表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/76

第70話 アイスクリームとかき氷

 ついにアイスクリームパーティーの開催日を迎えた。


 まずはアイスクリーム作りだ。

 大角水牛のミルク、生クリームを鍋に入れて温める。

 別の容器で長毛鶏の卵、砂糖、果物の果汁をよく混ぜてから、少しずつ鍋に投入。

 液体に十分なとろみがついたところで、グラキャス氷河の氷を入れた桶に鍋を置き、ひたすら混ぜる。

 そうすることで液体が冷えて固まり、アイスクリームになる。


 俺は鍋を撹拌しながら、一つの疑問が浮かんだ。

 氷は鍋を冷やすためにしか使っていない。


「これ……、グラキャス氷河に行かなくてもよかったんじゃないか?」


 俺は撹拌する手を止め、氷の塊を一つ手に取った。

 冷凍庫でも氷を作ることができる。

 冷やすための氷なんて何でもいいはずだ。


「はあ。アレファスちゃんは魔王のくせにロマンが分からないのね」

「アレファス兄は、この氷がどれほど凄いか知らないんだよ」


 アクアスとテネヴァスが呆れた表情を浮かべていた。

 ってか、最近のテネヴァスは、俺のことをなぜか兄と呼ぶ。

 テラムと一緒にしないでほしい。


「なんじゃ、アレファス。ワシの氷がいらぬというのか?」


 突然、俺の右手が凍り始めた。

 もうすでに動かすことはできず、冷たさを通り越して感覚がない。


「待て待て待て! 凍らすんじゃねーよ!」

「姉様! このバカが申し訳ございません!」


 テラムが何度も頭を下げている。

 そんなテラムを全く気にせず、グラキャスが氷のような冷たい視線を俺に向けた。


「アレファスよ。その氷がいつのものか分かるか? 一億年前の氷じゃぞ」

「い、一億年!」

「そうじゃ。当時の空気も含んでおる。悠久の時を越えた氷じゃ」


 俺は凍った右手で掴んでいる氷を眺めた。

 そう言われると、仄かに青白く光を反射しているように見える。

 一億年前なんて俺には想像もできない。

 だが、なんとなく太古の雰囲気は感じることができた。


「なるほど。確かにロマンだな」

「そうであろう?」

「だがよ、いちいち俺の身体を凍らせるんじゃないよ」


 動かない右手を、グラキャスに見せつけるかのように差し出した。


「お主は何をやっても死なぬからのう。面白いのじゃ」

「面白がって人を凍らすな!」


 グラキャスが凄絶な笑みを浮かべていた。


 ***


 アイスクリームが完成した。

 味は全部で五種類。

 純粋なミルク味、果物の果汁味を三つ、そして砂糖をふんだんに使ったコーヒーミルクのアイスクリームだ。


「うわあ、美味しい。驚くほど滑らかな口当たりね」

「ええ。これまで食べた中で、最も美味しいわ」


 シルヴァとレーシェが、頬を掌で押さえながら感動している。

 その様子は、なんとも言えぬ可愛らしさだ。


「これほどのアイスクリームは、王都でも食べたことがないわ。んー、美味しい」


 レーシェが上品にアイスクリームを頬張っている。

 それにしても、フェルムの奴がレーシェの食べる姿を見つめながら、頬を赤らめているがなんなのだろうか。


 アイスクリームはガラス製の皿に取り分け、みんなで五つの味を楽しんでいる。

 グラキャスが皿を凍らせているため、溶けることはない。

 こんなことにグラキャスの凄まじい権能を使っていいのか分からんが、本人も楽しんでいるようなので問題ないだろう。


 テラムは大元の鍋ごと手に持ち、アイスクリームをレードルですくい頬張ってた。


「さすがは姉様のアイスクリームだ。旨いなんてものではない」

「アイスクリームって、そういう食い方するもんじゃねーだろ?」

「バカめ。旨いものは頬張れば頬張るほど旨味が増すのだ」

「お前にバカと言われるなんて、世も末だぜ……」


 テラムの理論は分からんが、どうせアイスクリームはいつでも作ることはできる。

 好きなだけ食べさせてやろう。


「じゃあ、みんな! かき氷を作るよ!」


 テネヴァスが全員を見渡している。

 しかし、かき氷とは何のことか。

 まあ大体想像はつく。


「かき氷って氷を食べるのか?」

「そうだよ。グラキャス氷河の氷を削って、フワフワの氷にするの。それにシロップをかけて食べると、極上の美味しさなんだよ。これが氷を取りに行った目的だもん」

「おいおい、旨いったって氷だろ?」


 シルヴァとレーシェが同時に「え?」と声を上げ、呆れた表情を浮かべていた。


「もしかして、アレファスはかき氷を知らないの?」

「嘘でしょ、信じられない……」


 いや、呆れた表情どころではない。

 明らかに引いている。


「アレファスちゃん……。そっか、辛かったのねえ」


 アクアスにいたっては、もはや俺に同情しているような表情だ。


「な、なんだよ! ただ食ったことないだけだろ!」


 かき氷を食ったことがないだけで、こんなに辱めを受けるのだろうか。


「「うん、うん」」


 テラムとマレムが、俺の肩に手を置いて頷いている。

 まるで自分たちだけは俺の味方だと言わんばかりに。


 このムカつく状況をどう打破しようか考えていたところ、フェルムが何やら機械のようなものを持ち出してきた。


「テネヴァス、持ってきたよ」

「ありがとう、フェルムお兄ちゃん」


 機械の大きさはフェルムの上半身くらいあり、ハンドルと円形状の土台に刃が備え付けられている。

 これで氷を削るのだろう。


「これは氷を回転させて削る機械です。アレファスさん、このハンドルを回してください」


 テネヴァスが冷凍庫から大きな氷を取り出し、機械にセットした。

 試しにハンドルを回してみると氷が回転し、土台の刃で削れていく。

 ザクザクと氷を削る音が心地よい。


 受け皿に氷が積み重なっていく。

 それは氷ではなく、雲のようなフワっとした形状だ。


「これが氷?」

「アレファス兄が最初に食べていいよ」

「いやいや、楽しみにしていたテネヴァスから食べろよ」

「私食べたことあるもん。食べてみんなに追いつきなよ」

「ぐっ……」


 盛大な嫌味に聞こえるが、テネヴァスに悪意はないだろう。

 テネヴァスからスプーンを受け取る。


「じゃあ、お先にいただくよ」

「ブドウのシロップでいい?」

「ああ、構わんよ」


 テネヴァスがブドウのシロップを氷にかけてくれた。

 濃厚な紫色の液体が、ゆっくりと氷に染み込んでいく。

 俺はかき氷のてっぺんをスプーンですくい、口に放り込む。


「な、なんじゃこれ! うっま!」


 驚くほどクリーミーな氷だ。

 もう少し歯応えというか、氷の粒を感じると思っていた。

 だが、一切の抵抗を感じず、濾したような滑らかさだ。


「かき氷って旨いんだな」

「グラキャスお姉ちゃんのかき氷は特別なんだよ」


 俺の隣で、テネヴァスがレモン味のかき氷を頬張っていた。


「あ、もう終わっちまった」


 山盛りだったかき氷が、すぐになくなってしまった。

 周りを見ると全員笑顔で食べている。

 シロップは何種類も用意されており、それぞれが好きな味をかけていた。

 その様子はカラフルで綺麗だ。


 だが……。


「お、お前……」


 テラムだけは一皿に全種類のシロップをかけている。

 カラフルだったシロップも、全部が混ざると異様な色だ。

 正直、毒々しい。


「この絶妙な配合! うむ、旨いぞ!」


 それぞれの味を台無しにしていると思うのだが、まあ旨いというのであればいいだろう。


「ねえ、グラキャスお姉ちゃん。お願いがあるんだけどいいかな?」

「なんじゃ、テネヴァス」


 末っ子のテネヴァスが、グラキャスに甘えた声を出している。

 その様子が、なんとも微笑ましい。


「このかき氷の溶ける速度を遅らせてほしいの」


 微笑ましいなんて思った俺がバカだった。

 溶ける速度を遅らせる?

 何を言っているのだろうか。

 いくらグラキャスでも、そんなことできるわけが――。


「よかろう」

「できるのかよ!」


 思わず突っ込んでしまった。


「当たり前だろ! 姉様に不可能なことはないのだ!」


 なぜかテラムが力説している。

 グラキャスは気にせず、テーブルの氷に視線を向けた。


「遅らせたぞ。食べてみるがよい」


 特に見た目は全く変わっていない。

 スプーンですくい口に入れた。


「こ、これは!」


 溶けるのではない。

 口の中でゆっくりとろけていく。

 食感としてはクリームチーズのような滑らかさだ。


「これは本当に美味しいわね。何杯でも食べられるわ」


 シルヴァが満面の笑みでスプーンを口に運んでいる。


 シルヴァ、レーシェ、アクアス、グラキャスは小皿で三杯。

 テネヴァスは普通の皿で三杯。

 俺とマレムとフェルムは四杯。

 そして、テラムは八杯食べていた。


 魔竜が体調を崩すことはないと思うが、それはさすがに食いすぎじゃなかろうか……。

 それでもテラムは物足りない表情を浮かべている。


 そんなテラムの肩に、アクアスがそっと触れた。


「テラムちゃん、もっと長い時間楽しみたいんでしょ?」

「う、うむ。旨いのだが、すぐになくなってしまうのだ」

「うふふ、そう言うと思ったわ」


 アクアスがかき氷の機械で氷を削る。

 そしてシロップをかけた。


「テネヴァスちゃん。この氷を圧縮してもらえる?」

「うん。いいよ」

「小さな玉にしてね」


 テネヴァスがかき氷に手をかざすと、氷が圧縮されていくつもの小さな玉に変化。

 皿の上にカランと音を立てて転がる。


「ねえ、グラキャスちゃん。この氷を溶けないようにできる?」

「もちろんじゃ」


 アクアスが微笑みかけると、グラキャスは小さく頷いた。


「溶けない氷?」


 俺は一つ摘み、さっそく口に入れた。

 口の中に入れても本当に溶けない。

 冷たい飴玉を舐めているような感覚だ。

 いや、まさに飴玉だ。


 溶けないのだが、舐めていると徐々に小さくなっていく。

 これは不思議な食感だ。


「これなら長く楽しめるでしょう?」

「うむ、ありがとう。姉上」


 テラムが皿を手に取り、氷玉を全部口に入れた。

 そして、バリバリと噛み砕いている。

 さすがのアクアスも苦笑いだ。


「テラム、それでは凍らした意味がないじゃろ! このバカ者が!」


 長く楽しむために作ったのに、一気に食べてしまったテラム。

 グラキャスが怒るのも無理はない。


「お主もそのまま溶けずにおれ」


 グラキャスによって、全身を凍らされたテラム。

 全員が当然といった表情を浮かべているのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ