第81話 限界値の測定4
エルメスの表情が引き締まった。
俺は魔竜たちを見渡す。
「残り三柱はテネヴァス、グラキャス、アクアスか。グラキャスとアクアスがヤバいのは分かるが、テネヴァスもなのか? 末っ子だろ?」
「そうだけど、テネはちょっとおかしいんだよ」
話題にしたテネヴァスが、頬を膨らませている。
「おかしいって何よ」
「凄いってことさ。テネ、お前は1億5千万だ」
「わあ、1億超えたんだ。テラムお兄ちゃん殺せるかも」
テネヴァスが笑顔でテラムを睨む。
ニヤリと笑うその表情は、本気のような気もする。
「1億5千万って……。テラムの倍近くあるぞ。おい、テラム。殺されたら骨は拾ってやる」
「むむむ、テネヴァスめ……」
テラムは悔しさと恐怖が入り交じってるような表情を浮かべている。
以前アクアスが「テネヴァスちゃんは特別」と言っていたが、まさにその通りだった。
まあ重力とかわけの分からない権能だし、当然といえば当然か。
エルメスがアクアスを見つめた。
「アク姉はさすがだな。1億8千万」
「あら、テネヴァスちゃんより上なのね」
アクアスが椅子に座る俺の背後に回った。
そして俺の肩に両手を置き、顎を頭に乗せる。
俺は頭の上のアクアスを見ようと、視線を動かした。
「マ、マジかよ……。お前、ダントツですげーじゃねーか」
「あのねえ、私はこう見えて原初の三女だもの。一応特別なのよ。うふふ」
アクアスなんてマレムの倍だ。
庭に海を作ってしまうマレムを二柱分とか、意味が分からない。
だが、アクアスは初めて会った時からずっとおかしかった。
「いきなり湖を作ってたもんなあ……」
「何よ」
「お前、ヤバい奴だったんだな」
「いいお嫁さんでしょ?」
「ふざけんじゃねーっつーの。そんな化物、嫌だよ」
「か弱い女の子に向かって化物なんて言う? 酷い!」
「か弱いって何だ? 星を壊せるのに? ぐ、ぐぐ、首を……絞めるな……」
アクアスが俺の背後から腕で首を絞めてきた。
「んじゃ、魔竜最後はグラ姉だ」
グラキャスは特に気にせず、優雅にワインを飲んでいる。
どうやらワインを気に入ったようだ。
もうすでに大樽を三樽飲んでいる。
こいつも化物過ぎる。
「さ、ささ、3億……」
「そんなものか。ふむ」
「い、いやいや、グラ姉。3億なんて信じられないから……。マジで……」
この場の全員が引いている。
テラムが顔面蒼白だったのは言うまでもない。
グラキャスだけは怒らせるなという言葉を強く思い出し、俺は心に刻んだ。
「じゃあ最後はアレファスな」
身体の周囲に細かい稲妻が走る。
同時にビリッと全身が痺れた。
「アレファスは1億だ」
「す、凄い……」
シルヴァが珍しく目を見開いて驚いている。
レーシェを筆頭に、魔獣どもは完全に放心状態だった。
テネヴァスは不思議そうな表情を浮かべている。
「ねえねえ、エルメスお姉ちゃん。アレファス兄は魔王なんでしょ? 王って上位じゃん? もっといくんじゃないの?」
「それがよ、テネ。隠れてるみたいで、俺にも見えないんだよ。ぶっちゃけ、上位種なんて見たことねーしな」
アクアスが俺のジョッキにビールを注いでくれた。
「魔人、魔獣、魔竜の上位種が魔王、獣王、竜王になるの。でも、アレファスちゃんはまだ本当の力が出せてないのよ」
「本当の力? 俺にそんな力があるのか?」
グラキャスがグラスにワインを注ぐ。
これまで優雅に小樽でワインを注いでいたのに、今やもう大樽から注いでいる。
しかも、四樽目が空になったようだ。
「エルメス。アレファスに全力の奪命の雷光を打て」
「え? な、何を言って?」
「隠れた能力を引き出してもらう」
「い、いやいや、全力だとさすがに即死するぞ?」
「構わん。アレファスは死なぬ」
「わ、分かったよ」
勝手に話が進んでいる。
即死とか聞こえるんだが……。
「ま、待てよ、グラキャス! ふざけんじゃねーよ! 死ぬだろ!」
「お主は死なぬ」
「即死だっつってんだろ! 他人事だと思って!」
「ならワシの永遠の安息を受けるか? 全力を出すぞ?」
「や、やめろよ……」
グラキャスだけはダメだ。
マジで死ぬ。
こうなったら、その奪命の雷光とやらを受けるしかない……。
「おい、エルメス。死んだら一生恨むからな! 分かってんだろうな!」
「全力の奪命の雷光なんて、数千万年ぶりだな。へっへっへ」
不気味に笑うエルメス。
瞳がぐるぐる回り、瞳孔まで開いてる。
興奮しているようだ。
アクアスが俺から離れた。
「仕方ないわね。魔獣のみんなは私の後ろに来なさい。グラキャスちゃん、テネヴァスちゃん、被害が出ないように抑えてね」
「うん、分かった」
テネヴァスは素直に答え、言い出しっぺのグラキャスは五樽目の葡萄酒を飲み始めた。
もしかして、酔って適当なことを言っているのではないだろうか……。
「テラムちゃんとマレムちゃんは、シルヴァちゃんを守って」
「了解」
「分かったのだ」
シルヴァが二柱の背後に隠れた。
まああの二柱なら安心だろう。
「他のみんなは各自自分で守ってね」
そう言いながら、アクアスが真剣な表情で俺を見つめた。
「アレファスちゃん。死なないでね」
アクアスの儚げな表情を見て悟った。
俺……、死ぬかもしれない……。




