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やんごとなき方が、うち(田舎子爵家)に輿入れすることになりました。二人。  作者: 紙吹雪あーこ


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4/5

婚約破棄、巻き込まれました。④

 (放っておけばいいのになぁ。)

 リズベットがシエラに声を掛けた時、イーヴィルは先ずそう思った。


 幼い頃から、姉のリズベットは動物や植物とよく話(・)し(・)て(・)い(・)た(・)。実際に会話になっていたのか分からないが、

 「えだがおれそうっていってるよ」

 「あしたはね、たくさんあめがふるって」

 「ちっちゃいひつじさんがはぐれてるよって」

 「あっちのもりにおいしいみがあるよって」

 そう、植物や動物が教えてくれたと。

 実際、庭の木の枝が腐り落ちそうになっていたし、大雨が降り、生まれた子羊が一頭足りなくて探していると、リズベットが言った方角で見つかりもした。イーヴィルには植物や動物が何かを言ってるなんて、聞こえもしないから分からない。この頃のイーヴィルにはリズベットはき(・)み(・)ょ(・)う(・)な存在だった。

 後になって、リズベットのそ(・)れ(・)が『才』と呼ばれるものだと教えられた。とても厄介なものである事も。

 ともあれ、イーヴィルと両親を除けばリズベットの話し相手は主に人外だった。

 ある程度大きくなると領民の子供達とも遊ぶようになったが、大勢の同年代の『貴族』の子供に会うのは学園が初めてで、リズベットは誰に対しても恐縮し、ようやく友人ができたのは第三学年になってからだった。

 けれど一人だけ、入学式からずっとリズベットが興味を持ち続けた人がいた。

 それが、シエラ・ルイ・ノクトール侯爵令嬢、まさかの高位貴族。面倒なことにグランディーナ王国・第三王子の婚約者だ。

 幸いな事に、今夜までリズベットとシエラが接触することはなかった。リズベット本人は、お話出来る事があるかもしれないから!と、何やら挨拶・会話の練習をしていたが、イーヴィルは出来ればそんな事は起こらないで欲しかった。あくまでもリズベットの為だ。目立たない方がリズベットの身が安全だから。

 まぁ、少しばかり注目されるきっかけが幾度かあったが、それなりに平穏が続いていた。

 

 (今夜からはそうはいかないだろうけど。)


 実を言えば、今夜の歓迎パーティーで何か起こるのだろうと勘付いていたのだ。

 リズベットがシエラを気にしだしてから、イーヴィルもシエラを観察するようになった。姉には悪いが接触がないようにやんわりと遠ざける為に。その事に少しばかり罪悪感があったので、観察していて知った事や、周りから聞き出した小ネタを教えたし、ファーストダンスの件もイーヴィルがリズベットに教えたのだ。

 今となっては教えなければよかったの一言である。自分の読みも甘かったのだが、第三王子(あれ)がド阿保すぎた。

 はぁ、とため息が漏れる。シエラを階下で見つけた時こうなるだろうとは思った。

 リズベットはきっと放っとかない。

 イーヴィル自身はリズベットが気付いてない様子だったので、もういっそ気付かせずに走り抜こうと一瞬しようとしたのだが、残念な事にもう一人いたので出来なかった。いや、もう本当に何でもう一人いるのか。卒業生だし。番狂せ過ぎるだろう。

 とは言え、リズベットを止める選択肢は無い。

 リズベットは大事な子だから。

 いつでも、どんなときも、なにがおころうと、じぶんがリズベットをまもる。

 そう誓ったのだから。

 先ずは、姉の願い叶えるとしよう。折角頑張って練習してきた成果にちょっと笑ってしまったし、もう後に引けないならいっそ全部巻き込んでしまえばいい。悪目立ちしても人数がいれば分散する。

 できればこの二(・)人(・)はこちら側にしてしまおう。片方に関しては、リズベットが大喜びするのは間違いないし。

 方針は決めた。では、サクサク進めるとしよう。仮に失敗してもちゃっちゃと逃げ帰ればいいのだ。

 イーヴィルは得意の笑みを浮かべた。


 「さて、シエラ嬢、話を進めても宜しいでしょうか?」





 厚顔無恥な人物は我が身内でした。

 リズベットは何度目かの気が遠くなる感覚を味わっていた。理由は全部違うが。

 可愛い弟が先程から、自分達より身分が上の方に対し不作法をし放題である。処罰されないのは奇跡では?相手がシエラでなければ首を落とされていたかもしれない。

 リズベットがそんな悪い想像に身を震えさせている横でイーヴィルは話を進めて行く。


 「シエラ嬢、どうか会場に入っていただけませんか?心配なので。」

 「・・・先程、私の心配はしていないと・・・。」

 「えぇ、私が心配なのは姉ですから。」

 「え!?わたし!?」


 そうだよと、イーヴィルは頷き、再び手を繋いできた。

 何故、自分は何とも無いのだが。どう考えても心配するべきはシエラだろう。


 「だって、リズは今から倒れるじゃないか。」

 「え・・・?倒れないけど??」

 「倒れるよ?」

 「あ、はい。倒れます・・・う????」


 首を傾けながらこちらを見る可愛い弟の可愛い仕草には敵わない。つい従ってしまうがどういう事なのか?イーヴィルは自分にどうしろというのだろう。倒れた方がいいのだろうか?

 困惑するばりのリズベットを置いてイーヴィルは話を進める。


 「この通り、姉は繊細なんです。シエラ嬢が許しても、あなたを残して行く事に気が咎め、心の臓を止めてしまうかも。どうか姉を救ってくれませんか?」


 リズベットはそういう事かと理解した。

 シエラは王族の命で動けない。しかし、人命救助の為ならばやむを得ないのではないだろうか?

 イーヴィルはシエラに動ける理由を提示しているのだ。


 (かなり無理矢理だけど。そこまで弱い心臓ではありません!)


 それでもイーヴィルが自分のしたい事を援助してくれている。そのことが嬉しくて、リズベットは大層元気良くよろけて見せた。


 「そうなんです!わたし、その、心配しすぎるともうダメでっ・・・!あ、今倒れそう。」

 「わー。リズ大丈夫ー?」


 自分も大根役者だが、イーヴィルの棒読みも酷い。きっとシエラには呆れられているだろう。

 それでもいい。ただ此処に、このままずっと居てほしくない。

 唇を噛み堪えていたシエラの様子を振り返り思い出す。シエラの胸中を察することなんてできない。でも、きっと、悔しさがある筈だ。寂しさがある筈だ。他にもたくさんの想いが。それらを胸底に仕舞っては駄目だ。

 だってそれはー・・・。

 リズベットはシエラを真っ直ぐに見つめた。


 「お願いです、ノクトール様。どうか私をお救い下さい。」


 それはきっと、誇りなのだ。貴方は貴方の誇りを守っていい。踏み躙られては駄目だ。

 リズベットはシエラを見つめ続けた。どうか伝わってと願いながら。


 


 「ーーー・・・・・・・、ふぅ」

 シエラが小さく息を吐く仕草に、リズベットはビクッと反応してしまう。

 あからさまな三文芝居を見せられたのだ、気を悪くされても仕方がない。


 (出来ればそうじゃありませんように!せめて悪いのは私だけで弟は・・・!!)

 

 「本当に、仲の良いごきょうだいでらっしゃること。」

 「へ?」


 リズベット達を見ながら、シエラがクスリと笑っている。

 呆れられてないようだが、あの三文芝居に微笑まれるような部分があっただろうか?腑に落ちないでいるともぞもぞとイーヴィルが呻いた。


 「リズ、苦しいのだけど。」

 「へ?・・・っあ、ごめんイーヴィル!」


 どうやら先程不安が行動にも出ていたようだ。ぎゅうっと抱きしめていたことに気付き、慌てて解放する。


 「リズは結構力強いよね。」

 「普通よりちょっとくらいだもの。大丈夫?」

 「平気だよ」

 (あ、可愛い)


 イーヴィルの笑顔に、つられてへらっと笑ってしまう。

 コホン。シエラがした咳払いではっと我にかえった。どうにも、リズベットの思考はイーヴィルに占拠されがちだ。いつだって可愛い弟を愛でたいが、


 (時と場合!時と場合があるんだから!今はノクトール様の事よ!私!)


 どうにか自分を制し、シエラに向き合う。シエラは微笑みというより苦笑していた。


 「確認ですが、私が此処を離れぬのは殿下の命です。それを理解の上で私に会場内に入るよう仰るのですね?」

 「はい。」

 「私が心配だから?」

 「はい。」

 「倒れてしまう程に?」

 「はい!」

 「リズ、元気すぎ。後、俺は姉が、です。」

 「イーヴィル!!」


 それはいいから!と素直すぎる弟に釘を刺す。次いで、すみませんと頭を下げた。


 「構いませんわ。今はむしろ、その揺るぎなさが小気味好いです。」


 シエラは目を閉じ、胸に手を当ててゆっくりと大きく深呼吸を一つする。瞼を開いて二人を見据える双眸に、もう翳りはなかった。


 「今宵開かれているのは、歓迎の宴。新しき日常の旅路を祝う特別なもの。その最中(さなか)に急病人が出て倒れ込む騒ぎが起こるのは些か不穏ですわね?防げることが分かっているなら尚更。」

 「はい。」


 不謹慎だと思う。

 でも、胸が高鳴っていく。


 「この歓迎パーティーは生徒会主導のもの。私は、生徒会役員として防げる不足の事態に対処いたしましょう。ですから・・・」


 リズベットは心の臓を止められそうになった。


 「どうか私に、救われていただけますか。バード様。」


 それは、侯爵令嬢に相応しい華やかな笑みだった。

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