表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/39

第37話 シルヴァの過去と未来

「アレファス、私の話を聞いてもらえるかしら」

「話?」

「ええ、私の過去よ」


 湯気がレースのカーテンのように、シルヴァの顔を隠している。

 表情は見えないが、その声は悲しげだ。


「私は幼い頃から本ばかり読んでいたの。そのことで、読書をからかわれていたわ。だけど、徐々にエスカレートしていったの。次第にいじめへ変わり、いつしか迫害へ変わっていったの。私は魔女と罵られ、姿を見られる度に石を投げられたのよ。その頃はまだ魔法なんて使えなかったのに……。ついには狂気にかられた村人が、全員で襲いかかってきて、家を焼かれ両親も殺されたわ。私は人がいない場所へ必死に逃げたの。そこで静かに暮らしていたのよ」


 シルヴァの声が震えていた。


「無理に言わなくていいぞ?」

「あなたに……知ってもらいたいの」


 シルヴァの姿はよく見えないが、両手で湯をすくい、顔に浸しているようだ。

 湯を弾く音が響く。

 涙を隠しているのだろう……。


「あなた、私のこと美人って言ってくれたわね」

「ああ、そう思うよ。……今まで見たこともないほどだ」

「ふふ、ありがとう。嬉しい。あのね、今の容姿は当時と変わらないのよ」


 つまり、昔から絶世の美女だったというわけだ。


「当時の領主が私を発見して、館で保護すると言ってきたの。まだ二十代で世間を知らなかったら、私はその言葉を信じちゃったのよ」

「話の流れから、嫌な予感しかしないな……。胸糞悪い展開か?」

「その通りよ。私が地下室に連れて行かれると、裸の領主が待っていたわ。以前から私を手に入れたかったって、醜い顔で喜んでいた。部屋には見たこともない器具が並んでいた。私を凌辱した後に、身体を弄ぶつもりだったのよ。文字通り切り刻むつもりだったのでしょう」


 若い女を騙して凌辱や拷問はよくある。

 特に権力者に多い。

 俺はそういったクズたちを始末したことがある。


「私は抵抗したわ。髪を掴まれ何度も殴られたけど、とにかく必死に抵抗した。そしたらね、眠っていた私の魔力が暴走して館ごと吹き飛ばしたの。そこで初めて魔法というものを使ったのよ」

「そうか……」

「服は破れ、顔は腫れて、血を流しながら歩いたわ。どれだけ歩いたか分からないくらい。いつの間にかテラム様の領地に入っていたの。でも最初は気づかなくてね。あの森で生活を始めたら、テラム様が突然いらっしゃったわ。野菜を食わせろってね。ふふふ」


 シルヴァの周囲から、湯気がゆっくりと流れ始めた。

 そして、俺を見つめながら微笑んでいる。


 その表情は、あまりに美しい。


「シルヴァ、今は幸せか?」

「ええ、あなたとテラム様とアクアス様のおかげでね」

「そうか、よかった。なあ、シルヴァ。いつか金を貯めて本を買いに行こう。お前のために、本屋ごと買い占めるよ」

「いいの?」

「もちろんさ。人間は醜いが、文化は素晴らしい。それに――」

「それに?」

「お前の喜ぶ顔が見たい」

「あら、それってプロポーズ?」

「ち、ちげーよ!」


 シルヴァが瞳を細めながら、俺の頬を細い指で軽く撫でる。


「ねえ、アレファス。私は今も処女よ。三百五十歳だけどね」

「そ、そういうことは言わなくていいっつーの!」

「私、あなたが好きよ」

「ぶぅぅぅぅ」

「汚いわねえ」

「と、突然何だよ!」

「アレファス。私とずっと一緒にいてくれる?」


 俺はもう人間じゃない。

 魔人としてどれだけ生きるか分からないが、この地で暮らしていくつもりだ。

 シルヴァがこの地から離れないのであれば、それは必然的に――。


 俺はシルヴァの頭に手を乗せた。


「ああ、一緒にいるよ。だけどいいのか? お前のほうが間違いなく長生きするぞ?」

「分からないわよ? あなたって異常だもの」

「な、なんだよ! お前のほうが異常だろ!」

「うるさいなあ」


 突然、シルヴァが唇を重ねてきた。


「え?」

「ふふふ。ずっと一緒って約束したからね」


 シルヴァはそう言い残し、風呂を出ていった。

 湯気でその姿は見えない。


「あらあ、裸で告白なんていいじゃない。ロマンチックねえ」

「ど、どこがだよ……」


 アクアスが微笑みながら俺に近づいてくる。

 そして、俺の肩にその小さな顔を乗せた。


「ねえねえ、アレファスちゃん。私ともずっと一緒にいてくれる?」

「アクアスは無理だ。いくら魔人になったとはいえ、億なんて生きられるわけがない」

「ひどーい。私もアレファスちゃんが好きなのに」

「嘘つけ」

「本当よ? まあでも、私たち魔竜には生殖器官がないから何もないわよ。安心して」

「安心って、何をだよ」

「襲ったりしないってこと。うふふ」

「お、襲うって……」


 人間の姿になることができても魔竜は魔竜だ。

 種族が違う。

 そもそも魔竜から見れば、人間なんて下等な生物だろう。

 相手にするわけがない。


「ところで、アクアス。魔人はどうなんだ?」

「どうって?」

「繁殖だよ。魔人って繁殖するのか?」

「それは残念だけど、魔人になると子は産めなくなるわ。魔人の個体によって寿命は変わるけど、概ね長寿になるの。命の長さと繁殖には因果関係があるのよ」

「なるほどね。じゃあ、この村はずっと四人のままってことか」

「そうね。外から来なければね」


 アクアスが俺の頭を軽く撫でた。


「アレファスちゃん、もしかして子供が欲しかったの?」

「いや、そういうわけじゃないが……」


 俺は湯に潜った。

 十を数えて顔を出す。


「ぶはっ!」

「急にどうしたの?」


 俺はシルヴァとの約束を考えていた。

 ずっと一緒にいる。

 それはもう――。


「今すぐじゃないが、俺はシルヴァと結婚するよ。この先もずっと一緒にいるんだ」

「あら、いいじゃないの。そしたら家も一緒に住んじゃえば?」

「そうだな。それもいいな」


 アクアスは笑みを浮かべたままだが、僅かながら表情が変わった。

 なんというか、悪戯な笑顔だ。


「ねえ、アレファスちゃん。結婚するっていうのに、他の女と一緒にお風呂に入るのはやめたほうがいいわよ?」

「は? ふざけんなよ! 勝手に入ってきたのはそっちだろうが!」

「私のことが好きなんでしょ? 相思相愛ね。うふふ」

「んなわけねーだろ!」

「もう、すぐ怒るんだから」

「怒ってねーよ!」

「これからも一緒に入りましょうね」

「嫌だよ!」

「そんなこと言うと、お湯出さないわよ?」

「き、汚ねーな!」


 アクアスのおかげで温泉が出ている。

 アクアスが機嫌を損ねたら、温泉どころか水も使えなくなるのは明白だ。


「結婚かあ、いいなあ。私も一度してみたいなあ」

「すりゃいいだろ」

「じゃあ、アレファスちゃんが結婚してくれる?」

「無理」

「ケチ」

「そういう問題じゃないだろ!」


 その後もアクアスにしつこく絡まれたのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ