第86話 星を狙う存在
「実はね、この星に魔竜がいるように、他の星にもそういう存在がいるのよ」
「え?」
「私たち魔竜は他の星に興味がないから外に出ないけど、この星に攻めてくる者たちがいるのよ」
「な、なんだと!」
アクアスの話に、俺の理解が追いつかない。
いつも妖艶な笑みを浮かべているアクアスだが、今だけは真剣な表情だ。
その瞳を見ると冗談を言っているとは思えない。
それに、月にも魔獣の存在はあったので、可能性としては考えられる。
「ま、待て。百歩譲って他の星にも生命体があると仮定しよう。この星に攻めてくる理由は何だ?」
俺の驚きをよそに、グラキャスは優雅にハーブティーを楽しんでいる。
「この星は他に比べて奇跡的なほど豊かじゃからのう。この星を乗っ取るつもりなんじゃ」
「星の乗っ取り……。そんなバカな……」
星の乗っ取りなんて信じられないが、そもそも魔竜の存在自体が常識の範囲を超えている。
俺自身魔王というわけの分からない存在だし、ここは素直に受け入れたほうが早い。
最近は考えるだけ無駄だと思っている。
「ってかよ、もしそいつらが来たら、撃退すればいいだけだろ?」
「うふふ、さすがアレファスちゃんね」
それに冷静に考えてみれば、以前の人間による侵略と変わらない。
相手が別の星の生物になっただけだ。
この町を破壊する者は許さない。
「普通の相手だったらその通りよ。これまでもそうしているもの。私たちで対処しているわ」
「ん? 普通の相手? そうじゃない奴らもいるのか?」
「ええ、そうよ。宇宙には危険な存在がいるのよ。ね、グラキャスちゃん」
グラキャスが小さく頷いた。
魔竜が危険と言うのだから、余程のことだろう。
「うむ。それがルクロスの今の状態に関係する」
「ルクロスの状態?」
「星を狙う者たちは撃退すればよい。じゃが、星そのものを破壊しようとする存在がおるのじゃ」
「な、なんだと?」
「過去一度だけ来た。奴は宇宙を飲み込んでいく。あまりに強大で、ワシらでも対応が厳しくてな。星が飲み込まれる直前に、ルクロスが能力を全開放して守った。その代償で、ルクロスは幽閉されておるのじゃ」
「それが事象の地平面って場所か」
幽閉されているということであれば、助け出す必要があるのではないだろうか。
「それでルクロスは、迎えに来てと言っていたのか」
「そうね。今すぐというわけではないけど、将来的には助け出さないといけないわね。またあの存在が来た時には、ルクロスちゃんが必要だもの」
「なるほどね。つまり魔王となった俺なら、ルクロスを助けることができるかもしれないというわけか」
「そういうことよ。ただ、いつ来るか分からないのよねえ」
アクアスが小さく溜め息をついた。
「姉さんたち! 大変だ!」
突然、ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。
「あら、マレムちゃんの声ね。入っていいわよ」
扉が開くと、マレムが珍しく血相を変えていた。
「奴らだ! 奴らが来た!」
その言葉を聞いた二柱は、すぐに部屋を出た。
衝撃でティーカップが倒れ、テーブルにハーブティーがじわりと広がる。
俺もすぐに二柱を追った。
町の広場で空を見上げると、青空に火球が降り注いでいた。
さっきの隕石より一つ一つは小さい。
だが、その数は七つある。
「七つの火球ね」
「七姉妹昴星じゃろう」
アクアスとグラキャスが空を見上げている。
「七姉妹昴星?」
「名の通りじゃ。七姉妹が住む星じゃ」
「それはどこにあるんだ?」
「他の星団にあってのう。片道で四千万年ほどかかる」
「よ、四千万年だって!」
「そうじゃ。これまでも何度か来ておるぞ。暇な奴らじゃよ」
「よ、四千万年前に星を出発したってことか……」
まさか、アクアスたちと他の星の存在を話している時に、その存在が来るとは思わなかった。
しかも、出発が四千万年前だという。
なんという偶然だ。
「彼女たち強いのよ。前回は辛うじて撃退したけど、また来たってことは勝算があるのかもしれないわね」
「前回? 前回はいつ来たんだ?」
「七億年前ね」
「な、七億年前……」
「その前は九億年前だったかな。何回か来てるのよ」
俺たちが話していると、マレムがウェントスとテネヴァスを呼んだ。
「バラバラに降りられると面倒だ。ウェントス、テネヴァス、町外れに引っ張れるか」
「うん」
「分かったよ」
ウェントスとテネヴァスが、上空に向かって手をかざした。
さっきの隕石をここに落とした時と同じことをやるのだろう。
「怒風の咆哮!!!!」
「引力の拘束!!!!」
七つの火球が徐々に軌道を変える。
テラム平原に向かって落下してきた。
超上空にあるうちはゆっくりに見えるが、近づくにつれ、猛烈なスピードで落下していることが分かる。
「来るぞっ!!」
テラムが叫ぶと同時に、七つの火球が轟音とともに地上に落下した。




