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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第二章

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第36話 混浴

 日没を迎え、この日の作業を終えた。

 俺たち三人はレストランで夕食を取る。


 今日は黒牙猪のグリルだ。

 低温にしたオーブンで時間をかけて焼いたため、身が崩れるほど柔らかい。

 あえて肉を崩し、肉汁と野菜から作った濃厚なソースを絡め、レタスで包み頬張る。


「くう、旨いぜ」


 畑は燃えてしまったが、地中でしぶとく生き残った種があった。

 さすがはテラムの大地だ。

 さらに、シルヴァが森で育てていた作物が残っていた。

 そこから植え替えたり種を採り、野菜を作っている。


 食事を終え、シルヴァがハーブティーを淹れてくれた。

 これも森に残っていたハーブから作ったものだ。


「なあ、シルヴァ。テラムが鉄を持ち帰ると言っていたが、加工はどうすんだ?」

「状況が分からないからなんとも言えないけど、鉱石の状態だったら高炉が必要ね」

「高炉か。ここで高炉なんて建設ができるか問題だな。どうやって作るかも分からんし」

「私の本の中に、そういった資料もあったのに……」


 シルヴァの本は全て燃えてしまった。

 数万冊はあっただろう。


 俺たちの会話を聞きながら、アクアスはハーブティーの香りを楽しんでいる。

 ティーカップをテーブルに置き、笑みを浮かべた。


「私、この地へ来てからシルヴァちゃんの本を読んだのよ」

「もしかして、製鉄の資料を読んだとか?」

「ええ、そうね。だって、全ての本を読んだもの。うふふ」

「いやいや……アクアス。否定するつもりはないが、それは読んだと言わんよ。見たと言うんだ」

「ちゃんと読んだわよ。一字一句全て覚えているもの。なんならもう一度本にできるわよ?」

「な、なんだと!」


 俺は言葉を失った。

 隣ではシルヴァが見たこともない表情で固まっている。


「だから、もし高炉を作ることになっても、私が設計図を描いてあげるから大丈夫よ。うふふ」


 俺とシルヴァは顔を見合わせた。

 アクアスが嘘を言うわけない。

 そもそも、人知を超えた存在だ。

 それは何でもありとも言う。


「ねえ、アレファスちゃん。今私のこと、化け物って思った?」

「お、思ってな――。いや、思うに決まってるだろ! おかしいだろ? 化け物だろ?」

「もう、酷いんだからあ」


 言葉とは真逆の表情を浮かべるアクアス。


「でも、フェルムちゃんが手伝ってくれるなら、加工は大丈夫だと思うけどね。うふふ」


 微笑みながら、アクアスはハーブティーを口にした。


 ★☆★☆★


 テラムがフェルム峡谷へ旅立ってからも、俺たちは村の再建を続けた。

 おかげで、今のところ新しい建物は必要ない。


 テラムが帰還した際に、高炉の建設で使用する材料も用意してある。

 耐火レンガも作った。

 全てアクアスの記憶に残っている情報だ。


 そのアクアスは、紙さえあれば本にすると言っている。

 今はまだそこまで手が回らないが、余裕ができたら紙作りにもチャレンジしてみようと思う。


「今日もよく働いたぜ」


 夕日が草原を赤く染めながら、地平線へ吸い込まれていく。

 今日の俺は、畑で農作業を中心に進めた。

 野菜の収穫も始まっている。

 テラム平原では、野菜の成長速度は通常の数倍だ。


「さて、温泉にでも入るかな」


 温泉を再建した際、俺は男女別とした。

 元々テラムは二日に一回くらいしか風呂に入らないし、今は不在だから、俺の貸し切り風呂になっている。


「この広い風呂を独り占めだ」


 俺は浴槽で手足を伸ばし、顔だけを湯から出す。


「くうう、最高だぜ」

「本当ね」

「そうねえ」


 二人の女の声が聞こえた。

 もちろん、シルヴァとアクアスだ。


「な、なんでお前らが入ってくるんだよ!」

「別にいいじゃないの」


 シルヴァとアクアスが、かけ湯をしている。

 俺はすぐに顔を背けた。


「いいわけないだろ! 何のために男女分けたと思ってんだよ!」


 俺の文句を無視して、二人は温泉に浸かり始めた。

 シルヴァが隣まで来て、俺の顔を真っ直ぐ見つめている。


「な、なんだよ」

「……ねえ、アレファス。前から不思議だったんだけど、あなたって興味ないの?」

「興味? なんのだよ」

「異性に興味はないのか聞いているのよ。ここに二人も絶世の美女がいるのよ?」


 確かに美女だが、片や三百五十歳で、片や三十六億歳だ。

 恋愛対象になるのだろうか。


「死にたい?」

「ち、ちげーっての!」


 シルヴァの言葉に、アクアスが笑っていた。


「うふふ。あなたたちは面白いわねえ」


 シルヴァも別に本気ではない。

 優しい笑みを浮かべている。


「そりゃ俺だって興味はあるさ。二人とも、今まで見たこともないほどの美人だしな」

「じゃあ、なんで手を出そうとしないの?」

「手を出すって……。言い方……。っていうか、普通そんなことしないだろ?」

「ふーん」

「まあつまりアレだ。そういうことは、ちゃんとした恋愛から自然と発展するものなんだよ。ははは」

「あなたは傭兵だったでしょう? 戦地へ行っていたのでしょう?」


 シルヴァの言いたいことは分かる。


 だが、俺は傭兵時代、略奪を禁じていた。

 戦争での略奪行為は、それはもう悲惨だ。

 財産どころか、人の尊厳までも奪う。

 女は襲われ、望まない子を生むことだってあった。


 戦争だからこそ、統治した後のことを考えるべきだと俺は考えていた。

 何のための戦争なのか。

 快楽や欲望のための略奪なら、蛮族や賊と変わらない。


「確かに俺は傭兵なんてやっていたが、信念は持っていたよ。だから、その時に自分が信じる勢力で戦う。まあ、結局は人を殺すし、言ってることは矛盾しているけどな。ははは」


 シルヴァが俺の肩に触れた。

 白く細い腕から湯気が立っている。


「あなたって、いい男ね」

「な、なんだよ。褒めたって何も出ねーよ」


 シルヴァが瞳を閉じると、その美しい顔が突然湯気で隠れた。

 微風の魔法を使ったのだろう。


「そんなんじゃないわよ……」


 その声色は低く、僅かに震えていた。

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