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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第69話 陸地の海

 テラムとマレムが翼を大きく広げながら、セディルナ村に降り立った。

 アクアス、フェルム、レーシェの三柱が出迎えてくれている。


「みんな、ただいま」


 小屋から出て三柱に挨拶した。

 アクアスはいつものように笑顔だが、フェルムとレーシェは驚愕の表情を浮かべている。


「おかえりなさい。マレムちゃんも一緒に来たの?」

「そうなんだよ。色々と理由があってな」


 地面に氷塊を下ろしたマレムが、竜人の姿に変化した。


「姉さん! 久しぶり! フェルム、元気だったか?」


 二柱と挨拶をかわし、ハグをするマレム。

 陽気なマレムらしい。

 三柱とも懐かしそうに微笑んでいる。


 魔竜同士の『久しぶり』は、きっと気の遠くなるような年月なのだろう。


「アクアス、フェルム。息災であったか?」

「「え!?」」


 声をかけられた二柱が、同時に声を上げた。

 というか、この二柱がこれほど驚く場面を初めて見た。


「あらあ、グラキャスちゃんも来たのね」

「アクアス、久しぶりじゃの」

「もう、突然なんだから。ねえ、元気してた? あなたずっと寝てたんだもの」

「アレファスに叩き起こされたのじゃ。わはは」


 悪戯な微笑みを浮かべながら、俺を指差すグラキャス。

 どんな表情でも凄絶(せいぜつ)な美しさだ。


「それは謝っただろう!」

「あらあら、グラキャスちゃんとも仲良くなっているのね。アレファスちゃんは本当に凄いわねえ。うふふ」


 これでセディルナ村に魔竜が六柱も揃った。

 水竜アクアス、氷竜グラキャス、海竜マレム、地竜テラム、鉄竜フェルム、闇竜テネヴァスだ。

 魔竜の半数がこの地にいることを考えると星のバランスが心配になる。


「さて、じゃあまずは荷物を整理するか」


 グラキャス氷河の氷をレストランの冷凍室に保管した。

 アイスクリームパーティーは落ち着いたら開催する。


 続いて魚の氷塊だ。

 この巨大な氷塊は、さすがに冷凍庫に入らない。


「なあ、シルヴァ。これ、どうする?」

「そうね。数千匹の魚だし、一度氷を溶かしてから魚だけを冷凍するしかないわね」

「それでも冷凍庫には入らんよなあ」


 俺とシルヴァは氷塊を見上げる。

 すると、アクアスが俺たちの間に入り、肩に手を置いてきた。


「生け簀を作ればいいじゃない」

「生け簀?」

「小さな海を作って、そこでお魚を泳がすのよ。そうすれば、いつでも新鮮なお魚が食べられるでしょう?」


 また無茶苦茶なことを言い出すアクアス。

 それに、凍った魚はさすがに死んでいるはずだ。


「グラキャスちゃんの凍結はとても綺麗でね。組織を破壊しないから、仮死状態のようなものなのよ。私なら復活させられるの。でも、私以外だと死んじゃうから真似しちゃダメよ。うふふ」

「す、するわけねーだろ!」


 相変わらず、わけの分からないことを言うアクアス。


「で、こんな陸地にどうやって海を作るんだよ?」

「魔竜が六柱もいるのよ? 簡単よ」

「簡単って……」


 こうなったらアクアスに全てを任す他ない。

 常識人である俺に想像できるわけがないのだから。


「あなたが一番非常識なのよ?」

「心を読むんじゃねーよ!」

「そんなことできるわけないでしょう。アレファスちゃんは本当に分かりやすいのよ。うふふ」


 アクアスが笑いながら草原を指差した。


「畑の反対側に海を作るわよ?」

「それは構わんが、以前作った湖を海にするのはダメなのか?」


 アクアスがこの地に来た時、セディルナ村の少し離れた場所に巨大な湖を作った。

 湖の生態系は他の場所から移したとはいえ、魚の繁殖はこれからだ。


「塩を含むと大地に影響が出るのよ。農作物が育たなくなっちゃうからダメね」

「ん? それなら、ここでも変わらんだろ? むしろもっと畑に近いんだぞ?」

「大丈夫よ。遮断するから」

「遮断?」


 アクアスがテラムに微笑む。


「テラムちゃん。あの辺に穴を開けてもらえるかしら?」

「うむ、了解した姉上」


 テラムが手をかざすと、畑の反対側に直径二十メルテほどの穴が誕生した。


「フェルムちゃん。あの穴にフェルム鋼を敷き詰めてもらえる?」

「はい、アクアス姉様」


 穴に向かって両手をかざすフェルム。

 地表が薄いフェルム鋼で覆われていく。


「これで海水が大地に影響を及ぼすことはないわよ」

「だが、海水だぞ? 錆びないのか?」

「フェルム鋼は錆びないから大丈夫よ。うふふ」


 言うなれば、大地に巨大な鍋を埋め込んだようなものだろう。

 ここまで来れば俺もアクアスの意図は分かる。


 マレムが穴の正面に立った。


「姉さん、俺の出番かな?」

「ええ、マレムちゃん。お願いね」


 マレムが手をかざすと、どこからともなく水が湧き出てきた。

 マレムは海竜だし、この水は海水なのだろう。

 しばらくすると、穴が水で満たされた。

 指ですくって舐めてみると、海水と同じように塩辛い。


「しょっぱ!」

「もう、何やってるのよ」

「いや、本当に海水か確かめてみたいだろ?」


 俺の隣でシルヴァが笑いながら、俺と同じように指ですくって舐める。


「本当ね。海水だわ」


 グラキャスが俺たちの様子を「くくく」と笑いながら見つめていた。

 少し恥ずかしい。


「アレファス、氷塊を運ぶのじゃ。永遠の安息(レクイエ・アーテ)を解く」

「ああ、分かったよ」


 俺は氷塊を運び、そっと海水に落とし入れた。

 巨大な氷塊が海水に浮くと、ゆらゆらと漂っている。


「溶かすぞ」


 グラキャスの合図で、瞬時に氷が消失した。

 氷塊の中にいた魚たちが海水に浮く。

 だが、動きはない。


「なあ、これもう死んでるだろ?」

「仮死状態じゃな。とはいっても、通常なら生き返ることはない。ワシの永遠の安息(レクイエ・アーテ)を受けて生きておるのは魔竜とお主だけじゃ。わはは」

「いてっ」


 グラキャスが俺の背中を叩いた。

 パシッと乾いた音が鳴り響く。


「あらあら、仲がいいわね。うふふ。じゃあ、お魚を生き返らせるわよ」


 アクアスが海水に向かって両腕を伸ばす。


治癒の水(メディキナ・アクア)


 アクアスの両手から水が湧き出した。

 両手から溢れる水が、そのまま海水に零れ落ちていく。


治癒の水(メディキナ・アクア)か。久しぶりに見たぞ。相変わらずデタラメじゃのう」


 アクアスの隣で、グラキャスが微笑みながら眺めていた。

 二人とも信じられないくらいの麗人だ。

 まあ人ではないのだが、この二人が並ぶと美しさを通り越して恐怖すら覚える。


「さ、魚が!」


 水面に浮いていた魚が、突如として泳ぎ始めた。


 治癒の水(メディキナ・アクア)は、重傷をも瞬時に治癒する。

 実際、過去に瀕死のレーシェを回復した。

 その影響でレーシェの持つ魔獣の因子(モストゥセル)が覚醒したわけだが。


「なるほどね。確かに生け簀だ。これでいつでも新鮮な魚が食べられるというわけか」

「まだよ。海っていったでしょ?」

「まだって、これ以上何をすんだよ?」

「潮の流れを作るわ。テネヴァスちゃん」


 アクアスに呼ばれたテネヴァスが小さく頷きながら、海水に向かって円を描くように手を振った。


「潮流を作ったよ。ウェントスお姉ちゃんがいれば波も作れるけど、まずはこれで十分でしょ?」

「ええ、大丈夫よ。これで海のお魚を飼育することができるわね。海の完成よ。うふふ」


 俺とシルヴァとレーシェは顔を見合わせた。


「なあ、庭に海ができたぞ……」


 魔竜が六柱そろうと海を作ることができる。

 それはあまりにデタラメだった。

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