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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第65話 釣り人の正体

 テラムはマレム海峡の小さな島に上陸し、砂浜に小屋を置いた。


 俺たちはさっそく外に出て周囲を見渡す。

 雲一つない突き抜けるような青空。

 黄色い砂浜に打ち寄せる翠玉色の波。


「綺麗な海だな」

「ええ、透明度が高いわね」


 海は透明度が高く、小魚の泳ぐ姿が見えるほどだ。

 穏やかな景色に心が和む。


「ん? 釣り人?」


 砂浜に座りながら、釣り竿を握る男がいた。


「こんな場所に?」


 俺は男に近づいた。

 どうやらまだ一匹も釣れてないようだ。


 俺は釣り人に声をかけてみることにした。


「ここで何か釣れるのかい?」

「黒角鮪が釣れるんだよ」

「へえ、黒角鮪か! そりゃ凄いな!」


 超高級魚として知られる黒角鮪。

 俺は何度か食べたことがあるが、味で言えば魚の頂点に立つと言っていいほどの旨さを誇る。


「って、なんでここに人間がいるんだ?」


 怪訝な表情を浮かべる男が、竿を砂浜に置いた。


「マレム兄、久しぶりだな」

「マレムお兄ちゃん、久しぶり!」


 テラムとテネヴァスが男に近づいた。

 マレムと呼んでいる。

 ということは……。


「あ、あんたが海竜マレムか!」


 まさか海竜マレムが釣りをしているとは思わなかった。

 海と同じ青い髪は、まさに波のようにうねっている。


「なんだ? なんでテラムとテネヴァスがここにいる? しかも人間と一緒に」


 マレムが立ち上がり、テラムと肩を並べる。

 身長と体格はテラムとほぼ同じだ。

 年齢も二十代後半で、兄弟と言われれば確かにそう見える。


「色々と事情があるのだよ」

「事情? また面倒なことでもしているのか?」

「面倒ではない。楽しいことだ。それよりも、マレム兄は寝ていたんじゃないのか?」

「ああ、先日起きたんだよ。お前の領地から、とんでもない波動を感じてな。何やったんだ?」

「え? あ、ああ、ちょっとな」


 テラムが苦笑いを浮かべながら俺を指差す。


「あの男が山を斬ってな。その波動が届いたのだろう。すまんな」

「はあ? 山を斬っただと? 何言ってんだよ……」


 マレムが顎に手を当てながら、俺を凝視している。

 視線が上から下に動くと、今度は下から上に動く。

 何度か繰り返したところで、マレムが瞳を大きく見開いた。


「あ、あんた、魔人どころか魔王か! 信じられん!」


 どうやらマレムは俺の正体を見抜いたようだ。

 ひとまず挨拶をさせていただくとしよう。


「テラムに世話になっているアレファスです。よろしく」

「こ、こりゃご丁寧にどうも。マレムです。気軽に呼んでくれて構わない」


 俺はマレムと握手を交わした。

 どうやらマレムは気さくな人柄のようだ。


 俺たちにテネヴァスが近づいてきた。

 身長の低いテネヴァスが、マレムの顔を見上げている。


「マレムお兄ちゃん。元気だった?」

「よう、テネヴァス。お前がテラムと一緒にいるなんて珍しいな」

「まあ色々あってね。アクアスお姉ちゃんに会いたくてテラム平原に行ったの」

「アクアス姉さん? 待て待て、話が見えないぞ? なんでアクアス姉さんがテラム平原にいるんだよ」

「アクアスお姉ちゃんはね、少し前からテラム平原に住んでるんだ。今はフェルムお兄ちゃんもいるよ」

「なに? ってことは、テラム平原に魔竜が四柱もいるってことか?」

「うん。セディルナ村っていって、アレファスが作った村で生活してるの。美味しい野菜を作ってるよ。で、お魚の天ぷらを食べようってことになって、お魚を獲りに来たんだよ」

「天ぷらだと?」


 マレムが再度俺に視線を向けた。


「アレファスの村、えーと、セディルナ村か。そこで魚の天ぷらを作るのか?」

「ああ、うちの天ぷら将軍が、魚の天ぷらを所望していてね。獲りに来たんだ」

「天ぷら将軍?」

「めちゃくちゃ天ぷらを作るのが上手いんだよ。マレムも来るか?」

「魚の天ぷらか。ふむ……」


 腕を組んで考え込むマレム。


「ところでマレム兄よ。なんで釣りなんてしているのだ? マレム兄なら釣りの必要はないだろ?」

「寝起きに釣りは最適なんだよ。何も考えずに、ただボーッとして竿を見つめる。これを百年くらいやってると目が覚めるんだ」


 釣りで百年……。

 やっぱりマレムも魔竜だ。

 イカれている。


「マレムよ。お主も来るのじゃ」

「え?」


 マレムが声の方向へ身体を向けた。


「ねねねね、姉さん! な、なんで!」


 一切の気配を出さずに、グラキャスが立っていた。

 足元から僅かに冷気の白い煙が出ている。


「何をそんなに驚いておる」

「う、嘘だろ……。姉さんが領地を離れるなんて……」

「テラム平原でアイスクリームパーティーを開催するのじゃ。お主も来るのじゃ」


 両目を見開き、驚愕の表情を浮かべているマレム。


「ね、姉さんが行くなら、そりゃ俺も行くけど……」


 マレムがテラムに視線を向けると、何度も大きく頷いていた。

 早く同意しろという合図だ。


「分かった。俺も行くよ」

「では、魚を用意するのじゃ」

「どれくらいいる?」

「そうじゃの。どれくらい必要じゃ、テラム」


 グラキャスに問われると、テラムが姿勢を正す。


「はい! 我が天ぷら将軍の味は保証しますであります! 絶対に旨いので、たくさんの魚が欲しいであります!」

「お主が食いたいだけじゃろう?」

「そ、そんなことはございませんが、姉様にたくさん味わってほしいのです!」


 テラムの発言に苦笑いを浮かべるグラキャスは、マレムの肩に手を置いた。


「だそうじゃ」

「分かったよ。じゃあ、適当に用意するよ」


 魔竜たちの壮大な会話に、シルヴァが緊張しながら手を挙げて割って入ろうとしている。


「あの、グラキャス様。冷凍庫に限りがあるので、それほどの量は運べないかと……」


 シルヴァが申し訳なさそうな表情で、グラキャスに告げた。

 今回、冷凍庫は四つ持ってきているが、グラキャス氷河の氷を大量に持ち帰ったため空きは一つだ。

 その一つの冷凍庫に魚を入れる必要がある。


「ふむ、シルヴァよ。魚に関してはワシが処理する」

「かしこまりました」


 グラキャスにお辞儀をするシルヴァ。

 シルヴァもまだ、グラキャスには恐怖心があるようだ。

 無理もない。

 俺でも油断すると、グラキャスの覇気に押されるほどだから。


「おいおい、この女性も魔人か。どうなってんだ?」


 マレムがシルヴァを見つめている。


「シルヴァと申します。マレム様、どうぞよろしくお願いいたします」

「こ、これはご丁寧に。マレムです」


 マレムがシルヴァと握手を交わした。


 グラキャスがその場を仕切るように手を叩いた。

 まるで楽器のように、美しく澄んだ音色が響く。


「マレムよ。お主が魔竜の姿に戻り、魚を運ぶのじゃ」

「あ、そういうことね。分かったよ。じゃあ、魚を引き揚げるから、あとは頼んだよ、姉さん」

「うむ、任せておけ」


 マレムが海に向かって手をかざした。

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