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第8話 憎いのに、どうして心が動くの


それから、私の生活は変わった。


戦場ではなく、閉ざされた空間の中で――

彼に支配される日々。


夜になるたび、逃げ場はなくなる。


抗っても、突き放しても、すべて見透かされる。


「戦場では負けたが、夜はどうだ?」


その余裕の笑みが、何より腹立たしかった。


「……っ」


何度拒んでも、何度突き放しても。


気づけば、また同じ場所に戻される。


逃げられない。

その事実を、何度も思い知らされる。


なのに――どうして。


胸の奥が、こんなにもざわつくの。


「……どれだけ私を惨めにすれば気が済むの?」


冷たく言い放つと、彼はわずかに唇を歪めた。


「足りるわけがないだろう?」


その一言で、心が揺れる。


否定したいのに、否定しきれない。


「……ほんとに、誰でもいいのね?」


皮肉を込めて吐き捨てる。


けれど。


「誰でもいいわけじゃないが?」


返ってきた言葉に、思考が止まる。


「お前みたいに、抗うくせに逃げきれない女はな」


「っ……誰が……!」


反論しようとした瞬間。

言葉が、途切れた。

距離が近すぎる。


思考が追いつかない。

逃げようとするほど、絡め取られる。


「お前を見るたびに、抑えがきかなくなる」


低く落ちる声。


「……っ」


背筋が震えた。


悔しい。

怖い。


それなのに――目を逸らせない。


「……頭でもやられたの?」


強がりで返すと、彼の目が細められる。


「……生意気な女だな」


次の瞬間、距離が消えた。

抗う余裕すら、奪われる。


「やめなさい……!」


必死に押し返そうとしても、びくともしない。


「お前は今、誰の手の中にいるか理解してるのか?」


耳元で囁かれた瞬間、身体が強張る。


逃げられない。

抗えない。

その現実だけが、はっきりと突きつけられる。


「ふざけないで……!」


「ふざけてるのは、どっちだ?」


言葉は、簡単に封じられる。

気づけば、抗う力は削られていく。


悔しいのに。

認めたくないのに。


この男の中に、引きずり込まれていく自分がいる。


――最悪だ。


レイヴェルの執着は、日を追うごとに強まっていった。


昼は何事もなかったように隣にいて、夜になれば逃げ場を奪われる。


「……まるで飼い殺しね」


吐き捨てるように言うと、彼は楽しげに笑った。


「悪くないだろう?」


「自由を奪われているのよ」


「自由、ね……」


気怠げに呟きながら、指先で髪を弄ばれる。


「なら、逃げてみるか?」


「……何?」


挑発。

分かっているのに、心が揺れる。


「どうせ逃げられないと分かって言ってるんでしょう」


「かもしれないな」


――腹立たしい。


この男は、どこまで私を弄ぶつもりなの。


「お前は戦場では敵だった」


低く落ちる声。


「……だが、今は違う」


その言葉に、胸がざわつく。


「違わないわ。私はあなたを討つためにここに来た」


強く言い返す。

それなのに。


「本当は俺に会いたかったんだろ?」


「……っ!」


心臓が、大きく跳ねた。


見抜かれた。

いや、違う。

そんなはずはない。


「ふざけないで……」


否定する声が、わずかに揺れる。


彼は、ただ笑った。


「……まだ認めないのか?」


「……何に?」


「お前は、俺に惚れている」


「そんなわけ……っ」


否定しようとした言葉が、途中で途切れる。


違う。

これは憎しみだ。


そう思わなければならない。


だって。

彼は私を騙した。

裏切った。

すべてを奪った。

どれだけの夜を、泣いて過ごしたと思っているの。


それなのに――どうして。


どうして、まだ。


この人に、心が揺れるの。

否定できない自分が、何より悔しかった。

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