2、サナギになりました
時が流れるのは早いもので、私が青虫になってから一年もたった。
その間は特に何も起こらず、平和だった。
え? サナギにはならないのかって?
まだなってませんよ。ええ。
異世界ですからね。
いつサナギになるかなんて知りませんよ。
ハニーさんやダーリンも教えてくれませんし。
別に、生活するのに困らないからいいんだけど。
「エヴァ、ごはんの時間よ」
ハニーさんがそう言いながら葉っぱが盛られた籠を私の前に置いた。
「うにー」
やった、飯だぜ。
青虫の姿じゃ何もできないから、ごはんの時間が一番の楽しみ。
それ以外の時間はたいてい寝ている。
あ、あと、なんか、うにーって言えるようになった。
初めてうにーって言った時、ハニーさんとダーリンは大喜びしていたな。
『ダーリン! エヴァが喋ったわ!』『本当か!? 早いじゃないか! 普通なら一年はかかるのに、二か月で喋るなんて、さすがエヴァ!!』
とか何とか。
えっ、普通なら一年もかかるの!? さすが異世界……。
なんて思ってしまった。
「おいしい? 今日はね、ダーリンが朝早くとってきてくれた葉よ」
ハニーさんがニコニコと微笑みながら言った。
ダーリン……。見直したよ。
こんなにおいしい葉っぱをとってくるなんて。
うま! めっちゃうまい。
「うに、うにー!」
うまいです。美味しいです。
私がそう言うと、ハニーさんは顔を輝かせて笑みを深めた。
「ダーリン! エヴァが美味しいって!」
ハニーさんは椅子に座り、本を呼んでいるダーリンに声をかけた。
「ん? 何だって?」
本に夢中だったダーリンは、ハニーさんにもう一度聞き返した。
「エヴァが、美味しいって!」
ハニーさんは、満面の笑みでダーリンにそう言った。
「そうか! それは良かった! それを探すのに苦労したんだぞ」
ダーリンも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「うにー」
ありがとうございます。
わざわざこんなおいしい葉をとってきていただいて。
とっても美味しい葉だよ。
「どんどん食べて大きくなるんだぞ」
ダーリンは嬉しそうにそう言う。
何!? 私を太らせようとしているのか!?
そ、そりゃ最近、やけに大きくなってきてるけど……。
気にしてるんだぞ!
私も乙女だ! 絶対痩せてやる!
「最近大きくなってきてるし、そろそろじゃない? ダーリン」
「そうだね。そろそろかな?」
「早いわね、エヴァは。もうこんなに大きくなって……」
「あっと言う間だったね」
ん? どうしたんだ?
そろそろって何が? ねぇ、何が?
「うにー?」
「あらエヴァ、気にしなくていいのよ」
「そうだよエヴァ。そのうち分かるから」
ハニーさんとダーリンは、悲しそうに微笑みながら言った。
え? 何かあるの?
教えてくれたっていいじゃないか!
教えてくれよ。
「うにー」
「大丈夫よエヴァ。心配しないで」
「皆、そうなるんだから」
皆? ってことは……何?
全くわからん。
「さぁ、お腹一杯でしょ。そろそろ寝なさい」
ハニーさんはそう言うと、私を優しくなでてくれた。
う~~、眠い。
わかりました。寝ます。
おやすみなさい。
おはようございます。
って、あれ?
ここどこ?
何でこんなに暗いの?
まさか、誘拐!?
でも、私なんか攫う人、居ないよね。
いたとしたら変人だ。
ハニーさんー、ダーリーン!
何処にもいないの?
いつもなら、私が呼んだらまっすぐに来てくれるのに……。
たとえ、寝ていようが、外に居ようが。
おかしい。
やけに暖かいし、ぬくぬくしてる。
よし、昨日の事を思い出そう。
えっと、ごはん食べて、そのごはんがめちゃくちゃうまくて、私が大きくなった事をハニーさんとダーリンが悲しそうにしてて、そろそろって何が? ってきいたら誤魔化されて、そんでもって、寝かしつけられて……。
ん? そろそろって、これの事じゃない?
でも、何だろう……?
暖かい、真っ暗、あと、狭い。
んー、私は青虫でしょ? ってことは……。
ま、まさか、私、サナギになったの?
マジか!? しばらく待てば、羽化するんじゃない!?
やった!
やっと、やっとサナギに……。
あぁ、嬉しい。
クソ嬉しい。
それなら、いくらでも待てるな。
よし、とりあえず、寝よう。
おやすみ。
暇だ。
することない。
寝ることしかできない。
何もないし、狭いから動けないし。
嬉しいけど、嬉しいけど……暇だ!!
今何時なのかわからんし、サナギになってから何日目なのかも分からん。
あぁ、早くこの地獄から出たいな。




