第82話 限界値の測定5
エルメスが両手を空に上げると、快晴だった青空に一筋の薄い雲が生まれた。
それが徐々に増えていき、エルメスの頭上で灰色の雲が渦を巻く。
なんとも禍々しい雲だ。
渦の中では、いくつもの稲妻が走っている。
まるで竜が踊っているようだ。
「ぐ、ぐぎぎぎぎ! 溜まってきたぞ! アレファス! 行くぞ!」
「お、おいおい……」
エルメスの身体から、バリバリと激しい音を立てながら無数の雷が放出され始めた。
髪の毛が逆立ち、全身が紫色に光る。
紫色の瞳孔が黄色い稲妻の形に変化し、口元には牙が出ている。
エルメスのこの姿を見れば、ヤバいことは一目瞭然だ。
俺は空を見上げ、拳を握り、歯を食いしばった。
「ぐがががが! い、行くぞ! アレファス!」
「お、おう!」
「死っっっっっっねぇぇぇぇぇぇ!!!! 奪命の雷光ェェェェェェ!!!!」
「てめえ! 死ねって言っただろっ!」
俺はまばゆい光に包まれた。
◇◇◇
気づいたら、俺は真っ白な空間にいた。
周囲を見渡すと、天も地も地平線もない。
本当に何もない空間だ。
「うちの子たちがごめんね」
「だ、誰だ!」
「あの子たち、楽しくなっちゃったみたいね。うふふ」
巨大な竜が姿を現した。
全身が白く輝いている。
二枚の巨大な翼。
二本の角、白い瞳、長い手足と尻尾。
なんというか、テラムたちとはまた違う竜だ。
神々しいとはこのことだろう。
「あ、あの……ここは?」
「事象の地平面よ」
「事象の地平面?」
「今はまだ分からなくていいわよ。それに、アクアスとグラキャスは理解しているわ」
言っている意味が全く分からない。
だが、この竜の容姿と、話す内容から魔竜なのだろう。
「アレファス。これから少し大変になるわ。あの子たちをよろしくね」
「よ、よろしくって言われても……」
「私はまだ出られないのよ。だから、あなたの力を全て解放するわね」
「か、解放って?」
「魔王の限界値よ」
竜の身体が白く輝いた。
「な、なあ! あんたの名前は!」
「ルクロ……ス。また……ちゃんと……迎え……来……ね……」
白い竜の姿が消えた。
◇◇◇
「おい! ルクロス!」
叫ぶと目の前に凄絶な美女の顔があった。
「アレファス。お主、ルクロスに会えたか?」
「え? グ、グラキャス?」
「質問に答えい」
「え? ルクロスって?」
「白い竜が見えたじゃろ? なんて言っておったのじゃ?」
「えーと……。あれ、憶えて……ない……。なんか、大変になるとか、出られないとか言っていたような気がする……」
「そうか。まだ無理か」
グラキャスがアクアスに視線を向けた。
アクアスは頷き、少しだけ残念そうな笑みを浮かべていた。
「えー! ズルい!」
テネヴァスが叫びながら俺の太ももを何度も叩いてくる。
「ルクロスお姉ちゃんに会ったの!」
「ルクロスお姉ちゃん?」
「そうだよ!」
アクアスがテネヴァスの頭を優しく撫でた。
「アレファスちゃん。ルクロスちゃんはね、始原の十三竜の長女なの」
「長女……」
俺はまだどこにいるのか分かっていない。
心と身体が分離しているような、不思議な感覚だ。
「テネヴァス。アレファスに重力の砲弾を打て」
「え? し、死んじゃうよ?」
「アレファスは死なぬ」
「わ、分かったよ。じゃあいくよ」
テネヴァスが俺に向かって両手をかざした。
「重力の砲弾!」
突然、全身に激しい痛みを感じた。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「アレファス、気がついたか?」
「こ、ここは?」
「セディルナ町じゃ」
グラキャスの言葉を聞きながら、周囲を見渡した。
確かにセディルナ町だ。
「思い出したぞ。俺、ルクロスと会っていたんだ」
「知っておる。そうなるように仕向けたのじゃ」
「あー、ルクロスもなんかそんなこと言ってたよ」
「体調はどうじゃ? 肉体と精神が離れておったから、多少無理やりじゃが接合した」
「今はすっきりしてる」
「ふむ。では、エルメス。アレファスを測るのじゃ」
エルメスが再度俺を見つめた。
「わ、わーっっっっ!」
腰を抜かしたかのように、エルメスが地面に尻餅をついた。
「に、にににに、240億……」
「に、240億だと?」
エルメスから信じられない言葉を聞いた。
「ふむ、それくらいか。魔王じゃしのう」
「アレファスちゃん、凄いじゃない」
グラキャスは冷静に答え、アクアスは笑顔で俺に抱きついてきた。
この二柱以外は、完全に言葉を失っている。
「お、俺が……240億?」
「そうじゃ。それが魔王の力じゃ」
「予想よりも多かったけど、それくらいはいくわね」
グラキャスとアクアスが頷いていた。
俺は自分の掌を見つめる。
特に何も変わってない。
「まあでも、どうせ何も変わらないんだろ?」
「今はね」
「今は? ルクロスが大変になるって言っていたことと関係あるのか?」
「そうよ。ただ、私も正確な時期が分からないのよ」
「何かが起きるってことか?」
「ええ、そうよ。だからアレファスちゃん。これからよろしくね」
「あ、ああ。よく分からんが、ルクロスにも言われたよ」
マレムとテラムが俺の肩に手を置いてきた。
「まだ分からない先のことを言っても仕方がない、まずは目の前を片付けるぞ」
「そうだな、マレム兄よ。おい、アレファス! 肉を食うぞ!」
「よし、食うか!」
俺たち三柱は、焼き上がる肉をどんどん食いまくった。
「アレファス、ワインがないぞ?」
「お、お前! 飲み過ぎだろ!」
グラキャスが六樽目のワインを飲み干していた。
こいつは底なしだ。
せっかく作ったワインがなくなってしまう。
「ビールだ! ビールを持ってこい!」
エルメスが叫び始めた。
そこで思い出した。
「おい、てめえ! さっき殺すって言ってたな?」
「え? な、何のことだ?」
「ふざけんじゃねーぞ! お前はビール禁止だ!」
「な! 横暴だ!」
俺はふと思いついた。
限界値なんて聞いても、何の役にも立たない。
だが、この限界値は労働力に換算できるかもしれない。
戦いの数値なんかよりも、労働力として表したほうが楽しいに決まっている。
「エルメス。今からこの町では限界値を労働力として見なす」
「はあ? ダサくねーか?」
「バカだな。労働ってのは尊いものだ。いいか、自分でビールを造ればいくらでも飲めるんだぞ?」
「そっ、そうか!」
「お前は7千万エルメスもあるんだからな」
「や、やるよ! 俺、ビール造る! 最高のビールを造る!」
「いいぞ! 世界最高のビール職人になれ!」
俺はエルメスと肩を組んで、ビールで乾杯した。
◇◇◇
限界値
ファンシア 40万He
ルーファス 70万He
エレトゥス 90万He
レオール 100万He
レーシェ 150万+500万He
シルヴァ 850万+800万He
フェルム 5千万He
エルメス 7千万He
ウェントス 7千万He
テラム 8千万He
マレム 9千万He
テネヴァス 1億5千万He
アクアス 1億8千万He
グラキャス 3億He
アレファス 240億He
◇◇◇




