第87話 七姉妹1
俺たちは町外れに移動した。
広い草原に七つのクレーターが生まれ、草と土が焼けている。
その煙の中から、七つの影が姿を見せた。
どうやら人型のようだ。
先頭に立つ女が、俺たちを見つめながら笑顔を浮かべる。
「あらあ? お出迎えかしら?」
「久しぶりね、マイハ。何しに来たの?」
「あなた、アクアスじゃない。あなたがこんなところにいるなんて驚いちゃったわ」
マイハと呼ばれた女は、透き通るような白い髪で、身長は俺と同じくらい高い。
容姿だけは美しいかもしれないが、侵略者には嫌悪感しか湧かない。
「ねえ、あなたたち。着いたばかりで恐縮だけど、帰ってもらえるかしら?」
「そんなこと言わないでよ。今回こそ、この星をいただこうと思っているの」
マイハが、俺の顔をじっと見つめている。
「魔竜がこんなに揃っているとは思わなかったわ。それに見ない顔もいるわね」
「彼は最近生まれたばかりなのよ。でも、この星の希望よ」
「希望? そんなおじさんが?」
「アレファスちゃんも、十五億歳のあなたに言われたくないわよね」
「うるさいババアですこと」
突然、マイハが水に包まれた。
アクアスの仕業だ。
「ババアですって?」
「ふふふ。いいわね、その表情」
マイハが笑うと、アクアスの水が一瞬で弾かれた。
全く効いていないようだ。
「アクアス、先に謝っておくわ」
「何かしら?」
「私たち強くなり過ぎたみたい。ごめんなさいね。今日、この星をもらうわ」
マイハが恍惚とした笑みを浮かべている。
念願叶うといったところだろうか。
エルメスがそんなマイハを見つめながら、アクアスの隣に立つ。
「アク姉! そのクソババアが言ってることは正しいぜ!」
「ク、クソババアですって! 私よりも年上のくせに何を言ってるの、エルメス!」
「んだ? ババアのクセに気が短いな」
「殺す!」
マイハの白髪が逆立った。
憤怒の表情でエルメスを睨む。
大地が揺れ、空気が張りつめた。
エルメスの奴、口が悪いと思っていたけど、味方にするとこれほど頼もしいとは思わなかった。
痛快とはこのことだ。
「エルメス! もしかして、こいつらの限界値が見えんのか⁉︎」
「もちろんだ、アレっさん!」
「一番強いのはどいつだ! 俺が始末する!」
「一番強いのは……アルキューネだ!」
エルメスが青髪の女を指差す。
俺はてっきりマイハが一番強いと思っていた。
「え? そのクソババアじゃないのか?」
「そいつは長女ってだけだよ、アレっさん。まあでも一応強いけどね」
「そうか。ただ年を重ねているだけか」
アクアスが笑みを取り戻し、俺とエルメスの肩に手を置いた。
「あなたたち、マイハに失礼でしょ。んん……」
そう言いつつ、アクアスは笑いを堪えている。
ここぞとばかりに煽る恐ろしい女だ。
「こ、殺す! 星ごと壊してやる!」
「姉さん落ち着きなって。星に住めなくなるでしょ。もう少しなんだから我慢しなよ」
赤髪の女が、マイハをなだめている。
「そうそう、僕らを怒らせるのはこいつらの手だもん」
黒髪の女が同意している。
「ねえ、もういいからやっちゃおうよ。すぐ済むっしょ」
「そうだ。早く殺そうぜ」
「あーし一人で全員殺れるんですけど?」
黄髪、緑髪、紫髪の女が面倒くさそうな仕草を取っている。
「みんな、私たちは強くなったけど油断しないで。それと、そのおじさんだけ突出しているから私が戦う」
青髪の女が俺を見つめている。
エルメスが言っていたアルキューネという名の女だ。
「私はアクアスをギャフンと言わせるわ」
マイハがアクアスに向かって不敵な笑みを浮かべた。
相当自信があるのだろう。
しかし……。
「なあ、エルメス。今どきギャフンなんて言うか?」
「アレっさん、そう言うなって。こいつらの星は田舎だから古いんだよ」
エルメスがマイハに同情すると見せかけて、絶妙にムカつく表情を浮かべていた。
「そうそう、おばさんは服もダサいしね」
テネヴァスがマイハを指差す。
そう言うテネヴァスは、マイハと同じ十五億歳だ。
「だな。流行がめっちゃ遅れてんだよ。すげー田舎の星団だからな」
「うむ、未だにろくな調理もせず、素材のまま食べている原始の者たちだからな」
「え? 調理を知らないんですか? そんなことありますか?」
マレム、テラム、フェルムの男三人衆が盛大に煽る。
「ねえねえ、アクアスお姉ちゃん。この人たちかわいそうだから、お塩くらい分けてあげようよ」
「そうね、ついでにお肌にいい石鹸もあげようかしら。よく見ると、マイハちゃんはお肌が荒れているものね」
「田舎で苦労してるんだね。やっぱりかわいそう」
ウェントスとアクアスは本気で心配しているようだが、絶対に煽っている。
「こ、殺すっっっっ!!!!」
マイハが怒鳴ると、身体が光に包まれた。
何かするようだ。
「お主たち、事実とはいえ煽りすぎじゃ」
グラキャスが最も煽っているような気がする。
マイハが瞬時に凍結した。
「今の光で、この星を壊そうとしておったぞ?」
グラキャスが氷で阻止してくれたようだ。
マイハ以外の女たちが、一斉にグラキャスに視線を向けた。
「げっ! グラキャスがいるぜ!」
「こいつ強いんですけど?」
「でも、もう雑魚に成り下がったっしょ」
赤髪、紫髪、黄髪が反応している。
「ほら、もうやるよ」
「ええ、気を引き締めてね」
黒髪の言葉にアルキューネが頷きながら、マイハの氷に触れる。
すると、パリンとガラスが割れたような音が響き、氷が砕けた。
「殺すっっっっ!!!!」
マイハの怒号が飛ぶ。
それが合図かのように、七姉妹昴星たちが散った。
「おい、エルメス! こいつら強いんだろ!」
「そうだよ! 限界値は遥かに上だよ。みんな気をつけろ! ババア200億! エクトラ190億――」
エルメスが七姉妹それぞれの限界値を全員に伝えた。
「そ、それほどか! おいアクアス!」
「テラムちゃん! 魔獣を守りなさい!」
「わかったのだ!」
アクアスが指示を出すと同時に、七姉妹は魔竜たちと対峙した。
「死ね! ババア!」
「マイハ!」
激昂したマイハが、アクアスに襲いかかった。




