第12話 檻の中の灯り
レイヴェルの、よくわからない行動は日々続いた。
目が覚めると枕元に花が置かれていたり。
食事の時間になると、「お前はこれが好きだっただろう」と、以前私が話した料理を用意してきたり。
だが、外には絶対に出してくれない。もうすぐ城に着いていい頃だというのに。
私は鳥籠の中の鳥になった気分だった。
「……何を企んでいるの?」
一度、問いかけたことがある。
すると、レイヴェルは当たり前のように言った。
「女はこういうのが嬉しいんだろ?」
意味がわからない。
私の戸惑いなど気にも留めず、彼はまた新たな花を摘んで、私の手のひらに押しつける。
――なぜ?
私は彼の捕虜で、彼は私を裏切った男で。
どうして今になって、こんなふうに恋人ごっこを再開しているの?
「……色気がないって言っていたくせに」
皮肉を込めて言う。
だが、レイヴェルは面白がるように唇を歪めた。
「だからこそ、そそられるんだろう?」
「っ……誰が……!」
反論しようとした瞬間、彼がゆっくりと手を伸ばし、私の髪を撫でた。
「あの時の言葉、傷ついたのか?」
低い声が、耳元に落ちる。
驚いて顔を上げると、レイヴェルはじっと私を見つめていた。琥珀色の瞳が、まるで私の心の奥底まで覗き込むように揺らめく。
「……ごめんな」
静かに紡がれた言葉に、胸の奥がひどくざわついた。
謝罪なんて、彼の口から聞くとは思わなかった。
彼の本心を知るのが怖くて、視線を逸らす。
だが、指先が、私の髪を梳くようにゆっくりと動いた。
「……っ」
「色気がないとは思っていない」
レイヴェルは淡々と続ける。
「ただ、お前が感情的になる顔が可愛くて、ついな」
心臓が、嫌なほどに跳ねた。
「……頭でもやられたの?」
恥ずかしさを紛らわそうと目を逸らすと、レイヴェルの瞳がわずかに細められた。
鋭く、けれどどこか甘さを孕んだ眼差し。
「……生意気な女だな」
気づいたら、距離が近くなっていた。
手が、そっと顎に触れる。
逃げようとしても、傷が邪魔をする。
後退りもできないまま、その目から逃げられない。
「……離して」
「嫌だ」
「っ……!」
「お前は今、誰の手の中にいるか……理解しているのか?」
吐息が、触れるほどの距離。
心臓が、うるさいほど鳴っていた。
やめて。
それ以上近づいたら。
「……ふざけないで」
声が、掠れた。
「ふざけているのは、どっちだ?」
レイヴェルは、それ以上は動かなかった。
ただ、その距離のまま、じっと私を見ていた。
奪うでも、引くでもなく。
ただ、そこにいた。
それが、余計に苦しかった。
「……嫌い」
絞り出すように言った。
「知ってる」
「……憎い」
「知ってる」
「……っ、だったら」
「だったら?」
答えられなかった。
続きの言葉が、喉の奥で詰まって、出てこなかった。
レイヴェルは、ゆっくりと手を離した。
一歩、引いた。
「……無理に答えなくていい」
低く、静かな声。
「お前はこれから先、ずっと俺の隣だ。誰にも渡さない」
それだけ言って、彼は地図の方へと戻っていった。
いつも通りの、冷たい横顔。
何事もなかったかのように。
まるで、逃がさないと言っているような。
まるで、終わりにするつもりはないと言っているような。
「……最低ね」
呟いた。
「知ってる」
聞こえていたらしい。
振り返りもせずに、彼は即答した。




