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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第41話 テラムの帰還

 畑仕事をしていると、頭上から降り注ぐ太陽の光が遮られた。

 畑に映る大きな影。


 テラムの帰還だろう。

 一か月ぶりの帰還だから、歓迎しないと機嫌を悪くしそうだ。

 俺は空を見上げた。


「テラ――」


 テラムの名を呼ぼうとすると、見慣れた魔竜の姿とは別に、もう一つの巨大な影があった。


「なっ! 二柱だと!」

「あらあ、フェルムちゃんね」


 アクアスが懐かしそうな表情を浮かべながら上空を見つめている。

 上空から二柱の魔竜が下降してきた。


「あ、あれがフェルム……」


 フェルムの姿は、テラムと同じくらいの巨体だ。

 頭部には長く鋭い角が一本、翼は巨大で鋭角、灰色の鱗は金属のように硬そうだ。

 長く真っすぐ伸びた尻尾を持つその骨格は、四足歩行タイプだろう。

 直立型のテラムとは真逆だ。

 魔竜によっても容姿が違うことに驚いた。


「デ、デカい!」


 さすがに魔竜が二柱そろうと、空をも覆い隠す。

 シルヴァが僅かに不安そうな表情を浮かべ、俺のシャツの裾を掴んだ。


 世界に十三柱しかいない魔竜が、この地に四柱もいることになる。

 それに引き換え人間である俺たちは、まあ人間ではないが、たった二人だ。

 シルヴァは本能的に恐怖を感じているのだろう。

 この事態に、俺ですら緊張しているのだから。


 二柱が地上に降り立つと、二つの旋風が巻き起こった。

 その中に人の姿が見える。

 一柱はテラムだ。


「ただいま帰ったのだ。元気だったか、アレファス」

「あ、ああ。おかえり、テラム」

「一か月見なかっただけで、さらに発展したな。水田があるじゃないか」

「まあな。米を作っているんだ」

「米か! いいじゃないか! 早く食いたいものだ! わははは!」


 大声で笑うテラムの背後から、男が姿を現した。

 年齢は二十代前半。

 身長は俺と同じくらいで、体型はスリムで引き締まっている。

 髪色は灰色で短髪。

 黒縁の眼鏡をかけている。

 白いシャツに灰色のスラックス姿は、真面目な好青年と言っていいだろう。


「初めまして。フェルムと申します」


 丁寧な挨拶に、俺とシルヴァは深く頭を下げた。


「魔人のアレファスです」

「同じく、魔人のシルヴァです」


 俺たちはフェルムと握手を交わした。


 テラムが両手を腰に当て、誇らしげに大きく胸を張っている。

 フェルムを連れてきたことを誇示したいのだろう。


「よし! これでフライパンが作れるぞ! 私のおかげだぞ! わははは! わは……は?」


 笑い声に勢いを失ったテラム。

 一点を見つめながら、その大げさな動きを止めた。

 その視線の先にはテネヴァスがいる。


「お、おまっ! テネヴァス! な、何しに来た!」

「テラムお兄ちゃん、お久しぶりです」


 黒いワンピースの裾を掴み、片足のつま先を立て優雅に挨拶をするテネヴァス。


「な、なな、なんだ! 何の用だ! 復讐か!」

「バカなこと言わないでください。アクアスお姉ちゃんとテラムお兄ちゃんが一緒にいるなんて珍しいから、会いに来ただけです」

「そ、そうか……。ゆ、ゆっくりしていくといいぞ。わは、わははは」


 久しぶりの兄妹の再会かと思いきや、復讐なんてなかなかに不穏な言葉が聞こえた。

 それでも可愛らしい笑顔なのが、テネヴァスの特徴だろう。


 だが、突然テネヴァスの愛くるしい表情が変化した。

 怒りに満ち溢れたかのような表情は、闇を支配する魔竜そのものだ。

 俺とシルヴァは、思わず身構えてしまった。


「でも、あの件はまだ許してないからな。クソバカクズ兄貴が」

「なっ! そ、それは謝っただろう!」

「そんなもので許されるわけないだろ。バカか? 殺すぞ?」

「やっ、だから、それは……その……あの……、ごめんなさい」


 テネヴァスが怖い。

 めっちゃ怖い。


 あの傍若無人のテラムが、背中を丸めて焦っている。

 二柱の間に何があったのだろうか。

 気にはなるが、知りたくないかもしれない……。


「テネヴァス、君は何をやっているんだい?」


 フェルムがテネヴァスに声をかけた。

 状況を見かねたのだろう。

 テラムに対する助け舟だ。


「フェルムお兄ちゃんこそ。どうしてこんなところへ?」


 テネヴァスが大きな瞳を見開いて、フェルムを見つめている。


「テラム兄様から話を伺ったが、僕が直接行ったほうが早いと思ってね。それに、アクアス姉様がいらっしゃるのであれば、挨拶するのは当然だろう?」

「そうだったんだ。相変わらずキッチリしてるね」

「テネヴァス、君は?」

「私は遊びに来ただけだよ。えへへ」


 テネヴァスの笑顔に愛くるしさが戻った。


 だが、俺はこの状況が理解できない。

 魔竜が揃ったことで混沌としている。


「な、なあ、アクアス。魔竜が四柱もいて大丈夫なのか?」

「そうねえ。バランスはよくないけど短期間だし大丈夫よ。シルヴァちゃんも安心して。うふふ」


 シルヴァを気遣うアクアス。

 さっきから俺の隣から離れないシルヴァ。

 気持ちは分かる。


「おい、アクアス。この場を仕切ってくれよ」

「うーん、アレファスちゃんが思うようにやっていいわよ。ここはあなたの村なんだから」

「そうは言っても……相手は魔竜だぞ」

「大丈夫よ。好きなようになさい。うふふ」


 俺の困惑をよそに、フェルムが白い歯を見せて笑顔を浮かべた。


「アレファスさん。テラム兄様からお話は伺ってます。僕のことは兄様と同じように、フェルムと呼んでください」


 何という真面目で爽やかな青年だろうか。

 これほど完璧な青年は初めて見た。

 テラムと同じ兄弟だとは思えない。


「そ、それじゃあ……。えーと、フェルム。鉄を作りたいんだ。どうすればいい?」

「テラム兄様はフライパンが欲しいと仰ってましたが、この環境を見る限り、農具のほうが重要ですよね?」

「もちろんさ。テラムのバ……。オホン」


 やっぱりテラムは勘違いしたままだった。

 テラムの文句が出そうになったが、さすがにまだ会ったばかりの弟の前でバカにするのはかわいそうだ。


 俺はフェルムにやんわりと必要な道具について説明した。


「鉄の精製については調べたんだ。一応、高炉建設の準備はしてある」

「それは凄いですね。しかし、高炉を建てると火を止めることができません。管理がとても大変です。ひとまず僕が必要な鉄を用意しますので、ご安心ください」

「え? 鉄を用意? ど、どうやって?」

「この星は多くの鉄が含まれています。この地にも鉄はあるんです。僕が住むフェルム峡谷に比べたら少ないですけど、この村で数万年は困らない量の鉄を用意できます」

「す、数万年……。そんなになくても平気さ。はは……」


 常識人に見えて、やっぱりフェルムも非常識だった。


 俺の考えを見抜いたのか、アクアスが俺の肩に手を置く。

 そして、フェルムに視線を向けた。


「ねえねえ、フェルムちゃん。農具や調理道具以外に、アレファスちゃんの剣も作ってほしいのよ。大きなクレイモアよ。ついでにテラムちゃんが喜ぶかっこいい装備とかもね。うふふ」

「うむ、姉上はよく分かっておる。私もアレファスのような、かっこいい剣が欲しいぞ」


 アクアスの言葉に、大きく頷くテラム。

 こいつの強さなら、別に剣なんていらないだろうに……。


 だが、フェルムの表情は真剣そのものだ。


「なるほど。道具の他にも武器もですか。分かりました」

「フェルムちゃん。ずっと前に研究していたフェルム鋼はできたの?」

「はい、姉様。完成しました。今はさらに性能を上げて、この星で最も優れた金属だと自負しています」

「あらあ、凄いわねえ。さすがよ。フェルム鋼はここで作れるのかしら?」

「テラム平原だと素材の入手が……。地中を相当深くまで探る必要があります」

「大丈夫。私が全ての責任を持つわ。何かあっても姉たちには説明するわよ」

「ありがとうございます。では、地中を探りますので、姉様にもご協力いただいてもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ」


 いつものことだが、魔竜たちの話はいちいち壮大すぎる。

 俺も慣れたとはいえ理解はできていない。


 フェルムが地中に視線を向けた。

 アクアスのように、地中に埋蔵されている素材を見つけ出すのだろう。

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