第15話 お前は、俺のもの
「あなたも、ああいう女性らしい人が好きなの?」
ぴたり、と空気が止まった。
「……あ?」
低く、短い声。
感情が読めない。
「だって、さっきの遊女に――」
言い切る前に、視線が絡んだ。
逃げられない。
「デレデレしてたじゃない」
言った瞬間、後悔した。
――なんで、こんなこと。
沈黙。
それから、くす、と小さく笑う気配。
「なんだ」
一歩、距離が詰まる。
「嫉妬か?」
「ち、違っ……!」
慌てて否定した声が、情けなく裏返る。
レイヴェルはそれを面白がるように、ゆっくりと目を細めた。
「さっきからそればっかだな。“遊女が”って」
からかうような声音。
完全に、楽しんでいる。
「……っ」
恥ずかしくて、もう顔を上げられない。
逃げるように視線を逸らした、そのとき。
「――お前」
低く落ちる声。
空気が、変わる。
「本気で言ってるのか?」
「だから違うって――」
言い訳は、途中で止められた。
顎を、すくわれる。
「っ……」
強引に、顔を上げさせられる。
目が、合う。
逃げ場なんて、どこにもない。
近い。近すぎる。
息がかかる距離で、彼はじっとこちらを見つめていた。
「どう考えても」
低く、ゆっくりと。
「お前の方が可愛いだろ」
――思考が止まる。
「……え」
間の抜けた声が漏れる。
レイヴェルは、少しだけ眉を寄せた。
まるで当たり前のことを言っているみたいに。
「そんなことで不安になるな」
「べ、別に不安なんて――」
言い返そうとして、言葉が出ない。
視線が絡んだまま、離れない。
心臓の音だけが、やけに大きく響く。
「なら、着飾ってみろ」
ぽつり、と落ちる声。
「同じように」
その指が、頬をなぞる。
びくりと身体が揺れた。
「……俺の前で」
低く、抑えた声。
さっきまでの軽さは、もうどこにもない。
「そうやって揺れる顔をするなら」
指先が、わずかに強くなる。
「他の奴に見せるな」
息が止まる。
「なに、それ……」
震える声で問い返す。
レイヴェルは一瞬だけ、視線を逸らした。
ほんのわずかに。
けれどすぐに、また戻る。
まっすぐに、捕まえるように。
「気に入らないだけだ」
ぶっきらぼうな言い方。
でも。
離れる気は、ないらしい。
むしろ、少しだけ近づいた。
「お前が」
低く、囁く。
「他の奴にそういう顔するのが」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「……だから、何」
強がって言うと、
レイヴェルは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「わからないか?」
距離が、さらに縮まる。
もう、息が触れるほど。
「わからないなら――」
そのまま、耳元に落ちる声。
「教えてやる」
心臓が、跳ねた。
「お前は、俺のものなんだから」
反則みたいに、優しい声だった。




