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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第45話 レーシェの贖罪

 赤月の月光がテラム平原を照らす。

 夕焼けとは違い、暗闇を照らす赤い光は独特だ。

 不気味ささえ感じる。

 その光は鮮血の月夜(ノクタル)とも呼ばれており、赤月の満月に外へ出ると、獣に襲われるという言い伝えを持つ地域もあるという。


 俺は上空を飛ぶテラムの掌の上で、赤く染まる夜の草原を見つめていた。


「なあ、シルヴァ。あそこ光ってねーか?」

「確かにね。銀月の光のようね。馬車かしら?」


 シルヴァは視界を拡大する魔法を持つ。

 俺には米粒ほどの大きさにしか見えないが、シルヴァには見えているのだろう。


「うーん。おかしいなあ。()()が出てる」


 光を見つめるテネヴァスが、呟きながら腕を組み、首を傾げていた。

 子どもに見えるテネヴァスの仕草としては大人びているが、それが逆に可愛らしい。


「テネヴァス、どうしたんだ?」

「うーん」


 俺の質問にも答えず、テネヴァスは光を見つめたまま眉間にシワを寄せている。

 どうしたのだろうか。


「なあ、アクアス。テネヴァスはどうしたんだ?」

「そうねえ、もしかしたら、ひと波乱あるかもしれないわ」

「ひと波乱?」

「ひとまず光に向かいましょう。テラムちゃん、帰っちゃダメよ? うふふ」

「グ、グゴォォ」


 魔竜となったテラムの咆哮に全く覇気がない。

 よく分からんが、これは成り行きを見守るしかないだろう。


 テラムは速度を落とし、光に近づき下降していく。

 ここまで来れば俺も見えるようになってきた。


「シルヴァの言う通り、光る馬車だな。それも荷馬車だ」

「ええ、しかもあの人は……」


 テラムが草原に着地。

 まず俺とフェルムが掌から飛び降りた。

 俺はシルヴァに手を伸ばし、地上に降ろす。

 そして、アクアスの手を取った。


 フェルムはテネヴァスを両手で抱えて、地上にゆっくりと降ろしている。

 仲の良い兄弟の姿だ。


 馬車には一人の人間が乗っている。

 その姿を見て、俺はシルヴァが言いかけた言葉を理解した。


「お前は! レーシェか!?」

「ア、アレファス殿……」


 馬車を降りたレーシェが、俺たちに深く頭を下げた。


「何しに来たんだ? 二度と来るなと言っただろう?」

「は、はい。仰る通りですが、私はその……、贖罪にまいりました」

「贖罪だと?」

「はい……。私は……」


 レーシェが申し訳なさそうに語った。

 セディルナ村を破壊したことや、大切な畑や貴重な書物を焼いたことを心から悔いているという内容だった。


 レーシェの気持ちは分からなくもないが、行動に移すには理由がある。

 国で何かあったのだろう。


「どうした? 何かあったのか?」

「い、いえ……その……」

「お前のところはルジェール八世か。どうせ、裏切りにでもあったんだろう」

「そ、その……。はい……そうです」


 小さく頷くレーシェ。

 俺の想像通り、ルジェール八世が全ての責任をレーシェ一人に被せたようだ。


「あの国王は元々評判が悪かったしな。やりそうなことだ」

「申し訳ございません」

「で、殺されるからこの地へ逃げてきたのか? 都合が良すぎないか?」

「そ、そういうわけではございません。ただ、私はあの日以来、心から後悔しておりました。ですので、せめてもの贖罪をと考えておりまして、王国の書庫から建築や農業に関する書物、私の自宅から全ての本、種などの食材をお持ちしました」

「それで許せというのか?」

「ち、違います。私は……殺されても構いません。ですが、失ったものに対して、少しでも償いをさせていただければと思いまして……」


 レーシェは苦悶の表情を浮かべている。

 俺だって責めたいわけではないが、はいそうですかと信用するわけにもいかない。


「ほら、アレファス。そんなにイジメないで」


 シルヴァが俺の右肩に手を置いた。

 声のトーンは冷静だし、表情も僅かに笑みを浮かべている。


「怒ってないのか? お前の本を焼かれたんだぞ?」

「もう過ぎたことだもの」

「そうか。ならいいが……」

「私のために怒ってくれたの?」

「そ、そんなんじゃねー……。いや、そうだな。もうお前の悲しむ顔は見たくないんだ」

「アレファス……」


 シルヴァが俺の腕にそっと触れてきた。

 これは俺の本心だ。

 あの時のような、絶望に打ちひしがれたシルヴァなんて、もう二度と見たくない。


「ねえ、いちゃいちゃいないでくれる?」

「してねーだろ!」


 呆れた表情を浮かべながら、アクアスが俺の左肩に手を置いた。


「アレファスちゃん。あなたの村よ。決めなさい」

「そうだな」


 レーシェの処遇は俺の判断に委ねられた。

 もし殺すと言っても、誰も文句は言わない。

 それだけのことをしているし、魔竜にとって人間の、いや生物の命など塵にも等しいはずだ。


 俺は改めてレーシェの顔を見つめた。

 なぜか銀色の光を発しているが、今は触れるべきではないだろう。


「お前一人なのか?」

「はい。私と馬、数万冊の本、食物の種です。畑を燃やしてしまいましたので……」


 人の姿となったテラムが、突然俺とレーシェの間に割り込んできた。


「種だと?」

「さ、左様でございます」

「何の種だ?」


 テラムのこの質問で、もう結果は予想できた。

 俺はシルヴァを見つめながら肩をすくめる。

 シルヴァも笑顔で頷く。


「各種野菜の種を大量にお持ちしました。果物の種やキノコの種菌、焙煎済みですがコーヒー豆もあります」

「キ、キノコだと! キノコが栽培できるのか! あ、えーと、おほん……」


 レーシェの言葉に大きく反応しながらも、何事もなかったかのように咳払いするテラム。

 白々しいというか、ここにいる全員が呆れている。


「許してやってもいいだろう。なあ、アレファス。わははは」

「ったく、そんなこったろうと思ったぜ」


 種を持ってきたと言った時点で、テラムが許すことは分かっていた。

 まあ元々俺は、テラムと同じ結果を出すつもりだったから問題ない。


 俺はレーシェに向かって笑みを浮かべた。


「レーシェ、品物を受け取ろう。水に流すわけではないが、謝罪の気持ちはよく分かったよ」

「あ、ありがとうございます!」


 レーシェが深く頭を下げた。

 そして、安堵の表情を浮かべている。


 俺としても、レーシェ個人に恨みがあるわけではない。

 元凶はテラム平原に侵攻を決めた国王や国家の上層部だ。


 俺は全員を見渡した。


「ひとまず村に帰るか。レーシェはその馬車で村まで来るんだ」

「かしこまりました」

「俺も乗せてもらうよ。ルジェール王国の状況なんかも聞きたいしな」

 

 馬車に乗り込もうとする俺の肩を、アクアスが掴んだ。


「アレファスちゃん。ちょっと待ってね」

「何だ?」

「色々と説明しなきゃいけないことがあるのよ。レーシェちゃんの来訪で、物凄く複雑な状況になっちゃったから」

「複雑? 何のことだ」

「えーとね、どう説明しようかしら」


 アクアスが苦笑いを浮かべている。

 聡明なアクアスですら、説明するのに苦慮している様子だ。

 そもそも複雑な状況とはなんだろうか。

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