第51話 人知を超えた原始の遊び3
数日後、俺たちはセディルナ村から少し離れた山の麓に来た。
山と言っても、見上げると空まで続くような垂直な崖だ。
日の出の時間は過ぎているが、太陽の位置は山の反対側のため、西向きの崖は日陰になっている。
アクアスが全員を見渡しながら、岩壁を指差した。
「この山の岩壁に向かって水弾を発射するわよ。最も深く穴を掘ったチームが勝ち。ルールはそれだけよ。賞品はトリュフを最初に食べる権利ね。それと、シイタケ食べ放題も付けちゃうわ。みんながんばってね。うふふ」
「シシシ、シイタケだと! うおぉぉぉぉ!」
シイタケと聞いてテラムが歓喜の声を上げていた。
「じゃあ、さっそく始めましょう。どのチームからにしましょうか」
アクアスの言葉に反応したフェルムが、右手を真っ直ぐ頭上に掲げた。
「アクアス姉様、僕たちからいきます。いいですよね? レーシェさん」
「はい。問題ございません、フェルム様。準備運動はしています」
レーシェがフェルムに向かって軽く一礼した。
というか、準備運動とはどういうことか?
水弾の発射に準備運動が必要なのだろうか?
「フェルムちゃんレーシェちゃんチームは何を使うの?」
「僕たちはフェルム鋼で筒を作りました」
まあこれは予想通りだ。
フェルム鋼で筒を作れば、どんな水圧にも耐えられるだろう。
フェルムが取り出した筒は、直径が三十セルテ、長さは一メルテほどだ。
「アクアス姉様、この筒に水を入れていただけますか?」
「もちろんよ」
筒の水弾なら、水を押し出す必要がある。
だが、そのための棒が見当たらない。
そもそも、これほどの筒になれば、棒も長くなるし扱いが難しくなるだろう。
フェルムが筒を水平になるように、両手で抱えた。
筒の先は崖に向いているのだが、どうやって発射するのだろうか。
「レーシェさん、準備が整いました。いつでも大丈夫です」
「はい、かしこまりました!」
筒から十メルテほど離れているレーシェ。
笑顔を浮かべながら、右手に身長ほどの細長い棒を手にしている。
「なあ、フェルム。あれもフェルム鋼か?」
「はい。フェルム鋼の棒です。レーシェさんが使うことで、この水弾が完成します」
左手をフェルムに向かって振るレーシェの表情が、いつもより楽しそうだ。
「いきます!」
気合を入れるかのように掛け声を発すると、レーシェの表情から笑みが消えた。
槍の突きのように棒を構え、猛烈な殺気を放ちながら、筒に向かって瞬間移動のように突進。
その姿は、まさに銀色の流星だ。
「まさか!」
俺はつい声を上げてしまった。
筒の水を押し出す役目を、レーシェの突きが担う作戦だ。
「ぐうう! レーシェのやつ、音速を超えやがった!」
棒が筒の底に衝突した瞬間、凄まじい衝突音と衝撃波が発生した。
シルヴァが空気の防壁を作ってくれなければ、俺たちは吹き飛んでいただろう。
超一流剣士であるレーシェによる突きは尋常ではない。
しかも今のレーシェは、上位への進化により魔獣化している。
魔人よりも身体能力は高いとされている魔獣の全力だ。
常識では考えられない威力だった。
「あらあ、レーシェちゃん凄いわねえ」
アクアスが感嘆の声を上げる。
それもそのはず、俺たちが立つ地面を残し、周囲には大きなクレーターが発生していた。
そして……。
「お、おいおい……。お前ら、化物かよ……」
「う、うそ……」
俺とシルヴァは思わず声を漏らす。
岩壁に目を向けると、岩壁から一筋の光が漏れていた。
「光が漏れるってことは、貫通しちゃったようねえ。もういきなり優勝よ。うふふ」
アクアスが一人で拍手をしていた。
「フェルム様、やりました!」
「レーシェさん、凄いですよ!」
二人がハイタッチで喜んでいる。
俺は地面に置かれたフェルム鋼の筒と棒に目を向けた。
あれほどの衝撃でも傷一つない。
フェルム鋼の性能、フェルムの腕力、レーシェのスピード。
この三位一体で、今回の勝利をもぎ取った。
「なあ、シルヴァ。水弾って子どもの遊びじゃないのか?」
「そうね。これじゃあ兵器よね。それも、人類が持つ最高の兵器を軽く超える威力よ」
以前ルジェール騎士団が、対魔竜の新型兵器である神の鉄杭という兵器を使用した。
あれも凄まじい威力ではあったが、その比ではない。
「おい、アクアス。どうすんだ。もう優勝で間違いないだろ? あんなの無理だ」
「うーん、やるだけやってみましょう。ね、テラムちゃん」
アクアスがテラムに視線を向けた。
「わははは! あんなものには負けんぞ!」
両手を腰に当て、大股を開き、ふんぞり返っているテラム。
その隣で、テネヴァスが殺意を隠そうともせずに、テラムを睨んでいた。




