表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/77

第63話 氷のお茶会

空間の凍結(スティウム・グラト)


 グラキャスは咄嗟に両手をかざし、俺の斬撃を防ぐ。

 斬撃は氷の大地を深く切り裂きながら、地平線まで伸びていった。

 だがグラキャスは無傷だ。

 それどころか、余裕というか呆れた表情を浮かべている。


「なんという威力じゃ。バカげておるのう。さすがは魔王と言ったところか。くくく」

「く、くそが……」


 氷の大地を深く斬り裂く俺の斬撃を、グラキャスは難なく防いだ。

 これが魔竜の力。

 魔王という存在になったとはいえ、敵わぬ相手だった。


 だが、殺されるとしても最後まで抵抗するつもりだ。

 俺はもう一度クレイモアを構えた。


 なぜかグラキャスはシルヴァに視線を向けている。


「お主の名は?」

「シ、シルヴァと申します」


 シルヴァは緊張しながらも、グラキャスに対し深く頭を下げた。


「あの小屋からコーヒーの香りがする。すまぬが一杯いただけるか?」

「か、かしこまりました」


 シルヴァが再度お辞儀をして、小屋に向かって走った。


「グラキャスお姉ちゃん! やりすぎだよ!」


 テネヴァスが頬を膨らませながらグラキャスに迫る。


「魔王の力を見てみたいじゃろ?」

「だからって! アレファスが死んだらどうするの!」

「死にはせんよ。ワシよりも強いぞ、この男」

「はああ!? お姉ちゃんより強い存在なんて、この世にいるわけないじゃん! 互角に戦えるのは原初の三女(トレデプリアス)くらいだよ!」

「お主だって恐ろしく強いぞ?」

「もう! ふざけないでよ!」


 テネヴァスが両手を頭上に伸ばし、グラキャスの胸を何度も叩いている。

 子どものケンカのようだ。


「お、おい、テネヴァス」


 俺は思わずテネヴァスに声をかけた。

 危険じゃなかろうか。


 だが、グラキャスは特に気にせず、愛おしそうにテネヴァスの頭を撫でている。

 そして、俺に身体を向けた。


「アレファス。改めて挨拶しよう。氷竜グラキャスじゃ」

「ア、アレファスです」

「くくく、さっきの勢いはどうした?」

「い、いや、それは……」

「テラムの親友か。あの子が生まれて二十八億年で初めての親友じゃ。その言葉嬉しかったぞ」


 俺に対し、笑みを浮かべるグラキャス。

 信じられないほどの美貌だ。

 シルヴァもアクアスもレーシェも人外の美貌を持つが、グラキャスの美しさは飛び抜けている。

 言葉が出ない。


「あ、あの……大変失礼しました」

「寝ているところを起こされたのじゃ。ワシも少し苛ついてのう。すまぬな」

「それについては私の落ち度です。申し訳ありませんでした」


 俺は深く頭を下げた。


「くくく、その口調はやめい。先ほどの怒りに震えていたままでよい」

「し、しかし……」

「構わぬ」

「わ、分かったよ」


 グラキャスは笑顔のまま、テラムに視線を向けた。


「テラム、何をしておる」

「はっ! ね、姉様! たたたた、大変失礼しました」


 頭を下げたまま硬直していたテラムが、突如として動き出した。

 恐らく凍らされていたのだろう。


 グラキャスの元へ駆け寄るテラム。


「もうよい。ゆっくり話をしようぞ」

「は、はい!」


 グラキャスが地面に手をかざすと、氷のテーブルと椅子が現れた。

 細部まで美しく彫刻されたかのような見事な装飾だ。


 ちょうどシルヴァがトレーにコーヒーを乗せて戻ってきた。


「シルヴァ、ワシ以外の者に魔法をかけるがよい」

「かしこまりました」


 シルヴァの魔法で、俺の身体の周りにもう一度空気の層ができた。


「それで氷の椅子に座っても大丈夫じゃろう」

「お気遣い、ありがとうございます」


 シルヴァが一礼し、テーブルにコーヒーカップを並べた。


 ***


 俺、シルヴァ、テラム、テネヴァス、そしてグラキャスでテーブルを囲む。

 グラキャスはコーヒーをブラックのまま飲んでいる。


「ふむ。旨いのう」


 寝起きということは、グラキャスにとって数千万年ぶりのコーヒーになる。

 いや、そもそもそれほどの太古に、コーヒーがあったのか疑問だ。

 だが、コーヒーの存在を知っているということは飲んだことがあるのだろう。

 魔竜に細かいことを突っ込むよりも、全て受け入れるほうが楽だ。


「テラム、説明せい」

「はい。極上の氷をいただきたく、この地に来たのであります。少しだけ氷を削って持ち帰るつもりが、アレファスが氷山ごと崩してしまい、姉様の眠りを妨げてしまったのであります」

「ふむ。まあ起きてしまったものは仕方がない。それに、旨いコーヒーが飲めたのじゃ。許す」

「あ、ありがとうございます」


 テラムが深々と頭を下げる。


 テネヴァスが無邪気な笑顔をグラキャスに向けた。


「ねえ、グラキャスお姉ちゃん。私、エスプレッソを淹れることができるよ。飲んでみる?」

「エスプレッソ? なんじゃ、それは?」

「圧力をかけて淹れるから凄く濃いの。普通は砂糖を入れて飲むんだけど、寝起きのお姉ちゃんならそのまま飲んでもいいかもね」

「ふむ、淹れてくれるか?」

「うん!」


 テネヴァスが空中に重力場を作り、高圧でコーヒーを淹れる。

 何度見ても信じられない権能だ。


「ほほう。この苦み、五千万年の眠気すら覚めるのう。旨いのじゃ」


 グラキャスが満足げな表情を浮かべている。


「ところで、テラム。満足のいく氷は採れたのか?」

「はい。おかげさまで採ることができました。ありがとうございます」

「その氷で何をするのじゃ?」

「テネヴァスの希望で、アイスクリームを作るのであります」

「アイスクリームか。旨いのか?」

「姉様の氷を使うのですから、旨いこと間違いなしであります」

「ふむ。では、ワシも行こう」

「え!」


 グラキャスの言葉を聞き、テラムが思わず立ち上がった。


「し、しかし!」

「嫌なのか?」

「こ、光栄であります!」

「アクアスとフェルムにも会いたいしのう」


 瞳を閉じながら、エスプレッソを口にするグラキャス。


「姉様。我々はこのあと、マレム海峡にも行く予定であります」

「そうか。では、マレムにも顔を見せるとしよう。すぐに発つのか?」

「はい。氷は採れたので、このまま移動します」

「分かった。支度をしてくる。待っていてくれぬか?」

「承知いたしました!」


 そう言い残し、グラキャスがテーブルから姿を消した。


「グラキャスお姉ちゃんも来るなんて、凄いことになったなあ」


 甘いエスプレッソを飲みながら、テネヴァスが呟いた。

 

「うむ、姉様が領地を離れるなんて数億年ぶりだからな。帰ったらアイスクリームパーティーだぞ」

「やったあ! アイスクリームパーティーだ!」


 テネヴァスが立ち上がって両手を宙に掲げた。

 全身で喜びを表現している。


 やっぱりこの二柱は仲がいい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ