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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第三章

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第92話 七姉妹6

 ◇◇◇


 アレファスたちが住む星から、遥か遠く離れた七姉妹昴星(プレルデス)。

 宇宙から見ると黄色い星だ。

 その見た目通り、地面は砂と岩石に覆われていた。


 七姉妹昴星(プレルデス)には七人の聖人姉妹と、動物、植物が存在する。


 荒廃した大地を眺める末っ子メロペ。

 植物の種を植えたが、育ちが悪く溜め息をつく。


「はあ、なんか全然育たないんですけど?」

「水が足りないわね」


 長女マイハが、嘆くメロペの肩に手を乗せた。


「はあ、水かあ。今季は雨が少なかったからなあ」

「それもあるけど、やっぱり元々の水が少ない星だもの。仕方がないわ」


 空を見上げる二柱に、四女アルキューネが近づく。


「ただいま。どうしたの、二柱とも空なんか見上げて?」 

「あら、アルキューネ。おかえり。どうだった?」

「砂兎を狩ったわよ、姉さん」


 アルキューネは右手に弓を持ち、ロープに縛った三匹の砂兎を左手に握っていた。

 次女エクトラが、アルキューネの砂兎に視線を向ける。


「お、今日は兎鍋か」

「いやいや、エクトラ。鍋をするための水がないっしょ」


 五女ケイが冷静に突っ込む。


「そ、そうだったな。じゃあいつもの石板焼きか」

「それはそれで美味しいからいいっしょ」


 エクトラとケイは石板を並べ、さっそく夕食の準備を開始した。


「お、今日は石板焼きか。俺は好きだからいいぜ」


 六女アステロが、巨大な斧を担ぎながら帰宅した。

 最近のアステロは、付近の岩盤を砕き、水源を探している。


「アステロは何でも好きだもん。あはは」

「う、うるせーな!」


 三女タルテが、アステロを指差して笑っていた。

 マイハがそんな妹たちの様子を笑顔で眺める。


「また魔竜の星へ行こうかしら」

「あの星は本当に豊かだしね。マレムさんに会いたいな」

「会いたい? 僕は今度こそ魔竜に勝ちたいんだもん」

「戦いより、あの豊かな森で狩りをしたいわ」

「あの星はマジで水が旨いっしょ」

「ああ、行きたくなってきたぜ。近々行こうぜ」

「グラちゃんが怖いんですけど」


 七姉妹がそれぞれ勝手に意見を述べている。


「ん? 何かしら?」


 マイハが空を見上げると、薄青い空に黒い穴が空いていた。

 穴は少しずつ広がっていく。


「宇宙(そと)から来てる?」


 よく見ると穴が空いたのではなく、星の外から漆黒の物体がゆっくりと近づいていた。

 空を覆い隠すかのように広がっていく。


「な、なに⁉︎」


 光すら逃がさない不気味な漆黒の穴に向かって、突然大地が吸い上げられた。


「きゃああああああ!」


 土が、岩が、家が、全てが穴に吸い込まれていく。

 異様な光景だ。

 聖人という寿命すらない至高の存在である七姉妹でも、抵抗すらできない。


「ほ、星を出るわよ!」

 

 マイハが叫び、全員で星を出た。

 その判断は正しかった。

 

「星が……。私たちの星が……」


 アルキューネが呟いた。

 丸い星が歪み、超巨大な黒い物体に吸い込まれて行く。


「くっ! ここは危険よ! 離れるわよ!」


 故郷の星を目の前で失った七姉妹。

 何が起こったのか理解できないまま、その場を離れた。

 暗黒の宇宙空間を彷徨う姉妹を『絶望』が襲う。


 誰一人として口を開かない。

 いや、開けない。


 宇宙空間の遥か彼方には、幾千万もの星々が輝いている。

 マイハは星を眺めながら、意図せず声を漏らす。


「魔竜の星……」 


 ◇◇◇


「み、みんな! 急いでっっっっ!!!!」


 メロペの叫びとともに、マイハのビアンコクローがアクアスの胸を斬り裂く。

 本来ならば、アクアスは深刻なダメージを受けるはずだった。


「なるほど。そういうことだったのね」

「なっ! アクアス! あなた!」


 アクアスの身体が青い光に包まれていた。

 大きく斬り裂かれたはずの胸は、何事もなかったかのように回復している。

 マイハは全身から冷たい汗が止まらない。

 最も恐れていたことが起きてしまった。


「『王化』の上位への進化(エヴォリオル)は絶望が条件だったのね。あなたたち、何に絶望したの?」

「う、うるさい!」

「もしかして、襲撃と関係している?」

「うるさいわね! この星をもらう!」


 マイハがビアンコクローを振り下ろす。

 アクアスの身体に直撃しているが、アクアスは全く反応しない。

 反応する必要がなかった。


「これが上位への進化(エヴォリオル)……。凄いわね」


 生まれながら魔竜であるアクアスは、上位への進化(エヴォリオル)を経験したことがない。

 初めての上位への進化(エヴォリオル)だ。


「ふーん。星がなくなっちゃったんだ」

「なっ!」


 これまでも、度々アレファスに心を読むなと言われていたアクアス。

 心を読めていたわけではない。

 アレファスが分かりやすかっただけだ。

 だが、今は相手の考えを抜き取ろうと思えば可能だった。


「……黒い穴。あれはどうしようもないわよね」

「くそっ! 死ねっ! 死ねっ!」


 マイハは何度もビアンコクローを振り下ろす。

 だが、アクアスには全く効かない。


「言葉遣いが汚いわよ。束縛の水(カテ・アクア)」


 マイハの身体が薄い水の膜で覆われた。

 先ほどまでのマイハなら、アクアスの水を容易に弾いていた。

 だが、今は髪の毛ほどの厚さの水ですら抵抗できない。


「くっ!」

「ねえ、あなたたちが最初から全力を出さなかった理由は、圧倒的な戦力差を見せると私たちがすぐに絶望してしまうからでしょ? だから徐々に力を上げていった。そんなところね」

「う、うるさい!」

「でも下手ね。結局、絶望したもの。むしろ最初から全力で一気に勝負をかければよかったのに」


 マイハとしては安全に、かつリスクが低い方法を選択したつもりだった。

 

「降参なさい。そうすれば、私たちはこれ以上は何もしないわよ」

「く、くそ……」


 マイハはもう動けない。

 アクアスは他の魔竜に目を向けた。


「治癒の水(メディキナ・アクア)」


 竜王化したアクアスが、権能を行使した。


 ***


 五女ケイのジャッロカードが、フェルム、シルヴァ、レーシェ、レオール、エレトゥス、ルーファス、ファンシアの胸を貫いた。

 次女エクトラのロッソトライデントによって、完全に拘束されたマレム。

 三女タルテのネーログラディウスで、無数の傷を負っていたウェントスとエルメス。

 六女アステロのヴェルデアックスは、テラムの腕をへし折った。

 七女メロペのヴィオラステッキが、テネヴァスとグラキャスの精神を苦しめる。


 これで魔竜たちは敗北したかと思われたが、この地にいる魔竜、魔獣、魔人たちの身体が光に包まれた。

 上位への進化(エヴォリオル)だ。

 アクアスと同じように王へ進化していく。


 こうなるともう七姉妹昴星(プレルデス)に勝ち目はない。

 本人たちが一番よく分かっている。


「ダ、ダメだったか……」


 ケイは手に握るカードをバラバラと地面に落とした。

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