第83話 隕石
朝食を終え、いつものように作業を開始した。
空を見上げると、雲一つない快晴だ。
「よっしゃ、今日も働くぜ」
新たに増えた魔獣や魔竜たちは、各々得意な能力を使って働いている。
適材適所だ。
「アレファス! ここに棚作って!」
「アレファスさん! 水漏れです!」
「アレっさん! ビールないっす!」
「アレファス、肩を揉め」
みんなが一斉に声をかけてきた。
最後のテラムはぶん殴ってやろうかと思ったほどだ。
「ふざけんじゃねーぞ!」
「あなたが限界値を労働力って言い出したんじゃない」
シルヴァが微笑みながら腕を掴んできた。
そう言われると何も言い返せない。
「アレファスは240億の労働力だからな。はっはっは」
マレムが庭の海で釣りをしながら、爽やかな笑い声を上げている。
「ってか、庭に海があるってなんなんだよ……」
マレムは海を拡張した。
その理由がウェントスだ。
風竜ウェントスは風を操ることができるため、波を発生させている。
すでにテネヴァスによって潮の流れもあるため、完全な海だった。
「マレム兄ちゃん。釣り、楽しいね」
「そうだろ。でかい魚釣ったら捌いてやるからな」
「うん!」
マレムの隣で、ウェントスも釣り竿を握っている。
そこへ数本の竿を持ったフェルムが姿を見せた。
「マレム兄様、新しい竿とリールを開発しました。使ってみてください」
「お、助かるぜ、フェルム。お前も釣っていけよ」
「はい。リールの調整をします」
朝からきっちりスーツを着こなしているフェルム。
スーツで釣りをする魔竜の姿を見ると、ついつい笑ってしまう。
「ん? なんだ?」
雲一つない青空に、長い尾をつけた光球が見えた。
流れ星だろうか。
しかし、こんな真っ昼間に流れ星なんて見えるわけがない。
「なんだありゃ? やけにゆっくり動いているように見えるな」
「アレファスちゃん、あれは隕石よ。ゆっくり見えるけど超上空だもの。恐ろしいほど速いわ」
「速い? あれで?」
「んー、ちょっとマズいわねえ」
アクアスが俺の隣で空を見上げていた。
異変に気づいたテラムとテネヴァスが、俺たちの元に走ってくる。
「アクアスお姉ちゃん。あの大きさと落下速度だと、大陸一つ消し飛ぶよ」
「おい、テネヴァス。どの大陸に落ちるか分かるか?」
「今計算してる。えーと、落下速度と進入角度と……」
「テラム平原に落とせぬか?」
「分かってるよ! うるさいな!」
「いたっ!」
テラムの太ももを叩いたテネヴァスが、ウェントスに視線を向けた。
ウェントスは竿を置き、空を見つめている。
「ウェントスお姉ちゃん! 私が引力の拘束で引くから、怒風の咆哮で飛ばして!」
「うん!」
「行くよっ!! 引力の拘束!!!!」
「怒風の咆哮!!!!」
テネヴァスとウェントスが隕石に向かって手をかざすと、一直線に落下する隕石が曲線を描くように不自然に軌道を変えた。
「クソバカ兄貴! 軌道を変えた! テラム平原に落ちるよ!」
「うむ、問題ない。落ちる前に超爆裂大地拳で壊してくれるわ」
テラムが拳を構えた。
だが、マレムがその腕を掴む。
「ダメだ、テラム。破片が飛び散って逆に面倒だ。あの状態のまま受け止めろ」
「そ、そうか。分かったのだ」
テラムが全員を見渡した。
「この地に落ちるが、我が大地は平気だ! 皆、衝撃だけに備えろ!」
これだけの魔竜がいても、隕石の落下は止められないようだ。
辛うじて方向を変えるだけだという。
いや、それ自体凄いことなのだろう。
だが――。
「なあ、アクアス。魔竜でもあれは止められないのか?」
「そうね。今の私たちの力じゃ、破壊はできても止めることは無理ね」
「そうか。んじゃ、俺が止めるわ。できそうな気がすんだよ」
「え? い、いくらアレファスちゃんでも……」
「もし無理だったとしても、落下速度は落とせるだろ?」
何もやらないよりはマシだ。
「しかし、熱そうだな」
巨大隕石は真っ赤に熱せられているように見える。
あれを素手で止めると、さすがに火傷しそうだ。
「シルヴァ! 俺に耐熱の魔法をかけてくれ!」
「そんな魔法ないわよ」
シルヴァが呆れた表情を浮かべながら、両肩をすくめている。
「全く……。私のこと何でも屋だと思っているでしょう?」
「何でもできる凄い魔女さ」
「もう!」
俺を睨みながら頬を膨らませたシルヴァ。
ただ可愛いだけだ。
「空気の層を作るから、それで我慢して」
「ああ、ありがとう」
「あなたのことだから大丈夫だと思うけど、無理しないでよ」
「今無理しなくていつすんだよ?」
「それもそうね。ふふふ」
シルヴァが微笑みかけてくれた。
この笑顔を見ると、何でもできるような気になるから不思議だ。
「アレファス、お主は死なぬ。だから極限まで無理するのじゃ。熱はワシが冷ましてやる」
「ぼ、暴論だな……」
グラキャスがめちゃくちゃなことを言っている。
だが、期待していることは分かる。
「ここは俺たちの町だ。守るさ」
俺の限界値は無駄に突出しているのだから、こういう時に役立てるべきだろう。
これこそ適材適所というものだ。
「テラム! 超爆裂大地拳で俺を空に飛ばせ!」
「き、貴様! 私の超爆裂大地拳を砲台に使うでない!」
「早くしないと間に合わないぞ!」
「ちっ! 死ぬでないぞ!」
「俺は死なねーよ!」
俺は両腕を胸の前で交差させ、ガードの姿勢を取った。
テラムが姿勢を低く保ち、地面すれすれで拳を振る。
そこからアッパーの要領で拳を突き上げた。
「超爆裂大地拳!!!!」
「ぐぅぅ! さすが超爆裂大地拳だ! くそいてーぞ!」
「余裕で受けるんじゃない! あとは頼んだぞ!」
俺の身体は巨大隕石に向かって打ち上がった。




