第35話 道具が欲しい
ルジェール王国の侵攻によって、一面焼け野原となったセディルナ村。
「ふう、なんとかここまで戻ったな」
俺たちが復興作業を始めてから、一か月が経過していた。
俺はまずログハウスを四軒建てた。
これは四人の自宅だ。
効率性を重視して作ったため、どれも全く同じデザインなのだが、早くも各自の個性が出ている。
特にテラムの家が酷い。
落ち着いたログハウスの外壁に、意味不明な装飾をしていた。
理由を聞いたら、強くなるからだという。
「なあ、シルヴァ。家が強くなるってなんだ?」
「テラム様はお家を守りたいのよ。もうあの悲劇を二度と起こさないようにね」
「お前のその解釈、良い方に飛躍しすぎだろ。あんなの派手に飾りつけたらかっこいいと思ってるガキと同じだ」
「そんなこと言わないの。テラム様は本当に優しいお方よ」
シルヴァは相変わらずテラムに甘い。
二人の過去に何があったか分からないが、そう思わせる何かがあったのだろう。
村の中心地には、集会場を兼ねた共同レストランと、その隣に温泉施設を建築した。
温泉は当然ながら男女別だ。
そして、納屋と水車小屋も完成。
区画を整理し、舗装路も作った。
「戻ったというより、以前よりも発展しているぞ。ははは」
ここまで復興が早かったのは、魔竜と魔女の力が大きい。
テラムが木材や石材、魔石の鉱石など、大量の素材を運んでくれた。
また、家畜となる動物を捕獲し、オリーブの木など運べる植物を原生地から移植。
テラムの食に対する執念は凄まじいものがあった。
畑に関しては、アクアスが水路を引き直した。
数十人の人間で取りかかっても数か月はかかる作業を、アクアスは一瞬で行ってしまう。
シルヴァは魔石に魔力を封入してくれた。
通常の魔法使いが扱う属性は、多くても二つと言われている。
大魔法使いと呼ばれる高名な魔法使いでも、三つか四つだそうだ。
しかし、驚くべきことに、シルヴァは全ての属性が使用できるという。
さすがは三百五十年も生きている魔人だ。
シルヴァのおかげで、これまで以上に便利な魔石が作られていった。
「魔竜と魔女っておかしいよな。人間なら数年かかることを一瞬でやっちまう」
「一番おかしいのはあなたよ。ろくに道具もないのに、家を建てて、畑を耕しているんだもの。ふふふ」
シルヴァが陶器のような白い右手を口に当て、笑っていた。
「な、なんだよ、仕方ねーだろ。でももう道具類は限界だ。これ以上は厳しいな」
道具類は襲撃で全て燃えてしまった。
斧や鍬、素振り用のクレイモアなど、辛うじて残った鉄の部分を再加工し、なんとか使用できるように工夫したのだが、さすがにもう限界だ。
俺は愛用のクレイモアすら、道具として使用していた。
名剣だったが、木を切り、岩を削り、畑を耕したことで、もう剣として使用できない。
狩猟した動物の角や爪も道具として加工した。
しかし、鉄に比べて耐久性が低く、すぐに破損してしまう。
「新しい鉄具が必要だ」
「どうするの? 鉄はさすがにないもの。街で買う?」
「金は全て燃えちまったから、街で買うことすらできない。それに正直、今の状況では人間と関わりたくない」
「そうね。全ての人間を憎んでいるわけではないけどね……。やっぱり醜い欲望を持つ人間という種族は好きになれないわね」
シルヴァの表情は、少しだけ悲しみを帯びていた。
あえて聞かないが、シルヴァが森に籠った理由にも関係するのだろう。
俺たちは人間に村を焼かれたばかりだ。
将来的に人間と関わることはあるかもしれないが、今は嫌悪感のほうが勝る。
「とはいえ、鉄具だけは買うしかないか……」
「アレファスよ、鉄が欲しいのか?」
テラムとアクアスが、こちらに歩いてきた。
「まあな。建築は木材があれば十分だが、道具類には鉄や鋼が必要だ。新たな剣も作りたいしな。フライパンや鍋だって鉄だ。調理器具に鉄は必須だぞ?」
「むっ、それは確かにな。では、フライパンを採りに行くぞ」
「お、お前なあ……」
こいつは鉱山にフライパンが埋まっているとでも思っているのだろうか?
「うふふ、テラムちゃん。フェルムちゃんに頼んでみたら?」
アクアスが微笑みながら、テラムを見つめていた。
「むっ、フェルムか。確かにそうだな」
「フェルムちゃんはあなたに懐いていたから、お願いすれば手伝ってくれるんじゃないの?」
「違うのだよ、姉上。フェルムは私よりも、マレム兄に懐いておったのだ」
「マレムちゃんかあ。あの子はまだ寝てるものね」
「マレム兄を起こすか?」
「マレムちゃんが起きれば、グラキャスちゃんも起きるでしょうね。うふふ」
「グ、グラキャス姉様!? も、もう少し寝ていてもらおう。わは、わははは」
俺には二人の話す内容が理解できない。
隣に立つシルヴァに視線を向けると、額から汗が滲んでいた。
どうやらシルヴァは理解しているようだ。
「なあ、シルヴァ。フェルムって何者なんだ?」
「お二人のお話を聞いていると、信じられない単語ばかりが出てくるのよね……」
「どういうことだ?」
「フェルム様は魔竜の一柱よ。真面目な三つ子の一柱で、フェルム峡谷が領地よ」
「フェルム峡谷? 初めて聞く名だな」
「世界最大の峡谷よ。でも、大陸が違うもの。この大陸にいたら行くことはないでしょうね」
テラムが腰に両手を当てながら、俺たちを見つめていた。
「フェルムは始原の十三竜の五男で末弟だ。真面目な三つ子の名の通り三つ子だぞ」
この世に十三柱いる魔竜。
普通に生きていれば遭うことはない存在だが、ここに二柱もいる。
魔竜の話を聞いても、俺は驚かなくなった。
「で、魔竜は分かったけど、どうしてそのフェルムに声をかけるんだ?」
「フェルムは鉄竜なのだ」
「鉄竜?」
「私は地竜、姉上は水竜。フェルムは鉄竜だ」
「つまり、鉄ってことか?」
「うむ、そうだ。この星には鉄が大量に含まれていてな。特にフェルム峡谷は鉄が豊富なのだ」
「だがよ、フェルム峡谷は別の大陸なんだろ?」
前回は全員でグラキャス氷河に移動したことで、ルジェール軍の襲撃を受けた。
さすがにもう襲撃はないと思うが、セディルナ村を留守にしたくない。
「フェルム峡谷までの移動距離を考えると、往復で一ヶ月以上かかる。この地を空けたくないからな。今回は私一人で行こう」
テラムも同じ考えのようで安心した。
「じゃあ悪いけど頼んだぜ、テラム」
「うむ、任せろ。大量のフライパンを持ち帰るぞ。わははは」
やっぱり勘違いしているテラム。
アクアスが微笑みながらテラムを見つめた。
「テラムちゃん。私の名前も出していいからね」
「助かるぞ、姉上。真面目なフェルムは、姉上のことを尊敬しているからな」
シルヴァが丁寧にお辞儀をした。
「テラム様、お気をつけていってらっしゃいませ。帰還する頃にはトウモロコシができていると思います」
「むっ、そうか。それは楽しみだ。わははは」
テラムが全員を見渡す。
「ではもう行ってくる。後は頼んだぞ」
魔竜の姿に戻ったテラムは、南東の空に向かって羽ばたいていった。




