第91話 七姉妹5
七姉妹の三女、タルテの黒いポニーテールがふわりと揺れる。
両手に握る二本の黒い短剣ネーログラディウスを駆使して、悪戯な双子のウェントスとエルメスを同時に攻撃していく。
優雅に揺れる髪からは想像もつかないほど、限界値250億の攻撃は苛烈だった。
「人のことダサいとか言って、君たちのほうがダサいじゃん!」
対して、ウェントスとエルメスの限界値はそれぞれ7千万だ。
防戦一方、いや、防戦できるだけでも大したものだった。
「ウェントス! こいつを怒風の咆哮でこっちに流せ! 奪命の雷光をぶち込む!」
「うん!」
二柱はタルテの攻撃を凌ぎつつ、一旦距離を取った。
「怒風の咆哮っっ!!」
「奪命の雷光っっ!!」
瞬間的に猛烈な風がタルテを襲うと、直後に真っ白な閃光に包まれた。
そして空気が砕かれたような崩壊音が轟く。
「ふう、凄い音で驚いちゃった。でも大丈夫だよ」
タルテは一息ついて、二本の短剣を構える。
「効いてないのかよ……」
「そうみたいだね……」
二柱の額から汗が滴り落ちる。
それは絶望という汗だ。
「あ、急いだほうがいいね」
タルテが二柱の汗を見て小さく呟く。
そして、ネーログラディウスを振り上げた。
***
六女アステロが、猛烈な速度でヴェルデアックスを振り下ろす。
テラムよりも高い身長から繰り出される一撃は、音速を遥かに超えていた。
「ふんっ!」
テラムは両手を交差させ、ドンッという鈍い音とともにヴェルデアックスを受け止めた。
その衝撃は身体を突き抜け、両足にはクレーターが発生するほどだ。
「スゲーな、テラム。このヴェルデアックスを素手で受けるんだ」
「私と大地は貴様に負けぬ!」
「言うことが、いちいちかっこいいんだよっ!」
アステロは再度ヴェルデアックスを振り上げた。
豪快で重い一撃な上に、尋常ではない速度で繰り出されるため、テラムは何度も攻撃を受けるしかない。
「いつまでもつ?」
「永遠だ!」
「防御だけじゃ勝てないんだぜ?」
「バカめ! 攻撃は防御からだ! それに貴様の攻撃など生ぬるいのだ!」
「くっ! そうかよ! じゃあ、もっと本気出していくぜっ!」
これはテラムのやせ我慢だ。
むしろ、300億もの限界値を持つアステロの攻撃を、限界値8千万のテラムがよく耐えていると言えよう。
「我が大地を舐めるでない!」
「くそっ! マジでかっこいい――ぜっ!」
テラムは隙を見て超爆裂大地拳を狙っている。
だが、アステロに一切の隙はなく、テラムの腕は限界を迎えていた。
どう足掻いても覆せないほどの圧倒的な戦力差が、残酷なほど如実に現れていく。
尊大で傲慢なテラムですら、絶望を感じていた。
***
「あーしの攻撃、効き過ぎなんですけどっっ!!」
限界値500億のメロペは驚異だった。
ヴィオラステッキを振りかざすと、テネヴァスとグラキャスに激痛が走る。
それは身体のダメージではなく、精神を直接蝕んでいた。
「テネヴァス、大丈夫か?」
「グ、グラキャスお姉ちゃん、ちょっとしんどいかも……」
「休んでおれ」
「で、でも、いくらグラキャスお姉ちゃんでも……」
メロペは容赦なく攻撃を繰り出す。
「美しい姉妹愛だけど、同情なんてしないんですけどっ⁉︎ あーしたちも切実なんですけどっっ!!」
「うるさいっ!」
テネヴァスが重力の砲弾を放とうと手を掲げた。
「きゃああああっっっっ!」
だが、間髪入れずに繰り出されるメロペの攻撃。
これにより、テネヴァスは一切の反撃ができない。
テネヴァスは地面に膝をつき、四つんばいの姿勢から動くことができない。
メロペはそんなテネヴァスを警戒しつつも、グラキャスに視線を向けた。
「グラちゃんがいるからヤバめだと思ったけど、あーし強くなり過ぎたみたいなんですけど?」
実は、グラキャスは空間の凍結で、メロペの周囲を凍結させていた。
それでもメロペの攻撃は止まらない。
いや、グラキャスが空間の凍結を放っているからこそ、被害は最小限で抑えられていた。
もし、グラキャスがいなければ、メロペはこの地で無双していただろう。
「ところで、グラちゃんは痛くないの?」
「痛いに決まっておろう」
「その割には余裕なんですけど?」
「そう見えるか?」
「うん。顔色一つ変えてないもの」
「そうか? お主との力の差に、ワシはさっきから絶望しておるぞ?」
グラキャスが氷のような冷たく鋭い視線で、メロペを直視した。
「う、嘘でしょ?」
メロペに焦りが生まれた。
「因果と理が見えたぞ。お主たちがこの星へ侵攻した理由と、聖王へ上位への進化した原因は結びついておるな」
「ひ、秘密なんですけどっ!」
メロペがヴィオラステッキを振ると、グラキャスとテネヴァスに激痛が走る。
「きゃああああっっっっ! お、お姉ちゃん……私……」
「テネヴァス、もう少し耐えるんじゃ」
テネヴァスは起き上がることができない。
グラキャスでさえ歯を食いしばっている。
「そうか、絶望が必要だったのか。道理で無理だったわけか」
グラキャスが誕生してから三十二億年間、一度も感じたことのない絶望という感覚。
その絶望をたった今、初めて感じることができた。
「ちっ! 急ぐんですけどっ!」
アレファスが魔人から魔王へ上位への進化したように、そして七姉妹昴星が聖人から聖王へ上位への進化したように、魔竜も竜王へ上位への進化する。
そのことは魔竜たちも知っていた。
だが、これまで魔竜たちにその機会が訪れることはなかった。
破壊的な強さを誇り、誕生した時から魔竜という至高の存在には、上位への進化など必要ないからだ。
そのため魔竜たちは、竜王への上位への進化の条件を真剣に探ることはなかった。
「いい頃合いじゃ。ワシらも竜王へ上位への進化してもいいじゃろう」
グラキャスは上位への進化の理に気づいた。
最初の上位への進化は『追求、探求、努力』で始まる。
二段階目の上位への進化に必要な条件は『絶望』だ。
七姉妹昴星は何らかの理由で、深い絶望を味わった。
グラキャスは、その理由もほぼ特定した。
「ワシらは絶望などと無縁じゃったが、いい機会じゃ。利用させてもらうとしよう」
メロペがヴィオラステッキを振り、グラキャスを止めにかかった。
もう力をゆっくり出す必要はない。
「これが最大出力なんですけどっっっっ!!!!」
テネヴァスもグラキャスも、味わったことがない激痛が走る。
「きゃああああ!!!!」
テネヴァスは叫び、グラキャスは苦悶の表情を浮かべる。
「み、みんな! 急いでっっっっ!!!!」
メロペが姉妹たちに向かって叫んだ。




