第90話 七姉妹4
限界値170億のケイが、得意のジャッロカードを放った。
フェルム、シルヴァ、レーシェ、レオール、エレトゥス、ルーファス、ファンシアの七柱に向かって黄色く光るカードが飛ぶ。
直撃すれば身体が切断されるだろう。
「鋼鉄の壁!」
フェルムが手をかざすとフェルム鋼の壁が現れた。
甲高い金属音とともに、ジャッロカードが地面に落ちていく。
「へえ、意外とやるっしょ。でも、防ぐだけっしょ?」
ケイは再度、両腕を交差させた。
「獅子咬裂斬っ!!」
「巨象踏天破っ!!」
「餓狼咆突爪っ!!」
「白豹雪月花っ!!」
ケイの隙をつき、レオール、エレトゥス、ルーファス、ファンシアが四方から飛びかかった。
あまりにも限界値に差があることを知った魔獣たちは、それぞれ初手で最大の必殺技を放つ。
魔竜にも届くほどの攻撃だ。
「なにそれ? 遊びっしょ?」
四方向から同時に攻撃が直撃したケイ。
だが、一切のダメージはなく、ケイは何食わぬ顔でジャッロカードを出した。
「雑魚のみなさん、さようなら! っしょ!」
ケイがジャッロカードを放つ。
これで魔獣の命は終了となる。
はずだった――。
「あまり人のことを雑魚とか言わないほうがいいわよ?」
ジャッロカードが地面に落下した。
シルヴァの魔法だ。
アクアスの権能が付与された水女神の杖をかざし、シルヴァの得意魔法である空気を操った。
「銀月の光跡!」
レーシェが間髪入れず、一筋の銀の光となり、ケイに突進した。
手に握るはグラキャスの権能がついた氷の剣だ。
光跡は凍り、舞い上がった塵が輝く。
標的を凍らせ破壊するという、美しくも残虐な必殺技だ。
「だから、効かないんだって!」
レーシェの銀月の光跡が直撃してもケイは無傷だった。
圧倒的な戦力差。
一対七の戦いであっても、限界値170億と8千万強の差は歴然だ。
「雑魚は雑魚っしょ!」
ケイは一気に終わらせようと、全力でジャッロカードを放つ。
「くっ! 鋼鉄の壁っ!」
フェルムが鋼鉄の壁を繰り出すも、カードはフェルム鋼を貫通した。
その瞬間、全員が絶望を感じる。
「はい、終わりっ!! しょっ!!」
そして、ジャッロカードは全員の胸を貫いた。
***
限界値190億のエクトラが、ロッソトライデントを振り上げた。
エクトラの燃えるような赤い三つ編みが大きく揺れる。
対する限界値9千万のマレム。
「深海!」
マレムが手をかざすと、エクトラの身体が海水に沈み込む。
エクトラの周囲のみ、世界で最も深いマレム海峡を再現している。
通常であれば強烈な水圧で即死だ。
「うお、こりゃすげえな」
極僅かに動きが鈍くなった程度で、エクトラには全く効果がなかった。
ロッソトライデントを振り下ろすと、深海は破られ、海水が爆音を立て破裂した。
「マジか。深海を破るのかよ」
「なあ、マレムさん。あんたは生かすようにお願いするから、降参してくれよ」
「嫌だね」
「マレムさんとなら、上手くやれそうな気がするんだよ」
「やっぱり口説いてる?」
「うーん、そうかもしれない」
「俺、こう見えて尻に敷かれんの嫌なんだよ! 渦潮!」
エクトラの周囲に猛烈な渦が発生し、飲み込んでいく。
「うちは恐ろしい姉ばかりだからな。強い女はごめんだよ」
強烈な渦が二つに斬り裂かれた。
その中心には赤い髪のエクトラが、ロッソトライデントを握って立っている。
「くそ、マジかよ……」
「優しくするからさ、マレムさん」
マレムですら、絶望の底に落とされた。
***
限界値200億のマイハと、1億8千万のアクアス戦。
マイハのビアンコクローによって、アクアスは徐々に追いつめられていた。
「ねえ、あなたの三十六億年の中で、最も命の危険を感じているんじゃない?」
「そんなことないわよ」
「強がっちゃって……。もう死になさい!」
「くっ!」
マイハのビアンコクローが、ついにアクアスを捉えた。
首筋から胸に向かって、斜めに腕を振り下ろす。
「この星はもらうわ! あーはははは!」
声を上げて笑うマイハは、容赦なくアクアスの身体を真っ二つに斬り裂いた。
「あっけなかったわね」
マイハは少しだけ寂しそうな表情を浮かべながら、斬ったアクアスを眺めた。
「なっ! 消えたっ!」
真っ二つに斬られた身体が、水の塊となり大地に崩れ落ちる。
そして、草原に吸収されていった。
「驚いたわ。あなた、本当に強くなったわね」
アクアスが少し離れた場所に姿を見せた。
「危なかったわ。装飾の水よ」
「ちっ、面倒な権能ね」
「だって私、水だもの」
「その水がほしいのよ」
「あのねえ、私たちはこの星そのものよ? 私たちが死んだら、星も終わるのよ?」
「ふーん……。じゃあ、殺さずに捕らえて生かせばいいわけでしょ? 私たちのために、一生水として生きるの。いいじゃない」
口調とは裏腹に、マイハの攻撃が激しさを増す。
「くっ! 本当に強くなったわね!」
「ここで勝たなきゃ終わりだもの!」
マイハがビアンコクローを振り下ろし、アクアスが装飾の水で凌ぐ。
同じことの繰り返しとなってきた。
「まさに水論ね、アクアス。ふふふ」
「なに上手いこと言ったって顔してるのよ。でもね、間違っているのは、あなたたち七姉妹昴星よ」
マイハには笑う余裕があり、アクアスは焦りが大きくなる。
このままではマイハに敗れる。
表には出さないが、アクアスは少しずつ絶望感に支配されていった。
「勝てばいいのよ。勝者が正しいの」
「乱暴な意見ね」
「じゃあね、アクアス。水として生きて。さようなら」
ついにマイハのビアンコクローが、アクアス本体に届いた。




