第1話 ある日の、赤宮家の昼食風景
まだまだ夏休み真っ只中……な、お盆も終わりが近付くある日。
お昼ご飯の用意をしようと、食材入ってる棚を開けて、そうめんを手に取ったら――。
「アリナぁ~……そろそろ、そうめん以外のお昼が食べたいです~……」
アガシーが、なんか泣きそうな顔でそう訴えてきた。
……まあ、気持ちは分からなくもないけど。
あたしも、反射的にそうめん取っちゃうぐらい、ここのところ高い頻度で作ってたってことだもんなあ……。
いやでも、お手軽だし。夏だし。
「いい、アガシー……?
日本人は夏にはね、ストックがある限り、お昼はそうめん食べ続けなきゃいけない決まりなんだよ……」
真剣な顔で大ウソつくと、アガシーはげんなり顔のまま反論してきた。
「わたし、フランス人ですぅ……」
「いやそれエセでしょーが。
もう、しょうがないなあ……じゃあ、ひやむぎにでも――」
「ほぼほぼそうめんじゃないですかあ……」
……ちっ、知ってたか。
けどそうなると、うどんも文句言いそうだなあ……。
焼きそばに焼き飯――も、結構な頻度で作ってきたし。
そもそも、あーいうのはお兄の方が上手だし……。
「うーん……」
こうなったら必殺の、〈カップ麺&『のりたんま』ご飯のおにぎり〉で黙らせるか――なんて考えたわたしの目に付いたのは、バターロールの大袋。
こないだママが、「安かったから!」って買ってきたやつだ。
……よし、これ使おっか。
「それじゃアガシー……あなたが文句言ったんだから、お遣い行ってきて」
棚の、食材費用の引き出しから出した1000円札をアガシーに押し付ける。
「お肉屋さんでコロッケ。そうだね……7つぐらいかな。
レシートちゃんともらってきてよ?」
「! イエシュ、マム!
ソッコーで調達してくるであります!」
……そんなこんなで。
今日のお昼は、お肉屋さんのコロッケを挟んだコロッケパンと、残り物のポテサラを挟んだポテサラパン、顆粒コンソメを使った角切りベーコンと玉ネギのスープ――になった。
当初の予定ほどじゃないけど……まあ、充分お手軽だ。
何より――
「ふおお……! うまうま――ッ!
コロッケをパンに挟んだだけだというのに、どんだけうまうまなんですか……ッ!
コロッケパン――恐るべし……ッ!」
「バターロールをちょっとオーブンで炙っとくのがポイントだよ。
食感良くなるし、香りと甘みも引き立つし。
……まあ、コロッケ自体がおいしいから、そのままでも充分なんだけど」
そう。
アガシーが、そりゃもう輝くほどの笑顔でおいしそうに食べてくれてるから、良しとしよう。
それに……正直なところ、そろそろあたしもこーゆーのが食べたくなってきてたしね。
うん。コロッケパン、おいしい。
「……しかし、まったく……聖霊、キサマというヤツは。
献立に文句をぬかし、あまつさえ亜里奈の手間を増やすとは……居候の自覚はあるのか」
一方、いつもの作務衣姿で、優雅にポテサラパンをかじりながらハイリアさんがタメ息を吐けば――
「ふん……ドケメンってだけで、わたしと同じく居候の兄上サマにゃー言われたくねーってんですよ! がるる!」
鼻息荒く、でもちゃんと口の中のモノは飲み込んでから(あたしに怒られるから)、これまたいつもの調子で反撃するアガシー。
で、それに対して、やっぱりいつもの調子で魔王的に言い負かすと思いきや……。
珍しく、ハイリアさんは「ふむ」と受け止めるに留めた。
……あれ? ハイリアさん、何か調子悪い……?
ていうか……考えごとしてる、みたいな――。
「ふっははー! あまりに正鵠を射た指摘に、ぐうの音も出ないようですね!
所詮はただのドケメン!」
「いや、まったくもってその通りだな――。
もっとも同じ居候であるからこそ、キサマのワガママがより際立つのだが。
……それも、見た目通りに真実『子供』ならまだしも――自ら『年長者』を称する者が、な?」
「ぐう……っ!」
……あ、ぐうの音が出た。
やっぱりハイリアさん、いつも通り?
うーんでも、やっぱりちょっと雰囲気が違うような……。
「そそ、それはそれとして!
勇者様とチサねーさまは今頃どうしてるんでしょうねー!
もうそろそろ、悪党どもをブッ倒し終わったところでしょーか!」
そしてアガシーは露骨に話題を変えに来た。
……うんまあね、このまま続けても被害が増えるだけなのは明らかだしね。
しょうがない、ここは拾ってあげるか。
「そろそろはそろそろでも、そろそろひとまずアフリカに着いた――ってぐらいじゃないかなあ。
目的地の遺跡は、アフリカの奥地って話だから……さらに時間かかるだろうし」
あたしも正確な飛行機の乗り継ぎとかは知らないから、何となく、の話だけど。
――に、しても……お兄と千紗さんがアフリカに出発して、2日、かあ……。
10日ほど前に……〈世壊呪〉たるあたしの問題に、ひとまずの決着がついて。
やっとお兄も落ち着けるのかと思ったら、それから1週間もした頃、夏祭りの日に、アフリカ奥地の遺跡で発掘のお仕事をしている千紗さんのご両親が、謎の邪神教団に襲撃されてるって話が出て……ドクトルさんの依頼で、お兄と千紗さんが救援に行くことになって。
慌ただしく準備を整えた2人が、『バイト』って名目でアフリカへと旅立って……そう、2日だ。
長いような、短いような……だなあ。
ドクトルさんは、「夏休み中には帰って来られる」って言ってくれたけど……。
正確なことは分からない以上、あたしたちを気遣って――ってのが正直なところだと思うし。
「……心配か?」
ふと気が付くと、思わず食事の手を止めていたあたしを……向かいに座るハイリアさんが、そう言って見つめていた。
あたしは――曖昧に首を振る。
「なんだろ……分からないです。
お兄は3度も世界を救ってきた勇者なんだから、心配することなんてないって、分かってはいるんですけど……」
そんな、これまた曖昧なあたしの言葉に……ハイリアさんは穏やかに微笑む。
「それが、お前たち兄妹というものなのやも知れぬな」
「そう……ですか?」
うーん……分かるような、分からないような。
「あ! でも……千紗さんが一緒なのは、純粋に心配ですけど。
お兄、ちゃんと気遣ってあげられるのかな、とか……。
千紗さんだって、シルキーベルやってるんだから、強いのは分かってますけど……女の人だから、色々と大変なこともあると思うし」
「え? そーゆーアレなんですか?
もっと、こう……『あたしのいないところで、お兄ともっと仲良くなるなんて、キー!(ハンケチ噛み)』みたいなのじゃないんですか?」
「…………」
――べちん!
あたしの無言のデコピンが、実にいい音立ててアガシーを強襲した。
「ンのぉぉう!!」
「あ、ゴメン、反射的に。
――てか、だからあたしはブラコンじゃないって言ってるでしょーが。
だいたいさ……」
「うむ――あやつらのことだ。
恋人と2人、遠い異国の地への旅……と言っても、何ら進展らしい進展もなかろうな」
あたしの言いたいことを、朗らかに笑いながらハイリアさんが代弁してくれたから。
あたしは、それはもう大きくうなずいて同意するのだった。
……だってあたし、ブラコンなんかじゃないからね。うん。




