第39話 末っ子
テネヴァスを迎え入れ、俺たちはレストランのソファー席に移動した。
俺の隣にシルヴァが座り、対面にはアクアスとテネヴァスが座る。
アクアスがテネヴァスの背中に手を回した。
「テネヴァスちゃんは、始原の十三竜の末っ子よ」
「末っ子か。魔竜って生まれた年代で、呼び名が別れているんだろ?」
「そうよ。テネヴァスちゃんは、無邪気な末子と呼ばれているわ」
「無邪気な末子か。えーと、つまり、十三番目で八女ってことか」
「ええ、そうよ」
以前、アクアスが書いてくれた始原の十三竜のメモを思い出した。
俺が知ってる魔竜は、これでテネヴァスを入れると六柱になる。
◇◇◇
始原の十三竜
原初の三女
長女
次女
三女:水竜アクアス
創造の三人
四女:氷竜グラキャス
長男:海竜マレム
次男:地竜テラム
悪戯な双子
五女
六女
真面目な三つ子
三男
四男
五男:鉄竜フェルム
無邪気な末子
七女
八女:テネヴァス
◇◇◇
「で、テネヴァスの見た目は十歳だが魔竜だろ? いくつなんだ?」
俺はテネヴァスの吸い込まれそうな漆黒の瞳を見つめる。
すると、テネヴァスは眉間にシワを寄せ、嫌悪感を隠そうともせず、アクアスに視線を向けた。
「アクアスお姉ちゃん。こいつタメ口だよ? 殺す?」
「うふふ、いいのよ。アレファスちゃんは特別なの。私の旦那さんだからね」
「え! 旦那さん! すごーい!」
テネヴァスの表情が一気に明るくなった。
屈託のない無邪気な笑顔だ。
それとは逆に、アクアスはいつもの悪戯な笑みを浮かべている。
「ぶぅぅぅぅ! 何を言ってんだよ!」
思わずハーブティーを吹き出した。
隣に座るシルヴァから、凄まじい殺気が漏れている。
俺はシルヴァを落ち着かせようと両手を広げた。
「ちげーって!」
「ふーん、どういうこと?」
「アクアスが勝手に言ってるだけだって!」
シルヴァがアクアスを見つめる。
「アクアス様、ご冗談が過ぎますわよ?」
「シルヴァちゃん、私は二番目でいいからね。うふふ」
シルヴァの額に血管が浮かぶ。
俺を睨みつけるシルヴァ。
「後でじっくり話を聞かせてもらうわ」
「知らねーっつーの!」
俺たちの様子を眺めていたテネヴァスが、笑顔で立ち上がった。
「みなさん、仲良しなんですね」
「ま、まあな。ははは」
「先程は大変失礼しました、アレファスさん」
丁寧に頭を下げるテネヴァス。
「お、おう……」
「アレファスさん、私の年齢が気になりますか?」
「そうだな。魔竜だしな。とんでもない年齢なんだろ?」
「私は末っ子なので若いですよ」
「へえ、そうなのか」
見た目は十歳だ。
若いと言うし、数百万年といったところか。
「まだ十五億歳ですから」
「じゅ、十五億歳……」
それは若いと言うのだろうか?
確かにアクアスの三十六億歳や、テラムの二十八億歳に比べたら若いが……。
魔竜の感覚は分からん。
「で、テネヴァスはなにしに来たんだ?」
「寂しいから遊びに来たんです。ご迷惑でしたか?」
「そんなことないさ。アクアスに会うのは久しぶりか?」
「この間も会ったばかりですけど、また会いたくなっちゃって。えへへ」
「そうか。前回はいつ会ったんだ?」
「十万年前です」
「そ、そりゃつい先日だな……。まあ、ゆっくりしていってくれよ」
「はい、ありがとうございます」
俺はシルヴァを見つめた。
「な、なあ、シルヴァ。テネヴァスに村を案内してやってくれ」
「そうね」
シルヴァも場の空気を悟ったようだ。
ソファーから立ち上がり、テネヴァスに手を差し出した。
「シルヴァと申します。テネヴァス様、この村をご案内いたしますわ」
シルヴァの顔を見上げるテネヴァス。
「もしかして、シルヴァさんは魔人ですか?」
「はい、そうです。まだ若いですけどね」
「やっぱりそうなのですね。とても素敵です。お綺麗ですね」
「まあ、ありがとうございます。ふふふ」
二人は手を繋ぎ、レストランを後にした。
扉が完全に閉まったところで、俺はアクアスを睨みつける。
「お前、ふざけんじゃねーよ! 何が旦那だよ!」
「あら、本当のことじゃない」
「結婚なんてしてねーだろうが! 俺はシルヴァと結婚するって言っただろ!」
「だったら早く言ってあげなさいよ。シルヴァちゃんは待ってるわよ?」
「うるせーな! タイミングってもんがあるだろうが!」
「あまり待たせちゃダメよ?」
「ほっとけ!」
「私はその後でいいからね」
「あ、あのなあ……」
俺は頭を抱えた。
言い合いでアクアスに勝てるわけがない。
もちろん、戦いでも勝てるわけはないのだが……。




