第16話 気づけば、遊女に囲まれていた――!?
天幕が、ふいに開いた。
「お邪魔しまーすっ♡」
甘えるような声。場違いなほど、明るい。
「……え」
振り返る。
さっきの遊女たちだった。
華やかな衣装。甘い香り。空気が一気に変わる。
――なに、これ。
レイヴェルに視線を向ける。
「俺が呼んだ」
短い一言。
理解が、追いつかない。
(まさか……)
胸の奥が、じわりと熱くなる。
(ここで、あの人たちと――?)
顔に出たのだろう。
「……ぶはっ」
レイヴェルが吹き出した。
「お前、顔に出すぎだろ」
ぽん、と頭に手が置かれる。
「不安になるようなことはない。安心しろ」
低い声。
その一言で、妙に胸がざわつく。
「私たち、イレーネ様に最大限のおもてなしをいたしますわ」
遊女たちが、一斉にこちらへ寄ってくる。
「え、ちょ――」
逃げ場がない。
手を取られる。髪に触れられる。頬を撫でられる。
「お肌、とっても綺麗……」
「この顔立ちなら、少し色を足すだけで十分ですわね」
「香りも変えましょうか」
何が起きているのか、理解が追いつかない。
ただ、囲まれている。
甘い香りに包まれて、思考がぼやける。
「……ま、頼む」
レイヴェルの声。
顔を上げる前に、気配が遠ざかった。
出ていったらしい。
「では、イレーネ様」
柔らかな声。
「私たちと、楽しみましょうね」
――逃げられない。
⸻
「まずは髪から」
指が、髪に触れる。
するりと解かれていく感触。
丁寧に、ゆっくりと。
「少しだけ巻きを足しますね」
髪が、形を変えていく。
自分じゃないみたいに。
「目元は……強くしすぎない方がいい」
細い筆が触れる。
くすぐったい。
思わず、目を閉じた。
「……綺麗」
誰かが、呟く。
それが、自分に向けられた言葉だと、少し遅れて気づく。
頬に色が乗る。
唇に、艶が足される。
「本当に、素材がいい……」
「少し触れるだけで、こんなに」
声の温度が変わる。
どこか息を呑む気配。
「衣装を」
布が差し出される。
柔らかい。軽い。
肩をなぞるように落ちる線。
「これは……」
戸惑う。
「イレーネ様に一番似合うものですわ」
袖を通される。
布が、体に沿う。
最後に、香りがひと吹き。
「――できましたわ」
静寂。
さっきまでの喧騒が、嘘みたいに消える。
視線が、集まる。
「……嘘」
小さな声。
「これ、本当に……同じ方……?」
息を呑む音。
「まるで――」
言葉が、途切れる。
「……絶世の」
彼女たちは最後まで言い切られなかった。




