第2話 魔王はしかし、アイドルとホストにはクラスチェンジ出来ない
そんなこんなで、そうめんじゃない昼食後――お茶を淹れて一服してると。
「……ふむ……」
着てるのは作務衣で、持ってるのは湯呑みで、飲んでるのはお安いお茶なんだけど――。
何でだか、オーダーメイドの高級スーツに身を包み、ブランド物のティーカップで、高級茶葉の紅茶を優雅に楽しんでいるように見えてしまうハイリアさんが。
海外の情勢を読み解くのに、片手で英字新聞を広げている――みたいな感じで、実際にはチラシを眺めていた。
新聞の折り込みのやつだ。
何か欲しい物でもあって、安売りになってないか探してるのかな――とか、思いっ切り自分に当てはめて考えちゃったけど……。
よく見ると、近所のスーパーの特売チラシじゃなかった。
あれは――。
……求人広告……?
「うむ――余もそろそろ、アルバイトなぞするべきだと思ってな」
あたしの視線と疑問に気付いたらしいハイリアさんが、和やかな調子でそんな風に言いながら、求人広告のチラシをテーブルに置く。
「えっと……。
お兄とそういう話でもしてたんですか?」
まさに今現在、明らかにそんなレベルじゃないものの、一応は『バイト』って名目でアフリカに行ってるお兄が……。
それとは別に、高校生だし、そろそろバイトでも――とか話してたのを思い出す。
まあそりゃあね、千紗さんって彼女も出来てデート代とかいるだろうし……。
あと、早い内に車の免許ぐらい取っといた方が〈天の湯〉の仕事の役にも立つだろうから――とも言ってたっけ。
で、お兄とそういう話をしてて、だからハイリアさんも興味を持ったのかな――ぐらいに思ったんだけど。
ハイリアさんがちらりと見たのは――コロッケパンを3つにポテサラパンも2つ平らげて、「ふぃー」って実に満足そうにお腹をさするアガシーだった。
「……確かに、勇者とそうした話をしたこともあるが……。
余自身の主立った理由としては――先ほど、まさにその聖霊が言ったこと、だな」
「アガシーが言ったこと?」
「うむ――余もまた同じく居候、という件だ。
つまり、だ――この先も居候として赤宮家に世話になる上で、家業を手伝うだけ……というのはさすがに心苦しくてな。
この世界での生活にも慣れてきたことだ――せめてアルバイトでもこなして、多少なりと自発的に収入を得、家計に還元するべきと、そう思い至ったわけだ。
そこな聖霊は、実年齢はさておき、公的には就業出来ぬ小学生なのだしな……であれば、一応はその兄となっている余が、こやつの分も含めて労働するのが当然であろう?」
ハイリアさんの視線に合わせて、あたしもアガシーを見ていると……。
当の本人は、「おぅ?」とオットセイみたいな声上げて、目をパチクリさせた。
「いやいやいや、わたしだってありますよ? ろーどーいよく!
確かに普通のバイトは出来ないみたいですが……ほらあれ、げーのーじん!
そう――アリナやミハルと一緒に、ユニットでアイドルでもやればウッハウハですよ!
ユニット名は……そう、〈JS6パラベラム〉とか!」
「早くも来年度で解散確定じゃない、それだと」
「ぬう……やっぱり〈パラベラム〉より〈マグナム〉にするべきですか?」
「問題はそこじゃないでしょ」
「では――3人ですし、〈スリーバースト〉!」
「いやそもそも、なんであたしまで一緒なの。やだよ。
――て言うか、無理に決まってるでしょ」
……もちろん、この『無理』はあくまであたしのことだ。
見晴ちゃんは見た目も性格もかわいいし、お嬢様だし、何せあの聖女的癒やしオーラがあるし……。
アガシーは現実離れした美少女な上に頭も良いし、基本快活でムードメーカーな部分もあるし、で……正直言って、2人はわりとそういうの向いてると思うから。
「第一アガシー、アイドルになりたいの?」
「いえ別に。アリナが一緒ならやぶさかではないですが」
「じゃあナシだね。あたしはイヤだもん」
「あ! 女装したマリーンも一緒、とかだとどうですか!」
「…………。
いやいや、いやいやいや、それでもあたしはやだよ!?
真殿くんの女装はアリかも、と思っただけで――」
――って、話逸れてる! 逸れてるから!
「……で、結局本題なんでしたっけ。
このドケメン兄上が、身の程知らずにもアイドルになろうとしてるんでしたっけ?」
言って、アガシーがハイリアさんにジト目を向けるけど……。
うーん……ハイリアさんも、アイドル適性は充分高いと思うなあ……。
外見も能力も、あらゆる面においてカンスト超人な紳士だし、魔王サマな口調と態度も、キャラが立ってると言えばそうなんだし。
「どうしてそうなる……。
そもそも余は、アイドルなど全く向いておらぬぞ?」
アガシーに答えて、タメ息をつくハイリアさん。
その内容に、思わずあたしが「どうして?」って顔をすると……。
ハイリアさんはそんなあたしを見返しながら、フッと魔王的に微笑んだ。
「アイドルというのは、ファンを最も大事にせねばならぬのだろう?
――が、残念ながら……余にとっての一番は、亜里奈、お前だけゆえにな」
「も、もう……! またそういうの、しれっと言っちゃうんですから……!」
「魔王だからな」
そんないつものシメを繰り出すハイリアさんを、アガシーが頬を引きつらせながら睨んでいた。
「…………。
もうこのドケメン、いっそホストとかやらせりゃいいんじゃないですかね」
「あ~……」
ハイリアさんには悪いけど、何か妙に納得しちゃったよ……。
それこそリアルに魔王の二つ名で、とんでもない売り上げ記録とか打ち立てそう……。
「残念だが……余も一応は高校生ゆえ、不可能であった」
「「 考えたんかい 」」
思わず、アガシーと一緒にツッコんでしまう。
……いや、冗談だろうけど。
「でも、ハイリアさん……そんなに気にしなくても。
いえ、それはまあ、確かにうちは見晴ちゃんとこみたいなお金持ちじゃないですけど……特別困ってるわけでもないですし。
それにほら、ハイリアさんもアガシーも、バイトとかしてなくても、〈天の湯〉のお仕事を手伝ってくれてるじゃないですか。
だから、別に――」
「だが、〈天の湯〉の手伝いは、本当に『手伝い』でしかないからな。
そもそもが我らがおらずとも回っていた仕事なのだ――この手伝いは赤宮家の負担軽減にはなろうが、直接的な収入に繋がるものでもあるまい」
「ですけど……」
「もちろん、〈天の湯〉の手伝いはこれまで通りに続けるとも。
その上で、空き時間を使って少しは稼ごうという話だ――家計が切羽詰まっているわけではなくとも、収入が増えて困ることもあるまい?
それに……単純に、興味もあるからな」
そう言い置いて、ハイリアさんは穏やかに……ちょっと子供っぽく笑う。
「余がこの先、この世界でどう生きていくにせよ――労働というのは、何であれ良い経験になりそうだ」
「それは……そうかも、ですけど……」
「ああ無論、余としては亜里奈、お前を娶る道を第一に考えているわけだが。
そしてそうなると尚のこと、養父上のように、将来は〈天の湯〉を継いだお前を手伝いつつ、己の仕事をこなす必要があるゆえな――良い予行演習、とも言えよう」
そんな風に、いつもの調子で付け加えるハイリアさんに――あたしは。
「またそういうことサラッと……!
――もう……分かりましたよ!
そこまで言うなら好きにしたらいいんじゃないですかっ!
ママもパパも反対はしないと思いますしっ!」
どうしてだか……つい、ムッときて。
そんな、反発するような態度を取って――そのまま、席を立ってしまったのだった。




