第89話 七姉妹3
六女アステロがゆっくりと歩くと、波打つ長い緑髪がバサバサと揺れる。
「おーい、俺の相手は誰がしてくれんの?」
アステロの身長は、七姉妹では最も高い。
今この地にいる中でも、魔獣のエレトゥスに次いで高いほどだ。
そして、その身長よりも長く大きな斧、ヴェルデアックスを右手に握っている。
「私だ」
「テラムか。なあ、ここは何だ?」
「私たちの町だ」
「私たちの町? 前に来た時は何もなかったが、自分で作ったってことか?」
「うむ、そうだ。みなで力を合わせて作ったのだ。凄いだろう?」
「そりゃ凄いわ。それに、めっちゃいいところだな。こんなところに住んでみたいと思っていたんだよ」
「星に帰って自分たちで作れ」
「正論、耳が痛いぜ」
「他人から奪うな」
「……仕方がないんだよ。これ、戦争なんだよね」
アステロがヴェルデアックスを構えた。
アステロの限界値は300億だ。
対してテラムの限界値は8千万。
普通に考えたら勝負にもならない。
「加減をしないと、星を壊しちまうからな」
「私の大地は壊れんぞ」
「私の大地か。憧れる――ぜっっ!!」
アステロはヴェルデアックスを大きく振り回した。
***
末っ子のメロペが、同じく末っ子テネヴァスの前に立つ。
「あーしの相手、ちびっ子なんですけど?」
「あんたも小さいじゃん」
高身長が揃う七姉妹の中で、メロペは最も身長が低い。
それでもテネヴァスよりは頭一つ分大きい。
「テネちゃんの権能はデタラメだけど、今のあーしには敵わないんですけど?」
メロペは自分の紫色のツインテールを両手でそれぞれ握り、振り回して遊んでいる。
「あーしはアルちゃんに次いで強くなったんですけど? 勝負にならないんですけど?」
限界値1億5千万のテネヴァスでは、500億のメロペに到底敵わない。
「ちびのくせにムカつく……」
悪態をつくテネヴァスだが、限界値の差は歴然だ。
焦るテネヴァスの肩に、凄絶な美女がそっと手を乗せる。
「テネヴァス。ワシも戦おう」
「グラキャスお姉ちゃん!」
「卑怯ではなかろう? お主たちは侵略者じゃ」
余裕だったメロペの表情が一変した。
すぐさまヴィオラステッキを構える。
「グ、グラちゃんかよ……」
限界値3億のグラキャスとはいえ、メロペの足下にも及ばない。
だが、この星では最強を誇るグラキャスだ。
メロペもそのことは十分理解している。
「くっそ! ヤバめなんですけどっ!」
メロペがヴィオラステッキを振った。
***
七姉妹昴星最強を誇る、四女アルキューネ。
風に流れる青い長髪を耳にかけながら、アレファスを見つめている。
「ねえ、おじさん。もしかして魔王?」
「まあな」
「私たち以外で『王』は初めて見たわ。魔竜だって、その領域はまだだというのに」
「お前たちも魔王なのか?」
「違うわ。私たちは聖人だったの。それが色々あって上位への進化で、聖王になったわ。私たちの星は本当に過酷だったから、その分強くなったみたい」
「いやいや、だからって強くなりすぎだろ?」
アルキューネの限界値は1千億だった。
魔王となったアレファスの240億をも大きく上回る。
「まあいい。俺はアレファスだ」
「私はアルキューネ。会ったばかりで申し訳ないけど……死んでね。アレファス」
アルキューネが申し訳なさそうな表情で、深々と頭を下げる。
そして顔を上げると、勇敢な戦士の表情に変化していた。
アルキューネが左手を伸ばす。
すると、青く輝く弓が出現した。
「弓?」
「私のアズーリボウは人数が多くても関係ないのよ」
アルキューネが弓を引き、空に向かって矢を放つ。
十五本の青い光が大きく弧を描いた。
「まさか?」
アレファスは咄嗟に空へ飛び立つ。
「全員分かよ!」
十五本の矢はここにいる魔竜や魔獣、シルヴァの全員分だ。
全員格上と戦闘している中で、矢に対処できるわけがない。
「全部斬りゃいいんだろ!」
まだ空の飛び方を理解していないアレファスだが、とにかく必死に身体をコントロールしてクレイモアを振った。
矢が降り注ぐ前に、辛うじて全員分の矢を斬ったアレファス。
無我夢中で着地した。
「空飛べるって卑怯ね」
「その弓のほうが卑怯だろ! なんだよ! 全員分って!」
「私の能力に呼応してくれるのよ。聖人の頃は二十本しか射ることができなかったの」
「ん? 二十本?」
たった今、矢を射った数は十五本だ。
そこでアレファスは理解した。
アルキューネは力を抑えていた。
「いくわよ!」
アルキューネが弓を空に向けると、一本の大きな光の矢が放たれた。
天を駆け上る光の矢は、上昇速度と引き換えに高度を得て空中で静止する。
同時に光の矢が分裂を始めた。
今度は高度と引き換えに、落下速度を手に入れた無数の矢が地上に降り注ぐ。
「私の矢は実体があってないようなもの。聖王になって、千本放てるようになったのよ」
「くそっ! あんなもんが降り注いだら全員死ぬぞっ!」
アレファスは咄嗟にクレイモアを構えた。
「神速の無音斬り!」
降り注ぐ矢に向かって、アレファスが横斬りを放つ。
音を置き去りにした衝撃波は、千の矢を一本残らず消滅させた。
「っぶねー。なんだよその弓」
「嘘でしょ……。あれを全部斬るなんて非常識にもほどがあるわね」
「千本の矢を放つ弓のほうが非常識だろっ!」
怒鳴るアレファスに向かって、アルキューネは弓を構え、躊躇なく千の矢を発射した。
矢をつがえる必要がないアルキューネは、さらに空中に向かって千の矢を放つ。
「き、汚えぞ!」
「勝負に汚いもないわよ」
「くそが! 間に合えよ!」
アレファスは自分に迫る光の矢に向かって、右手に握るクレイモアで神速の無音斬りを放つ。
そして、左手で空に向かって魔王爆砕拳を繰り出した。
「ま、間に合ったか」
アルキューネの二千本の矢は全て消滅していた。
「な、なにそれ……。あなたデタラメ過ぎない?」
ただただ驚くアルキューネ。
全員を殺すつもりで放った光速の矢が、後から繰り出された攻撃で全て消滅した。
アレファスの攻撃は矢の速度を上回る。
「ふう。矢が全部消されてしまうなんて信じられない。だけど、アレファスは完全に後手に回っているわ。仕方ないわね。我慢比べよ」
このまま射ち続ければ、限界値が高いアルキューネが勝つ。
アルキューネは長期戦に持ち込むことにした。
「アルキューネか。こいつは長引くと厄介だな」
アレファスは弓を見た瞬間、長期戦を狙う作戦に出た。
アルキューネの矢が切れたら勝ちだからだ。
しかし、アルキューネの矢に実体がないことを知る。
ということは、事実上、矢が切れることはない。
消耗戦を狙う意味がなくなった。
1000億もの限界値があれば、矢は無限という判断だ。
「そもそもこっちが負けてんだ。消耗戦とかだせえこと言ってないで、最初から全力でやるべきだったぜ」
アレファスはクレイモアを構えた。




