者だった。


「それはそれで、面白い」


 当初の予定とは異なるが、それが摂理だというのなら受け入れなければならない。後は、マチルダが放ったあの『人間の王』がこの後どう動くか。


「さて、これからどうなるかねぇ。アルトリカと猿の王によって生み出されたあの獣が、この城で大人しくしているとは思えないのだけれど」


 城を飛び出し、新たな生贄を求めるのか、或は蜥蜴の王の様に新たな君主として君臨するのか。いずれにしてもそれをあの二人がどう選んで選択するのか、マチルダはそれに興味があった。

 沸々と湧き上がる享楽にマチルダは胸を躍らせる中、ふと、己の傍らにふわりと降り立つ光に気づいた。


「――っ」


 マチルダにしては珍しい動揺と驚愕だった。いつの間にか彼女の隣に、この世にいるはずの無い者が存在していたのだから。


「お前、どうして――」


 それは通常の馬より一回り大きな白馬だった。白銀の鬣をなびかせ、その額には黄金に輝く角が生えている。

 静謐なその瞳の奥には紫煙が渦巻き、表情に反してこちらに燃え滾る憎悪を放っているように見えた。


《貴様が彼女を陥れたのか。――時渡りの魔女め》


 穏やかに囁く憤怒の声がマチルダの心臓を貫いた。マチルダは指一本動かすことが敵わず、その聖獣から目をそらすことが出来なくなった。

 畏怖。そうこれは純粋なる恐怖だ。


《我らの同胞を弄んだ罪は重いぞ。その命で償う覚悟はあるのだろうな?》

「……は、何を言っているんだい。セルバを見限って冥界に引っ込んだお前たちが、その罪は無いとでも?」


 かろうじて反論したがマチルダは呼吸をする事で精一杯だ。聖獣はゆっくりとこちらを見下ろす。その額に光る角の一突きで、マチルダはあっという間に屠られる。その恐怖に対しながらも、マチルダは決してそれから目を離さなかった。


《まあいい。貴様の断罪など二の次だ。今は彼女を――不死鳥を救わねば》


 そう言って聖獣はあっさりとマチルダを見逃し、今や死地と化した王城へと駆けていく。

 その姿が見えなくなった瞬間、マチルダは脱力しその場にへたり込んだ。


「……やれやれ、一角獣まで出てくるとは。一体だれが呼び覚ましたんだい?」


 マチルダは乾いた笑いを浮かべ、城郭を臨んだ。


 ――ああどうやら、あの子の物語はもう少しだけ続きそうだ。

 今代の万物の奏者(レーディンレル)。確か名前は――


「イスカ=トンプソン」


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