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魔神と呼ばれた元傭兵のトンデモ開拓スローライフ 〜裏切られて引退したおっさん。一人で生きると決めたのに、最強種族が集まってくる〜  作者: 犬斗
第一章

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第27話 欲望の侵攻3

 テラム平原の上空を飛行するテラム。

 魔竜とはいえ、寝ずに六日間も飛行している。

 帰ったら旨いものでも作って労おう。


 窓から外を眺めると、見覚えのある景色が見え始めた。


「お、魔女の森が見えてきたぞ」

「あの森に名前なんてないわよ?」

「分かりやすいように、名前をつけたんだ」

「あのねえ、私はもう住んでないでしょ? 私の家はセディルナ村だもの」

「そうだったな。だが、三百年の歴史があるんだ。名前くらいつけてもいいだろう?」

「もう、勝手なんだから」


 呆れた声を出すシルヴァ。

 だが、どこか嬉しそうだった。


 シルヴァが三百年間、たった一人で住んでいた森だ。

 たくさんの思い出があるだろう。

 名前くらい残すべきだ。


「なあ、シルヴァ。そろそろセディルナ村に着く頃だろ?」

「ええ、そうね」


 六日ぶりのセディルナ村だ。

 この地に住んでから、これほど家を空けたことはない。

 今や故郷のような懐かしさを感じる。


「グゴォォ! グゴォォ!」


 珍しく飛行中にテラムが声を上げた。

 何かの合図のようだ。

 俺は窓から草原を見渡した。


「ん?」


 地平線の先から白煙が上がっている。

 火事だろうか。

 しかし、あの方角は……。


「な、なあ、シルヴァ。あの方角って俺たちの家だよな……」


 シルヴァが隣に立ち、窓の外を眺めた。


「確かにセディルナ村の方角ね」

「燃えているのは村か?」

「分からない。だけど、燃えるはずはないわ。火の後始末は行っているもの」


 アクアスも立ち上がり、窓の外を眺める。

 その表情が僅かに曇った。


「外部的な要因ということかしら?」

「外部的って?」

「襲われたとか」

「そ、そんなわけねーだろ! 魔竜領だぞ!」


 突然、テラムの飛行スピードが上がった。


「きゃっ!」


 シルヴァがバランスを崩し、大きくよろめく。

 俺はすぐに手を伸ばし、シルヴァが転ぶ前に肩を抱いた。


「あ、ありがとう。アレファス」

「ここで騒いでも仕方がないか。テラムに任せて、俺たちは座っていよう」

「ええ、そうね」


 小屋は揺れない魔法がかかっているが、それでも大きく揺れていた。


 ***


 俺たちはセディルナ村に到着した。


 いや、セディルナ村だった場所だ。

 目の前にあるものは、完全に焼け焦げた廃墟のみ。


「な、なんだこれは……」


 ログハウスは全て焼け落ちている。

 テラムの巨木だけが未だに燻っており、白煙を上げていた。

 池は瓦礫で埋め立てられ、踏み潰された畑は見る影もない。


 何より、シルヴァの家が焼失していたことが衝撃だ。


「シルヴァの家が……」

「ええ、全部燃えてしまったようね」


 シルヴァの貴重な薬や数万冊の本など、三百年以上の研究と収集が全て燃えた。

 炭となった自宅から、一切目を離さないシルヴァ。


「シルヴァ、大丈夫か?」

「燃えてしまったものは仕方がないわ……。さすがに、復元は不可能……だも……の」


 シルヴァの頬から一筋の雫が流れた。


「お、おい、シルヴァ」

「ごめんなさい。私の全てだったから……ごめんなさい」


 あの家に、シルヴァの歴史と想いが詰まっていただろう。


「シルヴァ……」

「うぅ……。ごめんなさい……」


 俺はシルヴァをそっと抱きかかえた。

 俺の胸で、声を押し殺して涙を流すシルヴァ。


 魔人化したテラムに視線を向けると、拳を握り締めながら、ツリーハウスだった大木を眺めている。


「テラム、これは侵略か?」

「そうだな……。私が迂闊だった。許せ、シルヴァ」


 あの傍若無人のテラムが、シルヴァに頭を下げた。


「そ、そんな! テラム様のせいではありません!」


 シルヴァはすぐに涙を拭い、テラムに頭を上げるよう促した。

 気丈な態度が逆に痛々しい。


 テラムが唇を噛み締めながら、俺に視線を向けた。


「アレファス。侵入者どもは、今も我が領地にいるようだぞ」

「なに? なら話は簡単だ。この落とし前をつける」

「待て、アレファス。私の領地だ。侵入者の始末は私がする」


 拳を握りしめるテラムの額に、血管が浮かび上がっている。

 だが、俺は右手を挙げ、テラムを制した。


「俺の畑だ。俺がやる」


 俺は思い出していた。

 初めてこの地で畑を耕し、種を蒔いたこと。

 芽が出た時の喜び。

 想像以上の早さで成長していく野菜の姿。

 初収穫の感動。


 あの畑はもう戻らない。


「アレファスちゃん……」


 俺の肩に優しく手を乗せるアクアス。

 いつものように微笑んでいるが、その目は笑っていない。


「人間は本当にバカね。もう絶滅させようかしら」


 温厚なアクアスの怒りを初めて見た。

 アクアスなら、人間を滅ぼすことなど容易いのかもしれない。


「テラム。侵略者どもは平原にいるんだろ? 案内してくれ」

「うむ、いいだろう」

「私も行きます」

「みんなで行くわよ。私もね、怒ってるのよ」


 相手は恐らく軍隊だ。

 対魔竜の準備もしているだろう。

 移動用の小屋では、対空兵器で危険かもしれない。


「テラム。掌に乗せてもらえるか?」

「分かった」


 テラムが魔竜の姿に戻ると、掌を広げた。

 俺たち三人は手のひらに乗る。


「グゴォォ!」


 テラムの咆哮で、俺たちは壊滅したセディルナ村を出発した。

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