第97話 三つ子と雪の王女
魔竜は元々全部で十三柱いる。
そのうち、この地に住んでいる八柱は竜王に上位への進化した。
残りの魔竜たちのことは正直よく知らない。
「長女のルクロスちゃんが、事象の地平面に捉えられていることは知っているでしょ?」
「ああ、それは聞いた」
「それ以外の火竜イグアスちゃん、金竜アウムちゃん、銀竜アルジェムちゃん、雪竜ニフスちゃんの四柱が、今も領地にいるのよ」
「その四柱も竜王になるというのか?」
「そうね。なるというか、もうなってるみたい」
「はあ? だって上位への進化の条件は絶望なんだろ?」
「それぞれ疑似的な絶望を作り出したようね。魔竜と竜王の差を感じて」
「デ、デタラメだな……」
「まあいいじゃないのよ。みんなで仲良く竜王になれたんだから。うふふ」
アクアスの隣では、グラキャスが右手に持つワイングラスを凍らせて飲んでいた。
権能の使い方がお洒落すぎる。
「竜王化のために、全員をここに呼び出すつもりじゃったからな。手間が省けたということじゃ」
「じゃあ、他の竜王はこの地に来ないんだな?」
「呼んでおる」
「は、はあああ⁉︎ 何でだよ! 呼ぶ必要ねーだろ!」
「色々あるのじゃ。男ならぐちぐち言うでない」
「ぐっ……」
俺にそう言い放ったグラキャスは、優雅にワインを口にした。
その隣に座るテラムの勝ち誇った顔が、ムカついて仕方がない。
「ったく、分かったよ。じゃあ、この地に竜王が大集合するってことなんだな?」
「そうじゃな。もう二柱が着いたようじゃ。フェルムよ」
グラキャスに呼ばれたフェルムが立ち上がった。
「はい。グラキャス姉様」
「え? 着いた? どういうことだ?」
フェルムがロビーへ向かい扉を開けると、フェルムと同じ顔、同じ体型の男が二柱立っていた。
唯一違うのは髪と瞳の色で、一柱は金色、もう一柱は銀色だ。
「どうも、金竜のアウムと申します」
「は、初めまして。銀竜のアルジェムです」
二人は双子のようだ。
というか、フェルムを入れて三つ子だ。
「そういや、フェルムは真面目な三つ子だったな。はは」
「「よろしくお願いいたします」」
二柱が丁寧にお辞儀をした。
呼び名の通り、この三柱は全員真面目だ。
俺はフェルムの肩に手を置く。
「なあ、フェルムは鉄竜だよな」
「はい、そうです」
「金竜と銀竜ってことは、真面目な三つ子は全員鉱石系なのか」
「はい。僕たちは鉱石で、全員物作りが得意です」
「そうか。よろしく、アウム、アルジェム」
二柱と握手を交わし、ホールへ案内した。
「アレっさん。アウムとアルジェムは金銀の細工が得意だぜ。すげー精巧なんだ」
「マジか。じゃあ、女性陣はアクセサリーとか作ってもらえるんじゃねーか?」
「そうだな。七姉妹は好きな物作ってもらえよ。遠慮するな」
エルメスが七姉妹に向かってウインクした。
可愛い顔して、仕草が妙に男っぽい。
七姉妹はアクセサリーなんて身に着けたことはないだろう。
七姉妹昴星にそんな余裕はなかったはずだ。
俺の予想通り、七姉妹の目が輝いていた。
なんだかんだ言って若い娘たちだ。
とはいえ、最年少のメロペでさえ九億歳だが……。
「竜王たちに比べれば、七姉妹は若い。はっはっは」
それに、見た目で言えば俺が最年長だ。
もうこのデタラメな年齢関係にも慣れた。
テーブルに戻り、アウムとアルジェムにジョッキを用意してビールを注ぐ。
二柱は酒が飲めるという。
「よし! じゃあ、アウムとアルジェムを歓迎し……」
乾杯しようとしたら、急激に周囲が冷えた。
隣のシルヴァに目を向けると、同じように震えている。
「な、なんだか急に寒くねーか?」
吐く息が白い。
グラキャスの仕業だろう。
「おい、グラキャス。権能が漏れてんぞ?」
しかし、グラキャスは我関せずといった表情で、テラムに視線を向けた。
「テラムよ」
「は、はい! 姉様!」
「ニフスじゃ」
「ニ、ニフスにも誠心誠意、謝罪するでありますです!」
テラムが起立して、グラキャスに何度も頭を下げていた。
テネヴァスがその様子を眺めながら、テラムに対し呆れた表情を浮かべている。
どうしたのだろうか。
「ニフスちゃんは、まだテラムお兄ちゃんを許してないからなあ。私もだけど」
「うぐぐ……」
「だけどこのままじゃ、この地が雪原になっちゃう。それは困るよね。農作物が枯れちゃう」
ウェントスが立ち上がった。
「テネヴァス。僕が風で飛ばそうか?」
「ありがとう、ウェントスお姉ちゃん。でもね、吹雪になって雪が広がっちゃうんだよね」
「そっか。困ったね」
テネヴァスの可愛らしい顔が、怒りの形相へと変化した。
そしてテラムを指差す。
「おい、クソバカ兄貴! 早く外に行って謝ってこい!」
「わわ、わかったのだテネヴァス! すぐに行ってくるのだ!」
テラムが駆け足で外に出た。
扉が開くと室内にまで雪が入り込んでくる。
この地に住み始めて、雪なんて初めて見た。
「一体どういうことだ?」
「ニフスは雪竜じゃ」
グラキャスはこの状況でも優雅にワインを味わっている。
「そりゃ分かるんだが、テラムのあの怯えようは?」
「テラムが青月を壊したことは知っておるじゃろう」
「ああ、もちろんさ」
「そのことで、この星の地軸が狂った」
「グラキャスの領地が万年極夜になったんだったな」
「そうじゃ。反対にニフスの領地が万年白夜になった。永遠に夜が来ないのじゃ」
「そ、それは……キツいな。様子を見てくるよ」
俺はすぐに外へ出た。
すでにうっすらと雪が積もっている。
一人の少女が立っていた。
身長はテネヴァスよりも拳二つ分ほど大きい。
とはいえ、俺の胸の位置よりも低い。
白銀の髪と、同じ色の瞳。
テネヴァスと同じように幼さが残るが、恐ろしいほどの美人だ。
さしずめ雪の王女といったところか。
確かこのニフスとテネヴァスは二人で無邪気な末子だったはず。
「テラムさん。お久しぶりね」
「ニニニ、ニフスよ! 誠心誠意、謝罪するのだ!」
「今さら謝罪?」
「ももも、申し訳なかったのだ!」
「夜がない生活って知ってる?」
「う、うう……」
「おかげで私、不眠症になったのよ」
「す、すまんのじゃ……」
「もう一億年も眠ってないわよ?」
「あ、謝りますのです」
「一億年、猛吹雪の中にいなさいな。吹雪の牢獄」
「ぐごおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
テラムが白い球体に包まれた。




