第88話 七姉妹2
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マイハの指の爪が白く光り、ナイフのように伸びる。
「ビアンコクロー!」
マイハは叫びながら、アクアスの美しい顔を切り裂かんと、腕を大きく振り下ろした。
だが、アクアスはマイハを水で包む。
マイハの攻撃速度が遅くなったことで、アクアスは後方に飛び退いた。
「驚いちゃった。マイハちゃん、いつの間に聖人から聖王になったの?」
「うるさい! 死ねっ!」
アクアスの言う通り、マイハたち七姉妹は辺境の星に住む聖人だった。
それが上位への進化を経て、今や聖王だ。
限界値は大きく伸び、長女のマイハは200億に達していた。
アクアスの1億8千万とは比べものにならない。
だが、アクアスは限界値の差を権能でカバーする。
マイハの攻撃をことごとく水で覆っていた。
「ふう、やはりこの星では圧勝まではいかないようね」
水で怒りを冷やされたわけではないが、マイハの表情は元に戻っている。
単純な力勝負なら圧倒的に勝利できるが、この星では魔竜の権能が厄介だった。
「逃げてばかりじゃない、アクアス」
「だって、あなた強いんだもの」
「どう足掻いても、勝てないわ」
「そうよねえ。200億だもの」
「今降参すれば、メイドくらいにはしてあげるわよ。水汲みで」
「はあ、田舎者って嫌ねえ。水汲みって何よ。今は水道があるのよ?」
「こ、殺すっっ!」
マイハの爪による攻撃が激しさを増す。
***
赤髪の女が、マレムの前に立つ。
「エクトラか。お前の限界値190億なんてやべーな。俺なんて9千万だぞ?」
「わけあって聖王になったからね。マレムさん。悪いけど死んでもらうよ」
エクトラは七姉妹の次女で、年齢は十四億歳だ。
身長はマレムよりも指三本ほど高い。
腰まで伸びる赤い髪を、一本の長い三つ編みにしている。
エクトラが赤い三叉槍を構えた。
「ロッソトライデントか。美しい武器だな」
「武器だけ?」
「まあ、お前も美しいとは思うよ。だけど、侵略はいかんだろ」
「口説いても無駄だよ?」
「口説いてねーだろ!」
エクトラが、身長よりも長いロッソトライデントを大きく振りかざした。
マレムは即座に大波を作り出し、エクトラに浴びせる。
だが、エクトラはロッソトライデントを縦に振り、目の前の大波を切った。
同時に大波が白煙を上げ、猛烈な速度で蒸発していく。
「ちっ、厄介だな」
「マレムさん、無駄だよ。限界値に差があり過ぎる。勝負にならないよ」
「やる前から諦めるわけないだど」
「さすがだね。そういうところ好きだよ」
「口説いてんの?」
「口説いてないよ!」
エクトラは再度ロッソトライデントを構え、マレムに振りかざした。
***
七姉妹の三女、タルテが黒いレースのリボンを取り出す。
黒い長髪を後頭部で結び、ポニーテールにした。
戦闘で髪が邪魔にならないようにするタルテの儀式だ。
「僕の相手は双子君ね」
そう呟きながら、タルテはウェントスとエルメスの正面に立つ。
タルテは七姉妹の中で、身長は下から二番目だ。
それでも、ウェントスとエルメスより僅かに高い。
「ウェントス。こいつ、ちょっと背が伸びたみたいだな」
「前は僕たちと一緒くらいだったのにね」
「限界値はちょっとじゃないけどな」
ウェントスとエルメスの限界値はそれぞれ7千万だ。
それに対し、タルテの限界値は250億に達する。
二柱を足したとしても、誤差にもならない。
「君たち二柱同時に相手にしてあげるね」
タルテは剣を二本握った。
「ネーログラディウスだよ」
つや消しの黒い双剣を構えるタルテ。
刃も柄も全てが黒く、光を吸収するかのような不気味さを放つ。
「出た。黒い剣。ガキが好みそうだな」
「うん。正直ダサいよね」
「しかも双剣だって。ぷぷっ」
「この子、そういうの凄く好きそう」
「あの儀式って奴も恥ずかしいよな」
「普通のポニーテールなのにね」
悪戯な双子の名の通り、二柱の息はピッタリだった。
「う、うるさいなっ!」
タルテは叫びながら、二柱に突進していく。
***
アクアスの言いつけを守り、魔獣たちを庇うように立っていたテラム。
「テラム兄様! レーシェと魔獣は僕が守ります!」
そこにフェルムが駆け寄った。
愛する者は自分で守りたいと思うフェルムだった。
「うむ、分かったのだ。私は別の者を相手にしよう。守り抜けよ、フェルム」
「はい!」
シルヴァも神樹の杖を持って駆けつけた。
「私もこちらで!」
シルヴァは限界値が最も低くなる魔獣たちをカバーするつもりだった。
もちろん自分自身の限界値も高くないことは理解している。
だが、アレファスや魔竜たちの戦いに参加すると邪魔してしまう。
テラムがシルヴァの肩に手を置いた。
「シルヴァ、頼んだぞ!」
「お任せください!」
その様子を見つめるケイは、七姉妹の五女だ。
身長はフェルムと全く同じ。
七姉妹は平均身長が高い。
ケイは右手で黄色い短髪を無造作に掻いていた。
「テラムのほうが強いっしょ? フェルムなんかでアタシの相手になるの? しかも雑魚ばっかりなんだけど」
「君だって七姉妹昴星で一番弱いだろ?」
「い、言うじゃないか。クソバカ真面目魔竜のくせに」
フェルムは特に煽っていない。
真面目が故に正しいことを言っているだけだ。
ケイは170億Heという途方もない限界値だが、七姉妹では最も低い。
「フェルム、私も戦うわ」
「レーシェ、危険だ」
「いえ、私は今こそ戦わなければいけないのよ」
レーシェは以前、セディルナ村を攻めた。
村を完全に破壊したにもかかわらず、こうして住まわせてくれていることに多大なる恩を感じていた。
「姫! 我らも戦います!」
「あなたたちは下がりなさい!」
「今戦わなくてどうするんですか!」
魔獣たちはレーシェと同じことを口にした。
「そうね……。分かったわ。みんな、死んじゃダメよ」
「「「「はい!」」」」
レオールを筆頭に、エレトゥス、ルーファス、ファンシアが応えた。
この六柱の限界値を合計しても、6千万に満たない。
「ふふふ。私、邪魔になっちゃうかしら」
シルヴァが加わり、ようやく7千万を超えた。
ケイが小さく溜め息をつく。
「はあ。弱い者イジメみたいになっちゃうけど、仕方ないっしょ」
ケイが両腕を交差して構えると、掌に五枚ずつカードが現れた。
「まあ、ジャッロカードは大人数に強いしね。っしょ!」
ケイがフェルムたちに向かってカードを飛ばした。




