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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第43話 鍛冶師の祖

 鉄竜フェルムが来たことで、ついに鉄の製造が可能となった。

 それもこの世で最も優れた金属だという。


 正直、本当かどうかは分からないが、常識を超越した存在である魔竜が言うのだから間違いないだろう。

 俺は全ての作業を止めて、フェルムの工房を優先して建てた。


 他の建物と統一したデザインのログハウスだ。

 我ながらいい出来だと思う。


「フェルム、工房が完成したぞ」

「これは素晴らしい工房ですね。鉄を生み出す鍛冶場でありながら、木の温もりが感じられます。ありがとうございます」


 べた褒めのフェルム。

 本気で感動しているようだった。


「ここはお前専用の工房だ。好きにアレンジしていい。それと、必要な物があったら言ってくれ。用意する」

「助かります。では、このまま作業に取りかかります」

「頼むよ。あ、見学してもいいか?」

「もちろんです」


 俺はフェルムの作業を見てみたかった。

 すでに鋼材としてのフェルム鋼は完成している。

 それをどう加工するのか気になるところだ。


「アレファスさん。鉄は叩くほど強くなります。もちろん限界はありますが」

「ああ、それは俺も知ってるよ。だけど、フェルム鋼は完成しているんだろ? 叩く必要はないだろう?」

「そうですね。今の状態でも、この星で最も優れた鋼材です。ですが、さらに叩いて強くします。現状に満足しては、いい物は生まれません。どんな時でも常に最高を追求していきます」

「飽くなき追求か……」


 驚いた。

 考え方が魔人のそれと同じだ。

 いや、魔竜たちも魔人と同じなのかもしれない。


「魔には超えるという意味があるというしな」


 さっそく作業に取りかかるフェルム。


 フェルム鋼の塊を掴み、粘土のように引きちぎる。

 それを鍛造しながら、道具を生み出していく。

 鍬や鋤、鎌などの一通りの農具。

 斧や鎚、ツルハシや鋸などの工具。

 そして、包丁やフライパンなどの調理器具。

 バーベキュー用の鉄板まで作ってくれた。

 フェルム鋼の鉄板なんて、この世で最も贅沢ではないだろうか。


「凄いわねえ。ここの道具は、どんな武器でも敵わないほどの性能を持ってるわよ。うふふ」


 アクアスも一緒に作業を眺めていた。


「世界最強のフライパンか」

「冗談のようだけど、本当なのよねえ。うふふ」


 アクアスがフライパンを手に取ると、裏面をノックするように叩いた。

 まるで楽器のように、クリアで伸びのある音を発する。


「綺麗な音ね」


 アクアスは、そのままフライパンを俺に向かってかざす


「アレファスちゃん。このフライパンは、騎士の盾ですら軽く凌駕するわよ」

「そりゃ凄いな……」

「名剣と呼ばれる剣でも、このフライパンに傷一つ付けられないでしょうね。うふふ」


 戦場でフライパンを持って戦う姿を想像するとなかなか間抜けだが、どんな名剣の攻撃でも防ぐのだろう。

 フェルム鋼恐るべしだ。


「それではアレファスさんのクレイモアを打ちますね」

「ああ、頼むよ」


 俺のクレイモアに関しては、すでに図面で希望を伝えている。

 フェルム鋼は軽い素材のため、これまでよりも剣身を長くした。

 一般的にはあり得ない、剣身だけで二メルテを超える超大剣だ。


 そして、素振り用のクレイモアも作ってもらう。

 こちらは素振り用のため刃は必要なく、重さ重視だ。


 ちなみに、テラムもクレイモアを作ると言い出した。

 俺の剣よりも長くするとわがままを言うテラム。

 三メルテもの剣身にするそうだ。

 もはや剣とは言えないが、フェルムは快く応じていた。


 ***


「アレファスさん、完成しました」

「あ、ありがとう」


 剣ってこれほど早く完成するものだろうか……。

 フェルム鋼を打ち、伸ばし、研ぐ。

 鋼材を加工しているのだが、粘土細工のようなスピードだった。


 俺はフェルムから剣を受け取る。


「こ、これは……」


 グリップを握った瞬間、名剣だと理解した。


 幅広で両刃のクレイモア。

 銀色に輝く剣身は鏡のように磨かれており、一切の曇りがない。

 俺の注文通り、重心は剣先から剣身の四分の一の位置に調整されている。


 何より驚いたのが、今までのクレイモアよりも大きいのに、重量は半分以下という点だ。


「マジで何でも斬れそうだな」

「はい、アレファスさんが振れば大木も岩石も、鉄ですら切りますよ」


 フェルムがフェルム鋼の塊を指差した。


「あのフェルム鋼ですら切ります」

「お、おいおい。同じ素材だろ。さすがに折れちまうよ」

「フェルム鋼からさらに鍛えてますから大丈夫です。切ってみてください」

「そんな簡単に言うけどな……」


 まだやるとも言ってないのに、見学人が集まってきた。


「早く切ってみせろ」

「アレファスでも難しいのでは?」

「ワクワク」


 テラム、シルヴァ、テネヴァスだ。

 つまり全員集合した。


「ちっ、この暇人どもめ」


 俺はフェルム鋼の塊を見つめた。

 呼吸を整え、振り被ったクレイモアを一気に振り下ろす。


 あまりの軽さに、剣身が消えるほどのスピードを出した。

 通常は音速を超えれば衝撃波が発生するのだが、一切の無音だ。

 物理法則をも超越した一撃だった。


「うむ、音をすら置き去りにする剣か。まさに神速の無音斬り(ヴェキトゥルイクス)だな」


 テラムが勝手に技名をつけていた。

 恥ずかしいからやめろと言いたい。


「す、凄い……」


 驚愕の声を漏らすシルヴァ。


 俺が凄いのではない。

 凄いのはこの剣だ。


「水を切っているような手応えだったぞ……」


 ほぼ抵抗を感じずに、この世で最も優れたフェルム鋼を真っ二つに切った。

 その断面は驚くほど滑らかで、磨いたような光沢を放っている。


「刃こぼれはない。なんという恐ろしい切れ味だ」

「はい。この世に切れぬものはないでしょう。魔竜の鱗ですら切ります」

「なるほど……。魔竜の鱗か……」


 俺はテラムに視線を向けた。


「ま、待て! 私で試そうとするのはやめろ!」

「アレファスさん。どうぞ切ってください。それくらいじゃ兄は死にませんから」


 両手を大きく振りながら焦るテラム。

 それとは対照的に、テネヴァスは満面の笑みを浮かべていた。

 めちゃくちゃ嬉しそうだ。


「凄いなんてものじゃない。ありがとう、フェルム」

「とんでもないです。修正点や、他にもご希望があれば何でも言ってくださいね」


 鉄竜フェルムは、フェルム鋼を生み出すことができる上に、鍛冶師としても並ぶ者がいないほどの腕前だった。


「それはそうよ。だって、人間に鍛冶を教えたのはフェルムちゃんだもの」

「なに?」


 アクアスが俺の肩に手を置き、笑みを浮かべている。

 というか、また心を読んだのか……。

 もう気にしないことにした。


「数千年前だったかしら。偶然が重なってね。うふふ」

「そうですね。僕としては、珍しく気まぐれというか……。ですが、人間はよく研究していますよ。僕の領域には程遠いですが、確実に鍛冶の技術は進歩しています」


 まさか人間に鍛冶を教えたのがフェルムだとは思わなかった。

 つまり、フェルムこそが鍛冶師の祖ということになる。


 ということは、俺はいきなり史上最高の鍛冶師による、最高の剣を手に入れてしまったようだ。


「な、なんだか到達してしまったな……」


 もちろん、最高の剣を手に入れたからと言って、剣の鍛練は続ける。

 そのために、素振り用のクレイモアも作ってもらった。


 素振り用に関しては、フェルム鋼だと軽くなってしまう。

 重量が必要なため、別の金属で作ってくれた。


 今の俺でも片手では持てないほどの重量だ。

 地面に置くと土中にめり込んでしまう。

 だが、これで素振りをすれば、間違いなく筋力は上がるだろう。


 そして、最後にテラム用のクレイモアが完成した。

 巨大な剣を手に持ち感動しているテラム。


「フェルム! よくやったぞ! この剣は最高だ!」

「はい。兄様に喜んでいただけて僕も嬉しいです」

「この剣があればアレファスにも負けんぞ! 神速の無音斬り(ヴェキトゥルイクス)を超える技を見せてやる!」


 剣を俺に向かって真っ直ぐ構えるテラム。


「ほう、勝負するか?」


 俺はクレイモアの柄を握った。


「アレファスさん! そんな奴、真っ二つにしてやってください!」

「任せろ、テネヴァス!」


 テネヴァスの応援を得た俺は、クレイモアを構えた。

 すると、テラムの顔色が一気に青ざめる。


「い、いや、何もそんな本気にならなくても……」


 魔竜たちの笑い声が、広場に響いた。

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