009
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「浮幽霊」
自分が詳しく知っているのか物凄く得意げな感じで、されどその表情の中にはどこか面倒くさそうにそこまで高くない声で霊媒師の幽幻威弦さんは、そう言った。別に自慢気に話しているわけでもなさそうだけど、まぁ僕も浮幽霊ぐらいなら知ってるからな。
「浮幽霊・・・」
「そう浮幽霊。この世に未練があって、この世にいるんだから間違いない。まぁ死んだことを自覚しているかしてないかは知らないけどね。」
未練があるのは知っている。
「だから、その子は霊の中でも浮幽霊に分類されるね。しかも浮幽霊の中でも周りに影響を与えるタイプのね。」
「影響を与える・・・」
影響。霊というのものに種類があることは知っていたけどタイプまでもがあるのか。
「そして、その子は歩いているだけで、この世にいるだけでその子の近くにいた子供は絶対親とはぐれるんだ。君はその子と結構な時間、一緒にいたんだから一人ぐらいは見てるんじゃないのかい?」
確かに見ている。
しかも一人どころか十人くらい見ている。
でも、それが夢花ちゃんのせいだとは思わなかった。
「その子が歩いていると被害が拡大しちゃうんだ。だから、うちはずっと探していたというわけさ。こんな遠い所まで来て大変だったよ。地縛霊だったら被害も少なくて済んだし、うちの仕事も楽だったのに。」
「夢花ちゃんをどうする気ですか?」
「さっきも言ったけど徐霊するだけさ。それで一件落着、大団円。」
僕は夢花ちゃんを見る―もう震えても怯えてもいないけど口を開こうとせず、ずっと黙っている。
「ほら。これで事情も理由も用もわかっただろう。だから早く、その幽霊ちゃんを渡してもらおうか。」
・・・・・・。
「・・・お断りします。」
ここで見捨てるわけにはいけないよな。
「物分かりはいいと思ったけど、いやはや強情なんだね。」
「ええ僕は強情ですよ。」
「一応、言っておくけど、うちは温厚じゃないよ。仕事をこなす為なら周りは傷ついてもいいと思ってる。それは一般人も関係ない。うちは暴力的だから君を打っ飛ばしてから徐霊してもいいわけなんだよね。」
君が邪魔をするならね。と凄惨な笑みを浮かべながら言う霊媒師の幽弦さん。
何がいいだ。いいわけあるか。
たとえ神様仏様が許しても僕が許さないからな。
そりゃあそうか。じゃなきゃ僕が殺されてしまう。
「どうする?それでもまだ邪魔をするかい?」
・・・・・・。
どうする。
僕は正直、力には自信がないんだよな。
それに格闘技を全くやっていない僕でもわかる。
この人・・・ヤバい。
かなり喧嘩慣れしてるっていうか凄い暴力的っていうか、なんかもう凄い素人な表現になってしまうけど、かなり強いってことが分かる。
僕は夢花ちゃんを見た。
また若干だけど震えてる。
それでも力いっぱい僕の指を握ってる。
僕は前に出る―そして構える。
「へぇ~、ここまで言ってるのに邪魔するんだ。いい覚悟だね―その覚悟だけは認めてあげる・・・けど、それは勇気と呼ばないよ。それは無謀というんだ。」
確かにそうだ。この人に勝てる気がしない。この覇気と威圧はド素人な僕にでも十分伝わってくる。
でも―
「それでも僕は夢花ちゃんを渡しません。」
絶対に。
そう言い切って死を覚悟した。
ああ、死んだ。
そう思っていたけど死んでない。
「・・・。どうしてそこまでして幽霊ちゃんを庇うんだい?まだ会って半日と経っていないだろう。それなのにどうして命をかけられる?君には何のメリットも無いはずだけど。」
どうして?だと。
そんなの考えた事も無かったな―だって
「約束したから。お母さんを一緒に探すと・・・。それにお母さんに会えたら成仏できる可能性があるんだったら僕は夢花ちゃんを助けたい。ある意味これは夢花ちゃんからの人生相談なんです。」
メリットなんて関係ない。
「そして相談事なら僕の専門分野です。あなたの専門が徐霊なら僕の専門は相談です。」
解決する方だけどね。
「ふ~ん。つまり君にも誇りがあるというわけか。てっきり、うちは君がロリコンだから乗りかかった船にずっと乗り続けているものだと思っていたよ。けど、そうじゃない。いやはや安心したよ。」
・・・なんか勝手に勘違いされた挙句に安心されてしまった。
「それなら賭けようか。うちにも誇りがあるからね、譲れないんだよ。」
賭け?・・・ん?今思えば誇りと譲るって漢字で書くと意外と似てるな。・・・って関係ない事を思ってしまった。
「ん~。この感じだと今は二時くらいかな。」
眼をつむってそう言う幽弦さん。
僕は時計を見る・・・!
確かに今、午後一時五十八分だ・・・凄い。
「君に三時間だけあげる。それまでに母親を見つけるなり、なんなりして成仏させてみなよ。その間は手を出さないからさ。」
三時間・・・午後五時までか。
「そのかわり、五時になったら力ずくでも、うちが成仏させるから。君を殺してでもね。」
殺してでもって怖い事を平気で言うなこの人。
でも嘘じゃないんだろうな。
「わかりました。三時間で僕が夢花ちゃんを成仏させてみせます。男同士の約束です。」
「別にうちは男じゃないけどね。男勝りではあるけど。」
確かにいろんな意味で男勝りだ。
「せいぜい頑張りなよ。」
「まぁ手掛かりはほとんどないと思うから無理だと思うけどね。」
手掛かりがほとんどない?
「どういうことですか?」
僕が質問したのに対して幽弦さんは去り際に応えた。
「だってその子が死んだのって二年前なんだから。」




