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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第55話 伝説のキノコ

「うん……、キノコは大好物……」


 めっちゃ恥ずかしそうだ。


 というか、好物を知られることが恥ずかしいのだろうか?

 レーシェはこの地に来てから、徐々に人間らしさを見せてくれる。

 それまでは、感情の薄いクソ真面目な騎士だと思っていたが、勤勉で好奇心溢れる、笑顔が似合う可愛らしい女性だった。


 まあ今は人間ではなく、魔獣の血を引く者だが。


「そりゃよかった。はっはっは」

「あ、あのねえ、アレファス! あなた笑ってるけど、価値を知らないのよ!」

「価値? んなもん、ちょっと珍しいキノコだろ?」

「やっぱり。知らないのねえ……」


 溜め息をつくレーシェ。

 勝ち誇ったような表情を浮かべている。


「な、なんだよ」

「これほどのマイタケなら、街で売ればこの塊で五十万。いえ、百万ルフはくだらないのよ?」

「ひゃ、百万ルフだと!」

「ええ、幻のキノコって呼ばれる意味が分かったでしょ?」

「お、おう……。しかし、これが百万ルフか……」


 人間だった頃の感情が抜けきれていない俺は、売却という言葉が頭をよぎった。


 アクアスが呆れた表情で、俺の肩に手を置く。


「アレファスちゃん。私たちにお金は必要ないわよ?」

「まあそうだけどさ、価値を知るにはいい指標になるんだよ」

「なるほどね。貨幣制度は価値の売買だものね」


 俺の言葉に、アクアスが妙に納得していた。


 レーシェが俺たちの会話を聞きながら、麻袋に右手を突っ込む。


「それとね。これも採ったのよ」


 レーシェが麻袋から一本のキノコを取り出した。


「なんだこれ?」

「これはマツタケよ」

「マツタケ?」


 マイタケと同じく、俺は初めて聞く名のキノコだった。


「グゴォォォォォォ!」


 テラムが咆哮を上げる。

 おかげで身体が大きく揺れた。


「グゴォォ! グゴォォ! グゴォォ!」

「お、おい! 落ち着け! 落ちるだろうが!」

「グゴォォ! グゴォォ! グゴォォ!」


 バランスを崩した俺を、今度はシルヴァが支えてくれた。

 シルヴァはフェルム鋼の棒に座り、宙に浮いている。

 その後ろに、ちゃっかりアクアスが座っていた。


「テラムちゃんが、『マツタケだぞ! 落ち着いていられるか! このバカ者が!』と言っているわよ。うふふ」


 キノコ一つで、ここまで感情をあらわにするものなのだろうか?


「ったく。いつも大げさだな」


 レーシェが俺の顔を見つめていた。


「アレファス。テラム様は間違っていないわよ。これほどのマツタケを街で売るとね。一本五十万ルフはくだらないわ。それを十本採ったのだから」

「な、なにぃぃぃぃ!」


 俺もテラムと同じような反応をしてしまった。


「マツタケはね、伝説のキノコと呼ばれているのよ」

「伝説のキノコ?」

「ええ、とても香りが高くて人気が高いのに、収穫時期と生息地域が非常に限られているのよ。私も人生で数回しか見たことがないわ」

「なるほどね。それほど貴重なんだな」

「やっぱりテラム様の領地は凄いのね。驚いちゃったわ」


 以前は人間として、この土地を手に入れようと侵攻してきたレーシェだ。

 肥沃なテラム平原のことは知っているだろう。

 それでも、ここまでの豊穣さは想像を超えたはずだ。

 それを知るきっかけが、キノコというのも面白い。


 レーシェがテラムの顔に向かって、姿勢を正し一礼した。


「さすがはテラム様です。感服いたしました」

「グゴォォ!」


 誇らしげな咆哮を上げたテラムは、そのままセディルナ村へ羽ばたいた。


 ***


 正午前に俺たちは村へ帰還した。

 着地するやいなや、竜人化したテラム。


「おい、アレファス! 食べるぞ! マイタケとマツタケだ!」


 マイタケの名の由来のように、踊りながら大騒ぎしている。


「なあ、ちょっとくらい休憩しようぜ」

「ふふふ、そうね。今、コーヒー淹れるね」


 全員でレストランに移動した。


「むぐぐ、早く食べたいのだ」

「ちょっとは待つってことを覚えろよ! クソ兄貴!」

「む、むぐぐ」


 テネヴァスに怒られながらも、テラムは不満そうな表情を浮かべていた。


「兄様、テネヴァスの言う通りです。我慢して食べると、より一層美味しいですよ。サウナ道と一緒です」

「わ、分かったのだ」


 サウナ道がどういうものか分からんが、テラムは納得していた。

 魔竜たちの会話は、ちょくちょく意味不明だ。


 シルヴァとレーシェが、コーヒーと紅茶を淹れてくれた。

 全員でしばしの休憩だ。

 その間もテラムの視線はずっとキノコに向いていた。

 まあ確かにいい香りが漂ってくる。


「なあ、シルヴァ。あのキノコはどうやって食べるんだ?」

「そうねえ。マツタケは素焼きかな」


 テーブルを叩く音が響いた。


「す、素焼き! 素焼きだと!」


 テラムが立ち上がった。

 素焼きなんて今に始まったことじゃない。

 野菜を収穫して、庭で網焼きして食っている。


 全員の冷たい視線に気づいたテラムが、咳払いをしながら椅子に座った。


「マイタケは色々とあるけど、レーシェが詳しいんじゃない?」

「そうね……。私がこれまで食べた中では……」


 レーシェが頬に手を当て、天井に顔を向けている。


「やっぱり天ぷらかしら」


 レーシェの言葉を聞いた瞬間、テラムの椅子が倒れ、床に背中を打ちつけていた。


「て、ててて、天ぷらだとぉぉぉぉぉぉ!」


 絶叫するテラム。

 普段ならテラムをバカにする俺だが、この時ばかりはテラムと同じ気持ちだ。


「おい、レーシェ。天ぷらって、あの天ぷらか?」

「え、えーと、天ぷらって他にあるのかしら?」

「そうか、天ぷらか! 全く考えてなかったが、そりゃいい!」


 天ぷらという調理法は知っているだけで、これまでチャレンジしたことはない。

 シルヴァが俺の肩に手を乗せた。


「天ぷらの素材は確か……。小麦粉、卵、水だったわね。油はオリーブオイルでも大丈夫だから、すぐにできるわよ」

「よし、さっそく準備するか。テラム、倒れてる場合じゃねーぞ! 天ぷらやるぞ!」


 テラムがすぐに起き上がり、扉に走った。


「うむ! 天ぷら祭りだ!」

「おっしゃー、行くぞ!」


 俺はテラムの背中を追って外へ出た。


 ◇◇◇


 その様子を見て、微笑むシルヴァ。


「あの二柱って、実は似てるわよね」

「アレファスって、もっと怖いと思ってました」


 レーシェもまた、優しい笑みでアレファスの背中を見つめていた。


「そうねえ、意外と面白おじさんよね。照れ屋だけど」

「うん。私も結構好きだよ。なんでも作ってくれるから、お兄ちゃんの10億倍は好き」

「僕も温泉師匠として尊敬しています」


 魔竜たちが好き勝手言っていた。


 ◇◇◇

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