動き出す脅威
……現在の『広隅市』と呼ばれる区域は、実際には、古来そう呼び慣わされてきた地域に比べると小さい。
そのため、本来の『広隅』なる名が示す範囲は、場所によっては隣県にまでまたがっていたりもする。
そんな、ある意味広隅であって広隅ではない、長閑な山奥に……広大な敷地を誇る、古々しくも威厳を備えた神社がある。
その名も、〈鈴鳴神社〉――。
はるか古代より、地球の霊的なチカラの中心たるこの広隅の地から、世界を守り続けてきた〈聖鈴の一族〉。
そのまとめ役たる〈宗家〉が集う、一族の総本山とでもいうべき場所である。
ただし、〈聖鈴の一族〉における〈宗家〉とは主に、一族の本家筋の中から特に選ばれた、長老格の人間による合議そのものを指すため……本来の意味での宗家としてこの地に住まうのは、現宗家を統括する最長老たる〈鈴守 芍薬 〉ぐらいのものだ。
そして――彼ら一族にとって何より重要な案件である、今回の〈世壊呪〉と〈祓いの儀〉……その顛末と今後について、宗家の集いにて最長老からの『お言葉』を受けて。
他の長老たちと同じく、ただ静かに平伏して合議を終え、鈴鳴神社を後にした老翁――〈五十鈴 鷹賢〉は。
ようやくとばかり、帰りの車内の後部座席で一人、小さく息を吐き出していた。
「さて……。
猊下はああ仰っていたが、それでいいものかどうか。
いや、そもそも――あれを鵜呑みにして良いものか……」
鷹賢が、老いと共により厳しくなった、巌のような顔に皺を寄せつつつぶやくと……。
車を運転する執事が、前を向いたまま応える。
「宗家の他の皆さま方は、いかがなさるおつもりでございましょう?」
「猊下に唯々諾々と従うだけの者どもは言うに及ばず……そうでない者も、あの場での態度を見る限り、今しばらくは様子見であろうな」
「ならば――僭越ながら、私見を申し上げますれば。
旦那様にとっては、むしろ良い機会なのではございませんか?」
執事の言葉に、鷹賢も同意するように「うむ」と頷く。
「いかに最長老とはいえ、今の〈宗家〉はすっかりと猊下に――芍薬めに掌握されてしまっておる。
後々のことを考えれば、今こそ――変化を促すべく、動かねばなるまい」
「では……」
「こうしたときの為にこそ、ヤツらを飼っていたのだ――」
鷹賢は、車外を通り過ぎる穏やかな田園風景を横目に――それとは対照的な、冷徹な声で告げた。
「戻り次第、〈弽衆〉を呼び出せ。
――『仕事』の時間だ、とな」




