第84話 魔王君臨
猛烈な速度で空を駆け上がっていくが、不思議と息は苦しくない。
空気の抵抗をほぼ感じないからだ。
きっとシルヴァの魔法のおかげだろう。
地上に目を向けると、シルヴァたちが豆粒に見えた。
開拓したセディルナ町もこうしてみると小さい。
「おっと、今は地上を気にしている場合じゃない」
俺は視線を空に向けた。
隕石に近づくにつれ、その大きさを実感する。
当初は俺の家くらいの大きさだと思っていたが、そんなレベルではない。
「間近で見ると、デカいな……」
小さな山一つ分くらいの大きさはあるだろう。
こんなものが地上に衝突したら、テネヴァスが言っていた通りそれこそ大陸が一つ消えてしまうかもしれない。
「テラム平原は大丈夫だと言っていたけど、無理じゃねーか?」
いくらテラムの大地とはいえ、無事では済まないはずだ。
「まあ、やってみるか」
俺は隕石に意識を集中させた。
◇◇◇
アレファスの身体は、音よりも速く巨大隕石に向かっていた。
隕石もまた、音速の十数倍の速さで落下している。
大気との摩擦で真っ赤に熱せられた隕石は、所々で炎が上がっている。
「もってくれよ! 俺の身体!」
お互いが猛烈なスピードで衝突した。
衝突音が発生する前に、衝撃波が広がっていく。
あまりの衝撃波で空が歪むほどだ。
もしこれが地上付近だったら、木々はなぎ倒され、全ての建物が吹き飛んだことだろう。
少し遅れて大空を引き裂くような轟音が鳴り響いた。
地上にいる者たちは、空の咆哮を聞いたはずだ。
「止まれええええっっっっ!!!!」
衝突によって炎に包まれたアレファス。
だがシルヴァの魔法で熱は感じない。
「くっそおもてー!!!!」
歯を食いしばり、全身に力を入れ、両手を伸ばして隕石を止める。
遥か上空にいたアレファスだったが、隕石によって大幅に押し戻されていた。
このままでは地面に衝突してしまう。
「止まれっつってんだろ!!!!」
アレファスの力によって、隕石のスピードが徐々に遅くなっていく。
そこで異変に気づいた。
「あ、あれ? 俺……空飛んでんのか?」
***
「ね、ねえ、シルヴァ。アレファス、空飛んでない?」
「そ、そうね。魔法なんて使えないのに、どうしてかしら? 非常識にもほどがあるわね」
「アレファスらしいわね。ふふ」
「そうね。もう、あの人が何をやっても驚かないわ。ふふふ」
当初は驚いていたレーシェとシルヴァだが、アレファスだから何でもありだと笑っていた。
「さすがはアレファス様だ。炎に包まれる姿は、もはや神々しい」
「ルーファス。あんたアレファス様に喧嘩を売ったんでしょう?」
「信じられんよな。こいつは魔獣の恥さらしだ」
「いや、だってよ……。あんなにやべー人だとは思わないだろ……」
魔獣のレオール、ファンシア、エレトゥス、そしてルーファスが、驚愕の表情を浮かべていた。
「アレファスめ。人の姿のまま空を飛んでいるぞ。私でも魔竜の姿に戻らなければ空を飛べぬというのに」
「魔王に目覚めたし、物理法則から外れたんだろうよ。マジでおもしれーな」
先ほどまで危機感を抱いていたテラムとマレムだが、今はもう焦りすらない。
安心して上空を眺めている。
「アレっさん、すげーな。あんなの俺でも止められねーよ」
「うん。アレファス兄ちゃんかっこいいね」
エルメスとウェントスが羨望の眼差しで、アレファスを見つめていた。
「あの隕石、新しい鉱石があるかもしれないな。研究させてもらえるように、アレファスさんに頼んでみよう」
「出た、鉱石マニア。隕石見るとすぐ興奮する」
鉱石のことしかないフェルムに、ただただ呆れるテネヴァス。
二柱にとって、アレファスは心配するだけ無駄だと感じていた。
「アレファスちゃんの魔王化は想像以上だったわね」
「うむ、そうじゃな」
「大丈夫だと思う?」
「こうなると、心配なのは我らじゃな」
「そうね。私たちが足を引っ張らないように頑張らないとね」
アクアスとグラキャスは、魔王の力を解放したアレファスを見つめていた。
◇◇◇
「ふう、止まったぜ。しかしだな……」
俺は隕石を止めることに成功したのだが、そんなことよりも驚くことがあった。
「空……、飛んでるよな……」
飛んでいるというか、空中を自在に動ける。
どこでも進むことができるし、どこでも止まることができる。
地面に立つように、足を踏ん張ることも可能だ。
「まあ便利だからいいか。こういうのは深く考えたら負けだ。はっはっは」
山のような大きさの巨大隕石を頭上に持ち上げながら、俺はゆっくり地上へ降りていく。
セディルナ町では魔獣や魔竜のみんなと、シルヴァが手を振って空を見上げていた。




